八谷好高客員研究員(SCOPE)
前回までに空港舗装マネジメントシステムのうちの舗装の評価ならびに保全に関する技術について紹介しました。この評価・保全技術は舗装自体の長期間にわたる性能を対象にしたものとなっていますが、その一部は日常的な舗装の点検・保全業務においても使用されています。日常的な点検・保全に関する技術は航空機運航の安全性を確保するという点に重点を置くものとなっており、舗装マネジメントシステムにおけるものとはいく分異なったものとなっています。また、国、地域、空港等によっても違いが見られます。そこで、今回は、空港舗装マネジメントシステムと日常的な空港運用における舗装の点検・評価・保全技術について、二つの事例を取り上げて紹介することにします。
本テーマに関する最初のコラムに記したように、米国では空港舗装の大規模補修ならびに打換え時に連邦予算を要求する場合には空港舗装メンテナンスマネジメントプログラムを備えていることが必須要件となっている。これがワシントン州管理空港にも当てはまることは言うまでもない。
この空港舗装メンテナンスマネジメントプログラムは連邦航空局のAdvisory Circular (AC 150/5380-7B)に規定されており、最低でも次のような事項を備えていなければならない。
舗装一覧表
滑走路・誘導路・エプロンの位置、寸法、舗装種類、新設時期または最新補修時期、連邦予算使用の有無を明示する。
舗装点検
詳細点検と車上点検の2種類があり、どちらも定期的に実施する。
- 詳細点検:研修を受けた人員により毎年1回実施する。PCIを使用する場合には3年ごとに実施する。
- 車上点検:毎月1回実施する。舗装状態の予期せぬ変化を検出することを目的とする。
記録・保管
舗装に関する情報は、次のとおり記録・保管する。
- 情報:詳細点検と維持工事に関する情報を対象とする。
- 記録内容:点検を実施した日付と位置、損傷の種類、実施した維持工事の種類を最低限記録する。車上点検の場合は点検の日付と維持工事の種類を記録する。
- 記録形式:損傷の種類と位置、維持補修工事は、計画どおりのもの、突発的なものに関わらず、形式を定めて記録する。
- 保管期間:得られた情報は少なくとも5年間保管する。
情報検索
FAAから情報提供の要求があったときに迅速な対応が可能となるような情報保管・検索の仕組みを構築する。
米国ワシントン州管理空港の舗装マネジメントプログラムには、対話型データ交換アプリケーション (Interactive Data Exchange Application、 IDEA)が使用されている。IDEAは、その構成が次のようなものであり、ワシントン州交通局のウェブサイト上で利用可能である。
調査時点の舗装一覧表と舗装状態の評価
- 舗装の詳細情報:対象となる舗装インフラならびにその位置、断面、供用期間、状態等を記録する。
- 視覚情報:舗装セクションの平面図、点検時の写真、工事履歴情報を記録・登録する。
損傷原因の特定と適切な保全工事の決定
- 評価結果:全体的PCIならびに損傷の種類、程度、数量、原因を記録する。
- PCIレビュー:規準、損傷原因、推奨維持補修工事が出力として得られる。
維持計画の策定
- 維持計画:1年間程度の短期的な局所的予防保全計画が得られる。これは、州内全空港を対象として、メンテナンス方針とユニットコストが考慮されたものである。維持計画については毎年再検討する。
補修計画の策定
- 補修計画:長期的な維持補修計画において推奨される補修計画が得られる。これは、材料等費用の地域差、予算上限は考慮されたものではない。
舗装状態の継続観察・維持計画の策定
- 点検方法:車上からの点検を毎月実施する。
- 記録内容:観察された損傷、必要な維持工事、前回以降実施された維持工事を記録する。
維持補修工事予算獲得に必要となる作業の実施
- 連邦予算獲得戦略:工事に必要な予算が自前で調達できないときに策定する。
計画の実行
- 維持補修計画:短期的ならびに長期的な維持補修計画を最終的に決定する。
舗装の損傷程度については、以前のコラムで紹介したPCIにより定量化することが基本となっている。これに加えて、航空機運航の安全性を確保する上で注目する損傷として、航空機タイヤ破損、FOD(舗装上異物)発生、路面摩擦力低下、航空機操縦性悪化、航空機ハイドロプレーニングに至る危険性のある損傷を取り上げている。この損傷については発見次第、保全工事を実施するとともに、その状況についてワシントン州交通局空港担当部局とFAAへ通報する必要がある。該当する損傷ならびにそれが航空機運航に及ぼすリスクと発見時の対応方法を、アスファルト舗装、コンクリート舗装、それぞれの場合について表-1、表-2に示す。
オーストラリア空軍の飛行場舗装に関しては次の二つの面から満たすべき性能が示されている。
飛行場舗装に対する機能面からの要求
舗装自体の機能面からの要求事項としては次の項目が示されている。これらについては舗装マネジメントシステムの対象になっているものと考えられる。
- 荷重に対する路床の保護
- 環境に対する路床の保護
- 表層材料の分離・剥離がないこと
- 乗り心地
- 表面排水
- テクスチャとすべり抵抗性
- 耐久性・信頼性
飛行場舗装に対する航空機運航面からの要求
航空機運航面からの要求事項としては、次のように施設種別ごとに具体的なものが示されている。これらについては、損傷発生の可能性と損傷が航空機運航に及ぼす影響を考慮した舗装状態点検システムにより対応するものとなっている。
滑走路・誘導路
- 良好な乗り心地
- 十分な摩擦特性
- 排水性
- 骨材の分離・剥離がないこと
エプロン
- 水たまりがないこと
- 段差・くぼみがないこと
- 骨材の分離・剥離がないこと
- 耐油性のある舗装表面
- 急転回・長時間駐機に対応した舗装材料
- 適切な目地材
- 静止荷重による局部的残留変形がないこと
ショルダー
- エロージョン・FODがないこと
- ジェットブラスト・航空機の(万一の)走行に対応できること
オーストラリア空軍飛行場の舗装マネジメントシステムは、次の四つの要素により構成されている。
舗装状態点検プログラム
全体的プログラムと個別対応プログラムの二つに分けられている。
保全工事
第一段階から第三段階までの三層構造となっている。
舗装使用許可プログラム
過大荷重となる航空機あるいはタイヤ圧の高い航空機の乗入れ可否の判断と行うとともに、各舗装施設のPCN (Pavement Classification Number)を決定する。
中央技術情報保管システム
飛行場舗装の建設、マネジメント、保全に関する全ての技術的情報を収集・保管するために、イントラネットとして整備されている。
全体的プログラム
- 点検頻度:主要飛行場は毎年、それ以外は2~3年ごとに実施する。
- 保全工事時期:即時、短期的、長期的の3種類に分類する。
- 即時対応:発見された損傷が保全必要と判断されたときには直ちに対応する。
個別対応プログラム
- 点検頻度:点検は日・週・月・年単位で実施する。特に、月・年単位の場合は、点検レベルとチーム編成を調整する。
記録
- 重要事項:観察日時、位置、状況については時系列的に記録する。具体的には、損傷面積、措置方法、維持補修状況、水たまり状況、鳥(死がいも)等である。
- データベース:取得したデータは中央技術情報保管システムを用いてデータベース化する。
第一段階 (Regional)
- 実施内容:緊急保全工事または軽度保全工事。具体的には、除草剤散布、マーキング、ひび割れシール等である。
第二段階 (National)
- 実施内容:予防保全。1~2年ごとに実施する。
第三段階 (National Capital)
- 実施内容:再建設。 12~20年間隔で実施し、オーバーレイも含まれる。
飛行場舗装の状態を定量的に表すために、飛行場舗装状態評価システム (Airfield Pavement Condition Rating System、 APCRS)が整備されている。
評価方法:目視による。舗装種別ごとに表-3、4に示す規準により舗装評価が行われる。
対象となる点検:年単位での点検。
結果の利用方法:損傷の進行状況の予測ならびに主たる保全工事の実施時期の推定に利用する。表-5は、主たる保全工事が必要となるときのAPCRSによる評価値である。
上記の舗装自体の機能面に関する評価と考えられるAPCRSとは別に、損傷の重大さとそれが航空機運航に及ぼすリスクを考慮した舗装状態の点検方法として、運航リスク・舗装損傷評価法 (General Aircraft Pavement Maintenance Risk Assessment Process、 GAPMRAP)が整備されている。主な特徴は次のとおりである。
点検頻度:主要飛行場は毎年、それ以外は2~3年ごとに実施する。
点検方法:目視による。各飛行場について1~2日間で実施する。
報告事項:舗装状態評価、維持補修工事の種類・範囲を報告する。点検時に発見した主要事項ならびに即時対応が必要な事項については5日以内に報告する必要がある。
次のような損傷・事象が舗装点検・報告の対象となる。
舗装の損傷、舗装の状況
横断形状、排水の状況
舗装表面の状況・FODの危険性
コンクリート版の目地・アスファルト表層の継目の状況
乗り心地、滑走路のゴム付着状況
APCRSによる損傷の評価値
雑草の状況、マーキングの状況
設備の状況(灯器ケーブル、タイダウン、アース)
RESA・着陸帯の状況
過去の工事(補修含む)との比較
GAPMRAPにおいては、損傷の発生の可能性とそれが航空機運航に及ぼす影響の両方を考慮して舗装損傷のリスクが定められている。具体的には、極大、大、中、小の四段階で評価するようになっている(表-6)。
損傷発生の可能性と航空機運航に及ぼす影響の両方を考慮した損傷リスクと舗装自体の機能を考慮したAPCRSによる損傷評価値(損傷レベル)に基づいて、保全工事が推奨されている。具体的には、表-7に示すとおり、舗装の損傷を四種類に分類して、推奨される保全工事の時期と内容が規定されている。
(続きは次回)
参考資料
• Airport Pavement Management Program (PMP), AC 150/5380-7B, FAA, 2014.
• Washington Airport Pavement Management Manual, Washington State Department of Transportation, 2013.
• Airfield Pavement Maintenance Manual, Australian Government, Department of Defense, 2015.