八谷好高客員研究員(SCOPE)
今回は舗装インフラの保全技術について紹介します。舗装は供用を開始した後比較的早い時期に保全工事を繰り返し行うことが必要となる社会インフラで、その保全技術の重要性が極めて高いものとなっています。
本テーマに関する最初のコラム(2015年11月)に記したように、米国各地の50空港から得られた空港の舗装インフラに関するアンケートの回答では、アスファルト舗装、コンクリート舗装が用いられている空港の割合は図-1に示すようになっている。すなわち、空港全体の70%では、アスファルト舗装、コンクリート舗装の両方が用いられており、滑走路だけに注目すると、全体の30%でアスファルト、コンクリート舗装の両方が、50%ではアスファルト舗装だけが、20%ではコンクリート舗装だけが用いられている。サンプル数の不足、性能評価のための客観的ガイドラインの不備といった点が懸念されるものの、舗装インフラの保全技術の全体的な傾向を把握する上では今回のアンケートは有用であると思われる。
これら50空港で採用されている(一部試行も含む)舗装保全技術に関するアンケートの結果を表-1(アスファルト舗装)と表-2(コンクリート舗装)にまとめた。採用実績の比較的多い舗装保全技術として取り上げられたものは、アスファルト舗装、コンクリート舗装とも、19種類である。なお、従来「予防保全技術」とされている工法はイタリック文字で示している。
表中の数字は、対象となっている保全技術が採用されている空港の割合とその技術の性能についての評価結果の割合を意味している。たとえば、表-1の1行目のデータは、アスファルト舗装が用いられている空港全体の84%では加熱型シーラントによるひび割れシールが日常的に使用されているが、11%では試行に止まり、5%では使用されていないことを示している。さらに、この技術が日常的に使用されたり、試行されたりしている空港のうち、19%ではその性能が非常に良好と評価され、71%では良好、10%では不良と評価されていることを示している。
舗装保全技術の採用実績に関する調査から、米国の空港全体における保全技術の使用実態が浮かび上がる。たとえば、アスファルト舗装が用いられている空港の84%では加熱型シーラントによるひび割れシールが日常的に使用されており、コンクリート舗装が用いられている空港の61%ではシリコンシーラントによる目地シールが日常的にまたは試行的に使用されている。また、舗装面の摩擦係数を増加させるといったいくつかの保全技術は、空港の規模や交通量により、採用の有無、使用の頻度が左右される。すなわち、コンクリート舗装が用いられている空港全体の39%でダイヤモンドグラインディングが使用されているとなっているが、小規模空港ではその使用割合はおそらく相当に小さくなるだろうし、反対に大規模空港では相当に大きくなっていると思われる。
空港全体での採用実績が15%未満となっている舗装保全技術は、アスファルト舗装では、スプレイパッチング、切削による粗面化、マイクロサーフェシング、路上表層再生(加熱式ならびに常温式)、ホワイトトッピングの6種類、コンクリート舗装では、荷重伝達性能回復(サブシーリングならびにバースティッチングによる)、全層打換え(プレキャスト版による)、マイクロサーフェシングの4種類である。
アスファルト舗装とコンクリート舗装のそれぞれについての保全技術に関する性能評価の結果を表-3に示す。アスファルト舗装とコンクリート舗装の違いによる評価結果にはほとんど差がなく、いずれも全体のほぼ60%では性能が良好と評価され、ほぼ10%では不良と評価されている。
多くの空港で採用実績のある保全技術については、性能の比較をある程度精度高く行うことができる。たとえば、コンクリート舗装の50%ではコンクリートまたはアスファルト混合物によるパッチングが日常的に使用されているが、図-2から明らかなように、コンクリートを使用することが性能の点からは推奨される。
表-1と表-2に記載されていない革新的な舗装保全技術として、次のようなものが採用された実績がある。
• アスファルトオーバーレイのリフレクションクラック発生を遅らせることのできる応力緩和層(メンブレン)
• アスファルトオーバーレイ用材料
• フライアッシュおよびスラグ混合セメント
• 粒状材によるショルダーを安定させるための若返り剤(アスファルト乳剤)
• ファイバー含有シーラントによるアスファルト舗装のひび割れのオーバーバンド処理 *
• 熱可塑性耐油性乳剤によるスラリーシール
• レジンアスファルト含有の耐油性アスファルト混合物
• 中温化アスファルト混合物
• 摩擦係数を改善するためのアスファルト舗装面の横断方向グルービング
• アスファルト舗装の幅の広いまたは劣化の進んだひび割れの特殊補修技術
• 様々な種類のフォグシール
• アスファルト舗装の大きなひび割れ補修用のアスファルト混合物
• パッチング補修用のアスファルト混合物とコンクリート
表-1と表-2に示したいくつかの保全技術、たとえばマイクロサーフェシングやショットブラストは、実施方法を少し変更することによって、アスファルト舗装、コンクリート舗装の両方に適用できる。そのため、これらの表に示した38種類の保全技術は、表-4に示す24種類に統合できることになる。
以下では、これらについて具体的に紹介する。
• ショットブラストによる粗面化 (Texturization Using Shot Blasting)
ショットブラストは摩耗用粒子を舗装表面に吹き付ける自動回転装置を使用した粗面化装置である。舗装表面に付着したゴムや過剰なアスファルトのような付着物を除去したり、損傷した表面部分を切削したりして、ミクロ・マクロ両方のテクスチャを回復することを目的としている。アスファルト、コンクリート両方の舗装のすべり摩擦係数を回復するために使用される。
• ダイヤモンドグラインディング (Diamond Grinding)
ダイヤモンドグラインディング(研掃)は、ダイヤモンドカッターを用いて舗装の浅い部分の材料を除去するとともに舗装表面に間隔の狭いグルービングを設ける補修手法である。
• マイクロサーフェシング (Microsurfacing)
非加熱のポリマー改質アスファルト乳剤、高品質骨材、フィラー、水およびその他の添加剤の混合物で、スラリーとして舗装上に敷き均される。トラックに積載された自動連続混合装置を用いて施工される。スラリーシールに使用される骨材骨格は、高品質の噛み合わせ効果のある砕石により構成される。スラリーシールの厚さは、永久変形の危険性がないように、骨材の最大粒径より厚くする必要がある。
注)
* オーバーバンド(over-band)はひび割れのシール方法の一つであり。下図のようなものが一般的である (MTAG)
(続きは次回)
参考資料
• Common Airport Pavement Maintenance Practices, Airport Cooperative Research Program Synthesis 22, 2011.
• Maintenance Technical Advisory Guide (MTAG) Volume I - Flexible Pavement Preservation Second Edition, California Department of Transportation, 2008.