八谷好高客員研究員(SCOPE)
今回も空港舗装インフラの評価を取り上げます。前回紹介しました舗装の表面損傷以外の評価対象項目を紹介したあと、舗装性能の予測とモデル化についてまとめます。
滑走路等の舗装の縦断方向の凹凸(プロファイル)は、航空機の機体の疲労度を増加させ、航空機の制動性能を低下させ、パイロットの航空機の操縦しやすさに影響を与え、乗客にも不快感を与える危険性があることから、通常ラフネス(roughness)と称される。舗装ラフネスに対する航空機の応答は、航空機の種類、質量、速度ならびに航空機内の位置によって異なっているが、ラフネスを改善するために実施される保全工事は、通常パイロットの意見に基づいて、すなわち操縦席位置での応答に基づいて計画・実行される。
新設の空港舗装の場合には舗装ラフネスの測定方法と規格値が規定されている(AC 150/5300-13)。また、供用中の舗装の場合には、ボーイング社提案のBump Indexによる評価方法が規定されている(AC 150/5320-9)。ただし、これは一つの(独立した)凹凸を対象にしており、繰り返し現れる凹凸に対応したものではない。
なお、滑走路や誘導路のプロファイルを測定するための慣性プロファイルシステムと、測定されたプロファイルを分析するためのコンピュータプログラムProFAA (Profile Federal Aviation Administration)がFAAにより開発されている。このプログラムを使用することにより測定データからBump Index等のラフネス指数を計算することができる。
舗装表面の摩擦(すべり抵抗性)は、舗装表面が湿潤状態にあるとき、航空機、特に質量が大きく、走行速度も大きいジェット航空機にとって安全運航上重大な懸念事項である。通常滑走路を対象に評価が行われる。
すべり抵抗性に優れた舗装表面の設計指針、供用中の舗装表面の摩擦係数の測定ならびに評価方法が規定されており(AC 150/5320-12C)、航空機の安全運航に必要となる摩擦レベル(許容最小、保全計画、新設の3種類)* が具体的に定められている。この摩擦レベルは保全方策を適切に計画・実行する際に使用できるものであり、表-1にいくつかの測定装置の場合の規準値を示している(湿潤舗装表面、65km/h・95km/hは測定装置の走行速度)。
空港舗装の構造強度(荷重支持力)は、ACN-PCN法を使用して評価される(AC 150/5335-5c)。PCN (Pavement Classification Index)は舗装構造の相対的強度(支持力)を表し、ACN (Aircraft Classification Index)は航空機の舗装構造に関する相対的な影響を表している。なお、PCNによる方法は通常舗装保全計画策定時には使用されない。
供用中の空港舗装の場合は、非破壊試験装置の一つであるフォーリングウェイトデフレクトメータ(Falling Weight Deflectometer、 FWD)を用いてネットワークレベルでの評価が定期的に実施されている。FWDによる評価方法は、舗装に荷重が加わることにより生ずるたわみ曲面(図-1では曲線)が舗装を構成する各層の厚さや材料特性により異なることに注目して、舗装荷重支持力の評価を行うものである(AC 150/5370-11B)。
舗装上の異物破片(FOD **)は、航空機等に損傷を与える危険性があることから、FOD Potential Ratingを使って評価される。FODは特にエンジン位置が低い航空機にとってより重要な問題である。なお、FOD Potential Ratingは通常主要空港では使用されない。
舗装状態は上記各評価項目のデータを使用して総合的に解析される必要がある。これにより次のような事項が明らかになる。
●舗装ネットワーク全体の状況
空港全体の舗装のPCIを図化することにより全体概要が把握できる。
●舗装状態の傾向
舗装ネットワーク全体における舗装状態の経時変化は、舗装保全工事に対する投資とその効果の関連性を示すものである。図-2は3年ごとに実施した舗装状態の評価に基づくPCIの経時変化である。これによれば、滑走路では舗装状態は保全工事により改善しているが、他の施設では改善はみられていないことがわかる。
●システムの利点
APMSを導入していることの利点が明確化でき、APMSに係る予算確保に役立つ。
●工事資金の必要性
工事資金の必要性を判定するための基本的データが得られる。
●舗装性能の技術的特徴
次のような技術的項目が評価できる。
- 舗装排水不良や舗装材料の不良といった舗装劣化の主原因
- 初期舗装構造や供用後の保全工事の良否
- 舗装の種類、使用箇所(施設)および保全工事ごとの舗装の劣化率
- 荷重支持力が不十分な舗装の区間
舗装の損傷の種類、ひどさおよび範囲に基づく舗装状態に関する調査(PCI)の結果は予防保全工事の計画立案にも使用される。しかし、予防保全工事を適切に選択・実施するためには、予防保全工事が必要となるときの舗装の状態、兆候といったものを識別することが必要となる。
予防保全工事は、通常損傷が進行して、費用の高い補修工事が必要となる前の、対費用効果が最も高い時点で行うのが効果的である。たとえば、アスファルト舗装のひび割れのシーリング工事は、すでに発生しているひび割れが複数になるまで、またはひび割れ幅が10mm程度になるまでに行う必要がある。舗装表層(表面部分)工事後の最初の保全工事は、通常3~5年経過時に行われている。予防保全工事の対象区間と時期を選定するためには、舗装の損傷状態の調査は毎年行うのが最も効果的である。
舗装の保全計画を立案するためには、将来の保全工事の必要性を推定しなければならない。計画期間は通常5年であるが、いくつかの大規模空港では主要な滑走路を対象として最長15年までの舗装保全計画を作成することも必要となろう。
将来の舗装の性能や劣化状況は舗装性能モデルを使用することにより予測できる。将来の舗装性能を予測することは次の点から有用である。
●保全工事の必要時期
舗装性能は、種々の条件により図-3に示す性能曲線のように異なったものとなることから、その予測を適切に行うことが必要となる。この例では、舗装A、Bの両者は現時点で同一のPCIとなっているが、舗装Bは舗装Aより劣化が早く進行することが予測される。したがって、保全工事が必要となる時期は舗装Bがより早いものとなる。
●保全工事の方法
保全工事は、図-3に示すように、舗装状態が許容最小サービスレベルに達する時に実施すべきである。将来必要となる保全工事の費用を特定するために、保全工事の種類、時期および費用を推定する必要がある。
●保全工事の有効期間
対費用効果に優れた保全工事の方法を選択するために、工事に必要な費用と有効期間(寿命)を推定する必要がある。工事後の舗装性能のモニタリングにより工法選定に関してフィードバックが可能となる。
●性能劣化率
性能劣化率は、保全工事の対象区間を選定するための因子の一つとして使用できる。図-3では、舗装Bが舗装Aより劣化の進行が速いと予測され、舗装Bにとっては2年後が保全工事の最適時期であるとわかる。
●残存寿命
舗装の残存寿命は、図-3のように、現時点から許容最小サービスレベルに到達するまでの期間と定義される。ネットワークの全セクションについての残存寿命がわかると、ネットワーク全体の舗装状態が把握できる。また、保全工事の計画立案・具体化作業にとっても有用である。
●保全工事の時期
保全工事の実施時期は、舗装の状態を調査時点のものを使用して予測することにより決定されよう。保全工事の計画から実施までのリードタイムは、場合によっては3年またはそれ以上となる可能性がある。保全工事の具体的な計画は、通常2箇月から18箇月前にならないと立案できない。
舗装の性能は、交通荷重の種類と度数、環境作用、排水・路床等の地盤および舗装構造といった多くの要因により異なったものとなる。そのため、ある空港の舗装についての性能モデルは、他の空港にはそのままでは適用できない。性能モデルは、利用可能なデータ、舗装保全のニーズ、将来予測の内容に基づいて選定する必要がある。
舗装性能のモデル化の代表的な方法には以下のものがある。
●エキスパートモデル
過去の舗装性能のデータを利用できない場合に用いられる。舗装の種類、使用箇所ごとの舗装の状態と供用期間の関係といったエキスパートモデルは、舗装技術者の意見に基づいて決定される必要がある。
●性能曲線のファミリー群を用いたモデル化
「ファミリーモデリング」の概念は、交通条件が似ている舗装は同じような挙動をするという考えに基づくものである。たとえば、滑走路のアスファルトオーバーレイ区間は同じような性能劣化傾向を有すると予測される。劣化パターンはいくつかの性能が既知の区間のデータを使用して確立され、それが他のすべての区間に適用される。
●過去の傾向の外挿
「ファミリーモデリング」についてのバリエーションの一つ。舗装状態が過去一回の測定データのみから評価される場合には、それを考慮してファミリー予測曲線を外挿して舗装状態が推定される。舗装状態が過去の複数の測定データから評価される場合には、過去の観測点に対する回帰分析を用いて舗装性能が推定される。
一つの測定点を用いた性能の推定結果の例を図-4に示す。10年目におけるPCIがファミリー予測曲線より大きい値である場合、 PCIが最小許容レベルに到達する時期は、ファミリー予測曲線による18年目より長い20年目になると予測される。
●マルコフ確率モデル
マルコフ確率モデルは、高速道路の舗装性能の予測に使用されているのみで、空港舗装には使用されていない。
●ニューラルネットワーク
ニューラルネットワークは、従来型の統計分析を使用しないで、舗装、交通荷重、環境作用を含むビッグデータを舗装予測寿命といった結果と結びつける解析手法である。
なお、舗装性能のモデル化に際しては、用いるモデル化技術によらず、現地条件に基づく校正作業が必須のものである。
注)
* 摩擦レベルは次の3種類。
• 最小許容:ただちに保全工事による回復必要
• 保全計画:範囲に応じて、経過観察、詳細調査・保全工事による回復必要
• 新設:新設時の舗装面が確保すべき値
** FOD:Foreign Object Debris(異物破片)。Foreign Object Damage(異物による損傷)としても使用。
(続きは次回)
参考資料
• Common Airport Pavement Maintenance Practices, Airport Cooperative Research Program Synthesis 22, 2011.
• Airport Pavement Management Program (PMP), AC 150/5380-7B, 2014.
• Guidelines and Procedures for Measuring Airfield Pavement Roughness, AC 150/5380-9, 2009.
• Measurement, Construction, and Maintenance of Skid-Resistant Airport Pavement Surfaces, AC 150/5320-12C, 1997.
• Standardized Method of Reporting Airport Pavement Strength – PCN, AC 150/5335-5C, 2014.
• Use of Nondestructive Testing in the Evaluation of Airport Pavements, AC 150/5370-11B, 2011.
• Pavement Engineering Assessment (EA) Standards, ETL 04-9, 2004.