八谷好高客員研究員(SCOPE)
「インフラ通信簿」、「永久舗装」、「滑走路の安全性」に続いて、今回からは「空港舗装マネジメント」を取り上げます。空港の舗装は空港インフラの基幹部分であり、航空機の安全かつ効率的な運航を確実なものとするためには、その性能を保持することが必須のものとなっています。以下では、米国の空港における舗装マネジメントへの取り組みを紹介した資料に基づいて、空港舗装のマネジメントについて考察していきたいと思います。
舗装マネジメント(Pavement Management)は、サービス可能なレベルの舗装を所定の期間提供するための最適な戦略と定義される。舗装マネジメントシステム(Pavement Management System,PMS)は、舗装マネジメントの原理を具体化するものであり、舗装の新設設計・施工、点検・評価、保全工事* の選定・計画といった行為が含まれる。
これを図示すると図-1のようになる。まず、舗装を所定の条件の下で「設計」し、適切に「工事」を行う。次に、舗装の状態を所定の方法で「点検」し、必要に応じて「維持工事」を行う。また、舗装の状態を定期的に「評価」し、必要に応じて「維持・補修工事」を行う。そして、また「点検」に戻るが、場合によっては「新設設計」にまで戻る。
図-1 舗装マネジメントシステムの概念
1994年に改正された米国制定法(Public Law 103-305)では、1995年以降に行われる空港舗装の大規模補修ならびに打換え時には空港舗装メンテナンスマネジメントシステム** の実効性の証明が必要とされ、空港管理者に舗装の状態ならびに舗装マネジメント計画を報告することが求められた。これにより、各空港では舗装マネジメントシステムの整備が加速されている。
空港管理者には、安全で効率的な航空機の運航を可能とするために、舗装インフラについて使用可能な予算の下で適切な順に適切な方法の保全工事を行うことが求められている。この保全工事を対費用効果の高いものとするために必要となる手順は二段階に分けられる。第一段階では、各舗装における保全工事の必要性と重要性を考えて、将来における保全工事の必要性、保全工事の方法、保全工事の対象箇所を特定し、優先順位をつける。そして、所定の期間中に保全工事を行う箇所の優先度を決定し、予算を算定する。第二段階では、第一段階で決定された箇所で実施する保全工法を決定し、設計・工事を行う。
空港舗装マネジメントシステム(Airport Pavement Management System,APMS)は、これをシステム化したものであり、舗装インフラの一覧表を管理し、舗装の性能を監視し、保全工事の適切な時期・箇所・工法を選択し、その計画・資金調達を行い、これまでに実施された舗装保全工事の対費用効果を評価するという体系的・客観的なシステムである。このAPMSの構成要素を図示したものが図-2である。
図-2 APMSの構成要素
APMSが対象とする領域からみれば、上記の第一段階はネットワークレベルでのマネジメント、第二段階ではプロジェクトレベルでのマネジメントとなる。このうち、ネットワークレベルにおけるマネジメント行為はネットワーク全体の舗装の状態についての客観的評価であり、その適用性は広いが、プロジェクトレベルでのマネジメント行為は個別空港や地域に特有のものであり、他の空港・地域への適用性は必ずしも高くはない。
舗装インフラの一覧表はAPMSの基本的な要素である。舗装はその性能が経時的に低下していくため、一覧表には舗装の現時点での状態のみならず、過去ならびに将来の状態が含まれる必要がある。この場合の将来予測には、状態や条件がほぼ同じ区間をグループ化することにより得られるファミリー曲線を使用することが一般的である。
舗装の状態は、表面の損傷状況、ラフネス、摩擦、FOD、たわみに基づいて評価される。中でも、舗装状態指数(Pavement Condition Index,PCI)が使用されることが多く、3年程度の間隔で定期的な舗装の調査・評価が行われている。場合によっては、保全工事の時期を適切に選定するために追加で調査が行われることもある。こういった舗装の評価により、ネットワーク全体の舗装状態が変化する傾向の把握、舗装の劣化原因の特定、特定の舗装構造および保全工事の性能の評価が可能になる。
保全工事には維持工事と補修工事の両方が含まれるが、実際の工事は両者が組み合わされた形で行われることが多い。空港舗装における保全工事としては、アスファルト、コンクリート舗装のそれぞれで20種類程度のものが用いられている。アスファルト舗装の場合には、加熱アスファルトシーラントによるひび割れシール、加熱アスファルト混合物によるパッチング、加熱アスファルト混合物によるオーバーレイ、切削オーバーレイ、常温材料によるパッチングが、コンクリート舗装の場合には、コンクリートまたはアスファルト材料による全厚パッチングと打換え、シリコンシーラントによる目地の再シール、アスファルト材料による部分厚パッチングが多用されている。
保全工事のうち近年は予防保全がかなり注目を集めている。これは、舗装の早期劣化を防止したり、劣化の進行を遅らせたりするために行われるものであり、舗装が比較的新しい間に、適切な時期に適切な箇所に適切な方法の工事を実施する必要がある。予防保全プロジェクトを成功させるためには次の点が重要である。
●工事の効果が最大となる時期を正確に見極めるための調査の実施
●工事を遅延なく適切な時期に実行するための資金の獲得
保全工事の必要性は舗装に必要とされるサービスレベル、すなわち性能レベルにより変わってくる。このレベルとして、目標、許容限界、安全性限界の各レベルとそれぞれのトリガー値を設定する必要がある。舗装の性能は、上記のPCIのような指標単独により、または複数の特性を組み合わせた総合指標により定量化できる。
この保全工事の必要性については、5年程度あるいはそれ以下の短期計画と5年を超える長期計画二つの時間軸によって検討することが一般的である。保全工事プロジェクトの優先順位は、保全工事が必要となるサービスレベルが工事の種類により異なるので、サービスレベルそのものの優先順位に基づいて決定する必要がある。なお、保全工事の費用は、舗装構造が同一の場合であっても、必要とされるサービスレベルの高さに応じて高くなることは言うまでもない。
舗装保全工事に必要となる予算については、保全工事自体のみならず、航空機運航の安全性や効率性を改善するためのプロジェクト、地下構造物、航空灯火といった舗装に関連する事項を考慮した上で決定する必要がある。この場合、使用可能な資金とその時期に関する財務面での考察、工事中の空港の運用と安全性に関する運用面での考察が必要となる。
APMSを有効にかつ継続して運用するためには、空港管理者がその必要性を認めることはもちろんであるが、APMSにおけるデータの完全性と適時性、運用結果の定期的な報告、運用中の改善を通じた利用者ニーズへの適合性、担当者の教育と引継ぎの方法を確立することが必要となる。また、システムのレビューと改善も必須のものである。
空港舗装マネジメントシステム(APMS)の使用状況に関して、米国内の種々の地域にある種々の大きさの空港において舗装マネジメントを担う技術者に対するアンケート調査が行われた。
このアンケート調査では、次の事項に焦点が当てられている。
●APMSの使用の経験の有無と経験がある場合はその期間(APMSの開発時期、APMSソフトウェアの種類、コンサルタントの関与を含む)
●舗装状態の評価(舗装表面の損傷状況、ラフネス、摩擦、FODおよびたわみの評価を含む)
●最適保全工法の選定方法
●予防保全の実施の有無(予防保全のための専用予算の有無を含む)
●保全工事の資金源と獲得方法
●保全工事の種類と性能の評価(新工法を含む)
アンケートは米国34州にある62箇所の空港宛に発送され、50箇所の空港から回答が得られた(回答率はおよそ80%)。図-3、図-4には、回答が得られた空港の位置、航空機の日平均運航回数を示してある。また、表-1にはそれらの空港で用いられている舗装の種類を示してある。これから、地理・気候条件と交通条件が異なる米国内の空港におけるアスファルト、コンクリート両舗装のデータが得られたことがわかる。
図-3 アンケート対象空港の位置
図-4 アンケート対象空港の航空機日平均運航回数
表-1 アンケート対象空港における舗装の種類
50箇所の空港におけるAPMSの使用状況については図-5に示すとおりであり、80%を超える空港でAPMSをすでに運用しているかもしくは開発中である。運用期間については。平均で9年であり、10年を超える空港も40%ある(図-6)。
図-5 APMSの使用状況
図-6 APMSの運用期間(年)
APMSの利用目的については、図-7に示すとおり、舗装状態の追跡、予算・投資といった資金獲得が主たるものとなっており、現時点では過去の保全工事の評価に利用している割合は比較的少ない。
図-7 APMSの使用目的
APMSの評価については、図-8に示すとおり、優秀かつ不可欠である、機能的ではあるが改善を必要としている、単に使用中であると評価しているのが、いずれも30%程度となっている。また、課題としては、APMSの開発ではなく、APMSの運用を維持し、強化することであるとしている。
図-8 APMSの評価
(続きは次回)
注)
* 保全(Preservation)は、舗装インフラを保全するためのすべての行為であり、定常的維持(routine maintenance)、緊急補修(emergency maintenance)、予防保全(preventive maintenance)、事後保全(corrective maintenance)、補修(rehabilitation)が含まれる。具体的には、ひび割れシールからオーバーレイ、打換えまでの全ての工事である。本コラムでは、舗装の状態をオリジナルのものに戻すオーバーレイ、打換えを「補修」、それ以外のものを「維持」と整理している。
** 空港舗装メンテナンスマネジメントシステム(Airport Pavement Maintenance Management System)における「メンテナンス」は、維持と補修の両方の工事を含んでいるものと解釈されている。
参考資料
・Common Airport Pavement Maintenance Practices,Airport Cooperative Research Program Synthesis 22,TRB,2011.
・Guidelines and Procedures for Maintenance of Airport Pavements,Advisory Circular 150/5380-6C,FAA,2014.
・Airport Pavement Management Program (PMP),Advisory Circular 150/5380-7B, FAA,2014.