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コラム

第6回 「後の喧嘩先でする」  ~2014.1.22~

客員研究員 大本俊彦(京都大学経営管理大学院 客員教授)


契約上のリスク分担が不明瞭であったり、追加費用支払いの際のコントラクターの機械の時間単価や経費率でもめたりすることはよくある。NEC3ではコントラクト・データ(Contract Data)を契約時に合意することによって、将来もめたり、合意が難しかったりする項目を最初に出来るだけ決めておくことを当事者に要求している。また考えられるリスクについても、あらかじめ指摘し関係者の注意を喚起することになっている。今回はこのコントラクト・データについて説明する。
また、本来ならば最初に触れるべき内容かもしれないが、FIDICなどとは異なるプロジェクトのキー・プレーヤーの役割についても説明する。
最後に、NEC3が備えているパートナリング合意について触れる。NEC3による発注者とコントラクターの契約はすでにパートナリングであるが、複数の契約や下請契約を含めた関係者間のパートナリングを可能にするのがOption X12: Partneringである。

コントラクト・データ(Contract Data)

コントラクト・データは2部からなっており、第1部は発注者が情報や契約条件を提示し(Part one – Data provided by the Employer)、第2部はコントラクターが入札時に情報を提供する(Part two – Data provided by the Contractor)仕組になっている。それぞれが提示・提供する主な情報や条件を以下に挙げる。

パート1 - 発注者が提供するデータ(Part one – Data provided by the Employer)

○一般的な基本情報

・選択したMain Option, Secondary Option名

・プロジェクト名

・発注者名・住所

・プロジェクト・マネジャー(PM)名・住所

・スーパーバイザー名・住所

・アジュディケーター名・住所、或いは複数候補者のリスト
 (ただし、アジュディケーターはコントラクターの合意が必要)及び、アジュディケーターの指名機関

・工事内容を記述した図書名

・現場状況を記述した図書名

・適用言語

・準拠法

・リスク・レジスター(Risk Register)に含むべき事項(たとえば隣接河川の洪水水位、
 これによって関係者の注意を喚起し、リスクが具現したときの影響を最小限にとどめる策を考える

・その他の情報や、情報を記述した図書名等

○着工時期等:工期ではなく、時間管理に関するもの

・予定着工日

・現場引き渡し予定日(部分または全体)

・コントラクターが工程表を更新する頻度(たとえば、少なくとも4週間に一度等)

○ 瑕疵:瑕疵担保期間と瑕疵の補修期間

・12か月、24か月等の瑕疵担保期間

・補修に許される期間(場所や対象により、3週間や2カ月等)

○ 支払い

・通貨の規定

・出来高(支払い)査定頻度(NEC3原本ではコントラクターの適切なキャッシュ・フローを確保する
 ために、5週間以内となっている。)

・金利(たとえばイングランド銀行(Bank of England)の金利プラス2%などの表記-支払い遅延時、
 金利が伴う追加支払時に適用する)

○コンペンセーション・イベント(CE: Compensation Event)

・10年確率以上の異常天候をCE対象とするが、どの地域の天候かを明瞭にする。

・降水量、積雪量、気温等記録すべき項目を規定する

・これらの記録数値が提供される機関名

○リスクと保険

・第三者賠償の最低額

・労災最低額

○追加情報

・最終紛争解決手続き:仲裁の場合、仲裁地、仲裁規則、仲裁人の指名機関名(訴訟の場合について
 記述が無いが、裁判所を指定すれば将来問題が生じないであろう)

・竣工日、部分竣工日(Key Dates)

・Option C/Dが用いられる場合:
 ターゲット・プライスに対するコスト・オーバーラン、コスト・セービングに対する発注者と
 コントラクターの費用分担あるいは余剰配分率を規定する。たとえば以下のように:

  Share range               Contractor’s share

  Less than    80 %             15%

  From       80%  to  90%        30%

  From       90%  to 110%       50%

  Greater than        110%       20%

・為替交換率の照会機関、基準日

・遅延損害賠償と早期完成ボーナス

・履行保証

・前渡金と前渡金保証

・コントラクターの設計がある場合の設計責任保険と補償の上限

・保留金

・コントラクターの責による発注者への損害賠償の上限

パート2 - コントラクターが提供するデータ(Part two – Data provided by the Contractor)

○一般的基本情報

・コントラクター名・住所

・工事費に対する本社経費率プラス利益の%

・下請契約にかかるコントラクターの経費率

・現場の定義(土取り場等を含む)

・現場監理者名・責務・経験(所長、工事担当責任者、工務担当責任者等)

・リスク・レジスター(Risk Register)に含むべき事項(コントラクターが想定するリスク、たとえば
 現場で汚染土が発生するリスク、関係者が
 注意を払い、リスクの発生時には影響を最小限にする努力が必要であると注意を喚起する)

○追加情報

・工程表が含まれている図書名

・もし発注者が要求する場合、完成工期の提案

・入札金額

・Option C/Dガ用いられるとき:
 建設機械の時間単価、職種別労務賃金、施工管理スタッフの時間単価、現場外で行われる設計業務
 スタッフの時間単価、直接工事費に対する現場経費率、現場外工場での経費率等

・その他コントラクターが必要と思われる事項

 

キー・プレーヤー

◎発注者とコントラクターは、勿論契約当事者というキー・プレーヤーである。

 

◎プロジェクト・マネジャー(PM: Project Manager):
PMは発注者の観点から契約監理をするキー・パーソンである。PMは変更を指示したり突貫指示を出したり出来るが、発注者にはその役割・権限はない。これは発注者の役割が小さいことを意味するのではなく、PMは契約的行為を決定するとき発注者と勿論相談しているわけで、コントラクターとの契約上のやり取りのほとんどをPMがやるということを意味する。ここで注意が必要なことは、PMは旧FIDIC Red Book 4版でエンジニアに要求されている「impartial」は要求されていないことである。それではコントラクターに不当に厳しくすればよいかというとそうではなく、第1条で規定されているように、「(それぞれのプレーヤーは)相互信頼と協力の精神に基づいて行動しなければならない。」

 

◎スーパーバイザー(SV: Supervisor):
発注者が任命し、工事が工事記述内容(Work Information)、仕様(Specification)通りに遂行されるよう、監督することが業務である。テストに立ち会ったり、欠陥の指摘や補修の確認も業務である。瑕疵担保期間終了証明を出すのも重要な業務である。

 

◎アジュディケータ(Adjudicator):
PMとSVはお互い独立しており、コントラクターがそれぞれのプレーヤーに対する契約上の異議申し立てはアジュディケータに行う。アジュディケータは契約時に合意しておく。もし、合意出来なければ、指名機関が指名することになる。UK内では法律によるアジュディケーションを行うが、それ以外では、NEC3に含まれているNEC Adjudicator’s Contractによる※1 。(仲裁はアジュディケーションを経なければ行えない。)

 

※1 UK外のプロジェクトでは、3人のアジュディケータからなるDABを設置することも可能であり、推奨される。

 

パートナリング合意

NEC3はそれ自体でパートナリング契約である。まず「発注者、コントラクター、PM、SVは相互信頼と協力の精神に基ずいて行動する」ことに合意し(10.1条)、Risk Registerに各プレーヤーがリスクを登録し、そのリスクの回避と影響の軽減化の行動指針を掲げ(11.2(14)条)、また、施工中に気づいたリスクを早期に各プレーヤーに警告し、リスク削減会議(Risk Reduction Meeting)を行う(16条)、発注者とコントラクターの間でターゲット・プライスを合意し、コスト・オーバーランの場合もコスト・セービングの場合も両社で分担・配分を行う。これらはすべて関係するプレーヤーが自分だけの利益目的の達成ではなく、プロジェクトの成功に協力することが翻って自分の利益になるという契約構造、つまりパートナリングをNEC3が持っていることを示している。

 

NEC3のもう一つのユニークさは発注者とコントラクター以外のプレーヤー、例えば同じ発注者と契約し、同じ現場で施工する他のコントラクターや下請などをパートナーとして結ぶ「複数プレーヤーのパートナリング合意(Multi-party Partnering)」をSecondary Option X12として設けていることである。この合意によって、プロジェクト全体を効率的に、また、リスクを回避しながら協力して完成させるために本来契約関係にないプレーヤーも参加して合意を結ぶことが出来る。関係する複数のプロジェクト間でも合意が可能である。この合意によって各プレーヤーが事務所や情報の共有化をしたり、協力してVE(Value Engineering)を行ったりすることができる。また、AコントラクターからBコントラクターへの工事の引き渡しに関し、早期に実施された場合の金銭的インセンティブをプロジェクト・オーナーが付与することも可能である。ただし留意すべきはこの合意によって新しい契約(Multi-party Contract)が成立するわけではないので、何らかのクレーム・損害賠償請求をする場合は、それぞれのプレーヤーが結んでいる契約に基づいて行わなければならない。また、この合意は永続的なものではなく、関係が生じる期間だけ参加することになる。

 

以上6回の連載で英国における建設工事標準契約約款として1993年に第1版が発行され、すでに広く用いられえているNEC3(2005年に発行された第3班)の概要を説明しました。
英国土木学会(Institution of civil engineers: ICE)のウェブサイト  http://www.ice.org.uk/
に電子版とハード・コピーの購入法が載っているので、是非実際に購入して内容を見ていただきたいと思います。そうすればすっと理解しやすくなると思います。

 

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