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コラム

第4回 「NECは当事者に協働のインセンティブを与える」  ~2013.8.28~

客員研究員 大本俊彦(京都大学経営管理大学院 客員教授)


NEC契約条件書の主要構成は前回までの「核となる条項(Core Clauses)」、「主たる選択条項(Main Optional Clauses)」、「2次的選択条項(Secondary Optional Clauses)」のほか「コスト要因(Cost Components)」及び「契約データ(Contract Data)」があるが、後者の2項目はNECが当事者に協働のインセンティブを与える構造を説明してから触れる方がわかりやすいと考えられるので、今回はNECの本質について説明する。

ŸOption CとOption D

選択肢CとD がいわゆるパートナリング契約を形作るNECで最も特徴的な契約条件である。特に工事範囲が確定していない場合や予想されるリスクが大きい場合には有効な条件である。つまり発注者とコントラクターの間で金銭的リスクを分担する方法が示されている。

▢ まず、コントラクターは工事代金を見積もって入札する。落札するとこれが「目標工事金額(ターゲット・プライス:Target Price)」となる。この金額は工事費(Defined Cost)と経費(利益を含む)(Fee)からなる。

▢ 経費率が工事費の何%になるかを入札時に明示しておく。

▢ 工事期間中、コントラクターは工事費と経費を支払実費に応じて支払われる。これを出来高精算金(Price for Work Done to Date (PWDD))と呼ぶ。工事費を計算するために実費として認められる費用が細かく規定されており(これがCost Componentsである)支払い実費は発注者、コントラクター、プロジェクト・マネジャーの間で開示されている。

▢ ターゲット・プライスは工事期間中に発生した追加精算金が加算されて工事金額(the total of Prices)となる。追加精算金は詳細に規定された精算要件(Compensation Events)を満たす事象だけに対して計算される。

▢ 契約完了時、コントラクターは最終工事金額(the final total of Prices)と最終工事費(the final PWDD)の差額のうち、契約で規定されたコントラクターへの分配金(Contractor’s share)を受け取ることができる。この差額がマイナス(‐)の場合にはコストの超過分を同様に分担する。(NECのガイダンス(Guidance notes)に、この分配金(マイナスの場合では分担金)の計算例が示されている。)

▢ 最終工事金額と最終工事費との関係を次の概念図によって説明する。

sasyuuzu


▢ 最終工事金額は契約ターゲット・プライスと追加金額の合計である。追加金額は精算要件(Compensation Events)を満たす項目に関して、必ずコントラクターから見積もりを出し前もって合意することが原則である。したがってこれらを工事金額(Prices)と呼んでいる。精算要件とはたとえば、PMからの追加・変更工事の指示、現場引き渡し遅れの影響、発注者が提供することになっているサービス・材料等の支給遅れ・無支給による影響、現場条件の相違による影響等である。

▢ 最終工事費は契約で認められた工事費費目(Cost Components)に対する実費の合計と契約時に合意した実費に対する比率(%)で計算されるFee(経費+利益)の総計である。認められる工事費費目には、たとえば、下請への工事費支払い、現場で雇用の直接人件費、機械償却費あるいはリース代金、材料代、電気・水・ガス等のユーティリティー代金等が含まれる。

▢ 最終工事費が最終工事金額より小さい場合、結果はコスト・セービングとなりコントラクターはその一部を分配金(Share)として受取り、大きい場合、結果はコスト・エクセス(オーバーラン)となり、コントラクターは分担金を支払う。

ここでNECガイダンス(Guide Notes)が示している例を解説する。

Ÿ●コントラクターへの配分(分担)割合とされるセービングとエクセスの適用範囲:

適用範囲(注*)
分配(分担)率
80%以下
15%
80%-90%
30%
90%-110%
50%
110%以上
20%

(注*)適用範囲の%とは最終工事費の最終工事金額に対する割合


もし最終工事費(Final PWDD)が100億円なら、金額で置き換えた適用範囲は以下の通りになる。

適用範囲
分配(分担)率
80億円以下
15%
80億円-90億円
30%
90億円-110億円
50%
110億円以上
20%


従って次の2つの例のようになる。

◇ 最終工事費が75億円の場合は25億円のセービングになる。

80億円以下
5億円
15%
0.75億円
80億円-90億円
10億円
30%
3.00億円
90億円-110億円
10億円
50%
5.00億円
コントラクターへの配分
8.75億円

◇最終工事費が115億円の場合は15億円のエクセス(コスト・オーバーラン)になる。

90億円-110億円
10億円
50%
5.00億円
110億円以上
5億円
20%
1.00億円
コントラクターの分担
6.00億円

上記の例ではコスト・セービング、コスト・エクセスいずれの場合も絶対値が大きくなるに従ってコントラクターへの配分(分担)率が小さくなっている。ただ単なる計算の為の例かもしれないが、筆者なら絶対値が大きくなればなるほど率を大きくして、工事費を抑えるインセンティブを高くするのがよいと思う。読者は如何考えるか。

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