客員研究員 大本俊彦(京都大学経営管理大学院 客員教授)
建築契約・土木建設契約には設計・施工分離発注、設計施工一括発注、ランプサム契約、数量精算方式契約、コスト・プラス・フィー契約、マネジメント契約等多岐にわたる。
日本における建築では、設計・施工分離発注あるいは一括発注はそのプロジェクトに相応しい方が選ばれる。価格はランプサム契約が一般的である。
一方、公共工事を主体として発展してきた土木の建設契約では、設計・施工分離発注が一般的である。価格は最終的には数量精算するのが一般的であるが、名目上はランプサム契約である。
このような建設市場の要求に応えるための標準契約約款は、土木の公共工事では「公共工事標準請負契約約款」、建築では「民間(旧四会)連合協定工事請負契約約款があるだけである。しかるに今後契約の多様化に応ずべく、各種の契約に対する標準約款が必要になるであろう。
FIDIC(国際コンサルティング・エンジニア連盟)は各種の契約に応じる標準約款(契約条件書)を出している。発注者の設計による土木・建築工事契約条件書(※2)、コントラクターの設計・施工による機械・電気設備や土木・建築工事契約条件書(※3)、ターンキー・プロジェクト用の契約条件書(※4)、設計・施工及び運営契約条件書(※5)等を出版している。
以上のように、プロジェクトの調達方式にあった契約条件書がそれぞれに準備されている。これに対し、NEC 3は殆どの調達方式に対応する画期的な契約図書構成を採用している。
今回はこの特異な契約図書構成を概観してみる。
全体で85ページの契約図書は以下のように5つの部分から成り立っている。
1. 選択肢の表 P.1
2. 核となる条項(Core Clauses) P.3~P.26
3. 主たる選択条項(Main Optional Clauses) P.27~P.47
4. 2次的選択条項(Secondary Optional Clauses) P.48~P.55
5. コスト要因(Cost Components) P.56~P.60
6. 契約データ(Contract Data) P.61~P.73
7. 索引(Index) P.74~P.85
以上のような契約上の各要素を組み合わせることによって、どのような種類の調達方式の契約条件書でも誂えることができる。目的の調達法を実現させるために、如何にこれらの選択肢を組み合わせるかについてのガイドブック(※6)と、選択・組み合わせ作業のフロー・チャート(※7)及びNEC 3の逐条解説書(※8)が別冊として発行されている。
NEC 3にはこれらのほか紛争解決条項で用いる別冊の調停人との契約書(※9)、NEC 3と整合性のとれた(back-to-back)下請契約書(※10)及びコンサルタントなどの専門家との契約書(※11)などが出版されている。
どの選択条項を用いても対応できる柱となる条項から成り立っている。言葉の定義、コントラクターの義務、時間(工期)、テストと欠陥、支払い、追加支払い要件、リスク分担と保険、契約解除が規定されている。
特筆すべきは、従来のICEやFIDIC契約条件書における「エンジニア(the Engineer)」の代わりに、「プロジェクト・マネジャー(the Project Manager)」が設けられていることである。承認や査定、指示等の行為はエンジニアと同じであるが、FIDIC旧レッド・ブックで規定されている「エンジニアは中立公正でなければならない」、新レッド・ブックに規定されている「エンジニアはフェアーな決定(a fair determination)を行わなければならない」というような規定はないが、第1回で紹介したように、行動規範として「発注者、コントラクター、プロジェクト・マネジャー及びスーパーバイザーは契約に基づいて行動し、また、相互信頼と協調の精神に基づいて行動しなければならない。」と規定されている。それ以外には契約上果たすべき義務を条項の必要個所で規定している。
ここでは、どのような調達方式を採用するかを決定する選択条項A、B、C、D、E及びFが示されている。AからFのうち必ず1つを選択し、W1、W2のどちらかを選択する。以下にそれぞれの選択肢の概略を示す。
Option A: Priced contract with activity schedule
:工事(設計作業も含む)をいくつかのアクティビティーに分け、それぞれにランプサム価格を割当てた表(activity schedule)をベースとするランプサム契約。工事出来高払いは出来上がったアクティビティーに対してなされる。
Option B: Priced contract with bill of quantities
:数量・単価表(bill of quantities)による数量精算方式
Option C: Target contract with activity schedule
:アクティビティー価格表に基づくターゲット・コスト契約。ターゲット・コストと実コスト(欠陥補修に要する費用などは含めない)の差(プラス及びマイナス)を当事者が契約で合意した比率で分担する。次のOption Dとともに後述するパートナリングに適した契約条項である。
Option D: Target contract with bill of quantities
:数量・単価表に基づくターゲット・コスト契約。
Option E: Cost reimbursable contract
:いわゆるコスト・プラス・フィー契約。
Option F: Management contract
:マネジメント契約
Option W1: Dispute resolution procedure
:紛争解決条項(英国(UK)以外の場合に使用)
Option W2: Dispute resolution procedure (used in the United Kingdom)
:紛争可決条項(UKで使用)
他は次回に概観する。
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※1 NECはテスト版を含めて現在では第3版となるためNEC 3と名付けられている。
※2 Red Book: Conditions of Contract for Construction for Building and Engineering Works Designed by the Employer
※3 Yellow Book: Conditions of Contract for Plant and Design-Build for Electrical and Mechanical, and for Building and Engineering Works, Designed by the Contractor
※4 Silver Book: Conditions of Contract for EPC Turnkey Projects
※5 Gold Book: Conditions of Contract for Design, Build and Operate Projects
※6 Procurement and contract strategies
※7 Engineering and construction contract, Flow charts
※8 Engineering and construction, Guidance notes
※9 Adjudicator’s contract
※10 Engineering and construction subcontract
※11 Professional services contract