[SCOPE] 一般財団法人 港湾空港総合技術センター

  • Googleロゴ

    

コラム

第9回 「建設契約紛争とその解決(9)」    ~2017.12.18~

当センター理事 大本俊彦(京都大学経営管理大学院 特命教授)


 これまで契約の枠内での紛争予防、紛争解決について述べてきたが、エンジニアやプロジェクトマネジャーの決定やディスピュート・ボード(DB)の決定に当事者の一方、または両方が不服な場合は次の段階の紛争解決プロセスに進まざるを得ない。

公共工事標準請負

 建設工事請負契約書六項において、契約時に調停人をあらかじめ定めておくことができるが、一般的には定めないためこの項は削除される。
 上記の調停人の合意があった場合に調停人があっせん又は調停を打ち切ったとき、調停人の定めがなく発生した紛争は、建設業法による建設工事紛争審査会のあっせん又は調停によりその解決を図る。
 上記のあっせん又は調停により紛争を解決する見込みがないと当事者の一方又は双方が認めたときは、仲裁合意に基づき、審査会の仲裁に付し、その仲裁判断に服する。
 ところでこの紛争審査会は国土交通省か各都道府県に設置された※1)いわば行政機関とみなすことができ、中立・公正性が担保されているかどうかが疑問視される※2)。特に外国人弁護士からこの点を指摘されることが多い。

FIDIC Conditions of Contract (Red Bookなど)

 エンジニアの決定(Determination)に対して不服がある場合は紛争をDBに付託することができる。DBの決定(Decision)はすぐに実行しなければならないが、不服申立てをすることによって仲裁※3)に付託することができる。
 ところが仲裁を始めるには56日間待たなければならない。この期間を「Amicable Settlement Period」と呼んで、和解の努力が求められている。和解の努力をしないでこの期間が過ぎるのを待って即仲裁を始める場合もあるが、この期間を利用して調停を試みる例も多い。

調停

 調停は第三者の助けを借りた交渉であると理解するとよい。仲裁や訴訟と比較すると迅速であまりコストをかけない手続きであるといえる。というのは調停では法的に拘束力のある決定が出されないからである。調停人は紛争当事者自らが和解の道を探る手助けをするか、当事者が合意をすれば勧告を出すことが可能である。しかしこの勧告には拘束力はなく、受け入れるかどうかは当事者次第であり、紛争が決着する約束がない。決着しなければ結局仲裁に行くことになり、調停でかけた時間とコストは無駄になってしまう。
 調停のヒアリングは2~3日で決着しなければもはや成功しないといわれている。もちろんその前に調停人は重要な書類に目を通すが、これも仲裁ほどには時間をかけない。このような調停が成功する秘訣は何といっても調停人の経験と人となりである。紛争になっている事柄に対する経験が非常に広く深く、理解度が高い、また紛争解決の経験が豊富である、そしてその上に説得力が非常にある、というような調停人を選び、かつ当事者に解決に向けた柔軟性があれば、調停が成功する可能性は高い。調停で紛争が決着すれば、それ以降の仲裁にかかる時間とコストの大きな節約になることをよく理解することが肝要である。
 調停の特徴の一つに、調停人が当事者の一方と他方が不在で聞き取りを行うことがある。これによって当事者の真意を理解し決着の可能性を計ったり、調停の進め方を決めたりすることがある。これが調停人の力量が発揮できる領域であるともいわれる。 一方、調停人をMediatorとは呼ばずFacilitatorと呼び、調停(Mediation)をFacilitationと呼ぶ手続きがある。上記のような調停人と一方当事者の個別面談をせず、当事者が何か新しい解決法を考え出したりする(例えば、当該契約以外の取引を考え出したりする)ことの手助けをするというような調停が普及し始めている。
 仲裁に行くことが決まったら、本気で有能な調停人を探して調停の道を探ることは価値のあることである。
 建設仲裁の話は次回にする。

 

------------------------------------------------------------

※1)国土交通省に設置されたものが中央建設紛争審査会であり、各都道府県委に設置されたものが都道府県建設紛争審査会である。

※2)国土交通省のホームページでは「建設工事紛争審査会の委員は、弁護士を中心とする法律委員と、建築、土木、電気、設備などの各技術分野の学識経験者や建設行政の経験者などの専門委員から構成されています。専門的かつ公正・中立な立場で紛争の解決に当たります。」と謳われているが、どのように中立・公正が担保されるかの説明はない。

※3)仲裁及び訴訟はほとんどの法治国家においてどちらも最終的紛争解決手続きである。国際的にはニュー・ヨーク条約によって外国の仲裁判断の承認と執行が締結国間において合意されている(2017年1月現在150か国以上が加盟)。

ページの先頭へ戻る

ページTOPへ