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コラム

第8回 「建設契約紛争とその解決(8)」    ~2017.10.16~

当センター理事 大本俊彦(京都大学経営管理大学院 特命教授)


 このコラムの読者の中には、前のシリーズ「NEC3」を覚えている方もおられると思うが、英国の建設工事の標準約款であるNEC3に、契約当事者とプロジェクト・マネジャー(PM)は「相互信頼と協同の精神を持って、行動すること※1) 」という規定があることを述べた。さすが英国(厳密にはイングランドとウェールズ)らしく、早速その意味を問う裁判があり、最近判決が下されたので、今回はその報告をする。

ケース

 英国のM1高速道路の安全帯新設のためのコンクリート供給契約に関する案件である。下請(ターマック・ホールディングズ)の供給したコンクリートに欠陥があり、そのことに関して当事者に異論はない。コントラクター(コステイン)が一度補修費を提示し下請けは合意した。後日他の方法で補修をしたコントラクターが以前下請が合意した額と新しい補修法の費用との差額を請求したが、下請けが拒否したため、アジュディケーションに申し立てたが、契約上の申し立てが許される期日を越しているとの判断が示された。これを不服としたコントラクターはイングランドのTTC※2) (技術及び建設法廷)に訴えた。このコンクリート供給契約はNEC3 Supply (Short Contract) Conditionsが採用されていたが、争いのもととなる条項は以下の2つである。
 1. アジュディケーションに申し立てることが許される期限に関する条項
 2. NEC3のどのタイプの条件書にもある「相互信頼と協同の精神」条項
 被告である下請けは一度合意した修理費と新しい方法による修理費との差額を請求するための申し立てを原告であるコントラクターがアジュディケーションに持ち込むには契約上の期限が切れていると主張、これに対し、原告は申し立てが期限内に行われた、もし期限が切れているとしたら、被告は「相互信頼と協同の精神」に基づいて、原告に前もって知らせるべきであり、その義務を怠ったと主張した。

コールソン判事(TCC)の判決

●Good Faithの概念は最近になってイングリッシュ・コモン・ローに入ってきたものであるが、’in the spirit of mutual … ‘と類似性がある。Good Faithの義務は自己の利益(self-interest)の追求を妨げるものではない。それ(Good Faithの義務)は契約上約束された当事者の各々の利益を追求する権利を保障するものである。
●同様に’in the spirit of mutual trust and …’も相手に自己の利益追求の権利を放棄させるものではない。ただ、相手に対して正直でフェアーであることが必要で、うそを言ったりして相手を欺くことは許されない。
●今回のケースにおいては原告が期限を過ぎてアジュディケーションに申し立てたことは明白で、また、被告が’in the spirit of mutual trust and …’に違反したこともない。
●ということで、原告敗訴である。

再びNEC3の構造

 NEC3の’in the spirit of mutual trust and …’が今回の判決で何か新しい意味や法律を生み出したのではないが、改めて、その意味を条件書の構造上、問う必要があるである。つまり、以下のような他の条項がこの相互信頼と協同の精神を担保しているのである。
●Partnering
●Early Warning
●Risk Register
●Risk Reduction Meeting
 従って’in the spirit of mutual trust and …’がやはり重要な意味を持っているのである。
 これらの条項については前シリーズを参照されたい。

 

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※1)The Employer, the Contractor, the Project Manager and the Supervisor shall act as stated in this contract and in the spirit of mutual trust and co-operation. 下線は筆者が施した。最近、NEC3は改定されてNEC4になったが、この部分は変更されていない。

※2)Technical and Construction Court、ここには様々な技術や建設分野に非常に詳しい裁判官がいる。

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