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コラム

第11回 「建設契約紛争とその解決(11)」    ~2018.4.5~

当センター理事 大本俊彦(京都大学経営管理大学院 特命教授)

 

 前回に引続き国際建設仲裁の特徴、コスト、判断の執行性について述べる。

国際建設仲裁の特徴(2)‐ その他の特徴

 規模の大きい建設仲裁ではクレームの件数が非常に多く、争う金額も大きい。必然的に仲裁判断が出るまでに時間がかかり、仲裁費用も大きくなる。

クレーム

 交渉や調停で解決せず仲裁にまで持ち込まれる建設紛争では、クレームのほとんどが未解決でその数が数十、百数十になることもまれではない。ところがある一つの論拠の上に多数のクレームが発生している場合、その論拠の是非を問えば多くのクレームが解決することになる。この様な場合クレームを分類して大きな論拠(Merits)に判断を示しそれに基づいて後は当事者が金額(Quantum)を交渉で解決する方法を当事者が望めば仲裁の時間とコストが節約できる。Scott Schedule※1)という表を用いてクレームの論点を整理すれば効率的である。これは国際建設仲裁で良く用いられる手法である。

仲裁スケジュール

 建設仲裁は効率的に行わないとずるずると長期化する。国際建設仲裁ではPreliminary Hearingにおいて少なくともHearingまでのスケジュールを確定する。特にhearingの期日には3人の仲裁人、それぞれの当事者の代理人のスケジュールが合わなければならないうえ一度決めたら変更の調整はほとんど不可能に近いから、必ず合意する必要がある。一般にHearingはすべての書類のやり取り、証言の提出等を完了した後クレームの数や複雑さを考慮して1~2週間を予定する。仲裁の設備が整っていない国では、仲裁人、代理人、当事者、証人、速記者(Court Reporter)など、すべての関係者が同一ホテルに泊まりこんでHearingを行うことが多い。
 地質専門家などの専門家意見書がそれぞれの当事者から提出されている場合、それぞれの専門家が合意点を確認し、相違する見解を明確にして問題を整理する会議を開き結果を仲裁人にレポートする手法をとることがある。これには仲裁人、代理人、当事者の出席は不要であり、効率的、経済的である。

コスト

 これまで見てきたように国際建設仲裁では仲裁人と代理人以外にも多岐に亘る専門家が参画し、膨大なコストが発生する。特段の取り決めが無い場合、仲裁のコストは敗者が負担することになり、コスト判断(Cost Award)が出される。一般的にはまず、紛争本体の判断が暫定判断(Preliminary Award)として出され、その後コストの負担を示す最終判断(Final Award)が出される。
 コストには以下のものが含まれる。
Ÿ ・仲裁人: 報酬、実費(旅費、ホテル代、国際電話代等)
Ÿ ・代理人: 報酬(弁護士事務所への支払い)、実費(旅費等)
Ÿ ・外部専門家: 報酬、実費(旅費、ホテル代、国際電話代等)
Ÿ ・速記者: 報酬、実費(旅費、ホテル代、国際電話代等)
Ÿ ・当事者: 通常勤務に伴うコスト(給与等)以外のもの(ヒアリングの為のホテル代、旅費等の実費、上級管理職が参画する場合のホテル代、旅費等)
 仲裁に踏み切る時には、もし負けた場合は相手側の上記コストも負担しなければならないことを覚悟しておかねばならない。

仲裁判断の執行性

 仲裁とは裁判所外で行われるいわば民間裁判といってよく、その判断(仲裁判断)は裁判における判決と同様の法的効力を持つ。仲裁には上告審がなく、その判断を覆すには数少ない理由によって裁判に訴えるしかない。認められる理由とは例えば当事者の一方と仲裁人の間に金銭のやり取りがあったとか、当事者の一方が審問において十分な機会を与えられなかったというような場合である。
 仲裁はもともと当事者が合意によって、両者が選んだ仲裁人(あるいは複数の仲裁人からなる仲裁廷)の決定に従うと合意して始めたものであるから、大部分の仲裁判断は自主的に実行されるといわれている。しかし不利な判断が下された当事者が判断を実行しない場合にはどうすればいいのであろうか。前述したように、仲裁判断は裁判の判決と同様の法的効力を持つから、裁判所に訴えれば執行命令を出したり、従わなければ資産を差し押さえて競売にかけ、支払いを実行してくれたりする。国際的な仲裁ではどうなのか。
 裁判の判決は特別な2国間条約などがない限り他国におい実行する手立てはない。ところが仲裁判断は他国において承認され、執行されるのである。現在世界で150ヶ国以上が加盟しているニューヨーク条約 の下では、加盟国で出された仲裁判断が、他の条約加盟国で承認され、執行されるのである。これが国際取引において最終紛争解決手段として仲裁が選ばれる理由である。
 紛争はDBの設置によって予防することが望ましいが、どうしても解決しない場合には当事者の双方がストレスなく採ることができる手続きとして第3国における仲裁を合意しておくことが勧められる。このことは紛争の予防にも役立つ。

 

このシリーズは一応今回で終わりにします。お付き合いいただきまして、ありがとうございました。また、別のシリーズを考えます。

 

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※1)英国Ministry of Justice
https://www.justice.gov.uk/courts/procedure-rules/civil/standard-directions/general/scott-schedule-note
北アイルランド The High Court of Justice
https://www.courtsni.gov.uk/en-GB/Judicial%20Decisions/Practice%20Directions/Documents/Scott%20Schedule%20%E2%80%93%20Guidance%20Note/j_j_Scott%20Schedule%20%E2%80%93%20Guidance%20Note.htm

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