大本俊彦 客員研究員(京都大学経営管理大学院 特命教授)
世界中が第何波かのCOVID-19の感染拡大に怯えており、インフラストラクチャー建設工事は絶大な影響を受けている。十分な労務・材料・機械がタイムリーに入手できなくなり、生産性の低下を招き、あるいは工事の中断に追い込まれている例も数多ある。また、プロジェクト関係者の中に感染者が出て濃厚接触者の隔離が余儀なくされている例も多々報告されている。
このような状況下、前回から始めた2017年版FIDIC Red Bookと1999年版FIDIC Red Bookの比較は今回は中止し、現在世界中で蔓延しているCOVID-19の建設契約に及ぼす影響とその契約的意味について、FIDIC自身がガイダンス*1)を出しているので紹介する。当コラムのFIDICよもやま(2)と併せて読んでいただきたい。
このガイダンス(Guidance Memorandum)はいくつかの考えられるケースに対し、FIDIC契約条件が如何に対応するかを示す。そしてその中からFIDIC userは自分たちの当てはまるケースを選んで考察してほしいとしている。
「地方自治体も国も特に建設プロジェクトの中止を命令する法律や規則を制定しないが、コントラクターは、安全を恐れるあまり労働者が集まらない、材料や重機のサプライチェーンが機能しなくなり入手が困難になるなどのため、施工を続けることが困難になる。コントラクターに救いはあるのか。」
コントラクターは以下の条項の有効性を探ることを勧める:
Sub-Clause 8.4 – Red Book 1999, Yellow Book 1999, Silver Book 1999
Sub-Clause 8.5 – Red Book 2017, Yellow Book 2017, Silver Book 2017
流行性の病気の蔓延や役所の行為や不作為によってもたらされる、予期せぬ労務や資機材の入手が困難になったことによる、工期延長(EOT)の権利 |
これらの条項はEOTの権利について記述しているが、それに伴う追加のコストに関するクレームを自動的に認めるものでないことに留意のこと。
地方自治体や国が新しい法律や規則を制定し、現場の作業を止めたり規制したりしたことによって、工事は何とか続けられるが、遅延が生じ、追加コストもかかっている。救済されるか。
まずは制定されたり改正されたという法や規則が契約で定義されている “a change in Laws of the Country”に当たるかどうかに関してリーガル・アドバイスを受けるべきである。
いま世界中の異なる法体系の国々で出されている「非常(緊急)事態宣言」はFIDICのそれぞれの条件書の”a change in Laws”に当たると考えられる。FIDIC条件書が規定しているLawは国や自治体の法や条例にとどまらず、もっと小さい役所(日本では市町村に当たる?)が制定する規則などもカバーすると理解することが重要である。
もし新しい法や規則がFIDIC条件書の “a change of Laws”に該当することが確立されたらコントラクターは以下の条項を適用することができる:
Sub-Clause 13.7 – Red Book 1999, Yellow Book 1999, Silver Book 1999
Sub-Clause 13.6 – Red Book 2017, Yellow Book 2017, Silver Book 2017
これらの新しい法や規則はCOVID-19の感染拡大防止に必要とされる様々な行動や活動や設備(ソーシャル・ディスタンス、マスク、消毒設備、体温計等々)をコントラクターに要求する。これらに必要なコストの追加的支払を “Variation”として受けることができる。 |
上述のScenario 1やScenario 3のもとでForce MajeureやExceptional Events条項が適用できるか。
Clause 19 (Force Majeure) – Red Book 1999, Yellow Book 1999, Silver Book 1999
Clause 13 (Exceptional Events) – Red Book 2017, Yellow Book 2017, Silver Book 2017
結論から言うと、これらの条項には該当しないかも知れない。というのはコントラクターは困難が伴うにしても現場作業を続けることが可能であり、このような状況は何とか克服しなければならない義務を契約上負っていると判断されるかもしれないからである。
FIDICはこのガイダンスの中で、FIDICがまとめている ”Golden Principles*2)”を参照して、このような状況下では、以下のような点に留意すべきであると述べている。
1. 契約当事者間の協力と信頼関係を増進すること
2. 力関係の強弱につけ込むことを許さない
3. 敵対関係になることを避け、紛争を避ける努力をする
4. 良好なキャッシュフローを保つため、契約に基づいて十分な支払いを行う
このガイダンスには紹介したケース以外にも例を挙げてどのように考えるかが示されている。国際建設契約に携わっている方は是非一度脚注にある2つのFIDICのWebsiteを訪れてもらいたい。
“Golden Principles”についても今後紹介する予定です。
*1) FIDIC GUIDANCE MEMORANDUM – COVID-19 IMPACT TO THE CONSULTANT’S SERVICES UNDER THE FIDIC SUITE OF CONTRACTS & AGREEMENTS
*2) FIDIC | FIDIC launches Golden Principles to safeguard integrity of its contract documents | International Federation of Consulting Engineers