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コラム

第4回 「FIDICよもやま(4)」    ~2020.10.19~

大本俊彦 客員研究員(京都大学経営管理大学院 特命教授)

 

 JICA、世銀、アジア開発銀行の有償資金による途上国のインフラストラクチャー建設契約に携わった経験のある方は、契約上かけられないことになっているVAT(付加価値税)や輸入関税がかけられたり、BQの数量の増加によりある項目の金額が増えたり、設計変更により新たな項目が増えたりしたときに、FIDIC条件書では不要な契約変更合意書を交わしたりして支払いが遅れたりすることなどの経験があるはずである。特に有償プロジェクトの経験の浅い実施機関では特にこの傾向が強い。今回はJICAのProcurement Procedureと融資相手国の国内法との間に矛盾がある場合にどういうリスクがあるかを考えてみよう。

VATと輸入関税

 JICAをはじめとして多国間開発銀行(MDB: Multilateral Development Banks)や2国間融資機関のような公的融資機関は融資金額の中に借入国内の種々の税金は含まれないことになっている。一方、これらの機関から融資を受けたプロジェクトであっても、国内の種々の税金を免除する国はほとんどない。したがって、たとえば、出来高支払いのうち少なくとも現地通貨ポーションにはVATがかかる。これはプロジェクトの実施機関や元発注者である国の公共事業省や建設省と、財務省あるいは国税局とが合意して免税にするわけではない。発注者側の役所が準備したVATに相当する金額をプロジェクト・コストの支払いに上乗せしてコントラクターに支払わなければならない。これによってコントラクターはVATを引かれてもネットの出来高支払いを受けることができる。したがってVATを上乗せしないで支払いを実行するとネットからVAT分が不足することになる。
 輸入関税についても同じことがいえる。つまり輸入関税が掛からないようになるわけではなく、発注者側の役所が自分の予算で輸入関税を支払わなければならない。機械や材料の輸入はプロジェクトでまず最初にしなければならないことである。したがって、特にプロジェクトに不慣れな実施機関では輸入関税に相当する予算が組まれていないことが多い。輸入された機械や材料が港の保税区域に並んでいるのに持ち出せないいらだたしさを、どれだけのコントラクターが味わってきたことであろうか。そして挙句の果てにコントラクターが自己資金で関税を支払い、機械や材料を通関させられる羽目になる。
 コントラクターにとってVATも関税も自己資金で支払っているのであるから、発注者からできるだけ早く返済してもらわなければならない。この自己資金には調達コストがかかっているのだから、立替金と金利を支払ってもらわなければならない。コントラクターにとって重要なことは建て替えに同意するときに必ず覚書を交わし、金利支払いに契約条件書の支払い遅延条項を適用する約束を取り付けることである。

JICAのProcurement Procedureと国内法の矛盾

 JICAの融資関連書類に “Practical Reference for the Procurement Procedures of Japanese ODA Loan Projects 2018”というのがある。名称からするとODA Loan Projectの調達手続きに関する一般的な実務書と映るが、これはインドネシア政府と個別に結んだ2国間だけの約束である。インドネシアの国内調達規則とJICAの調達ガイドラインを矛盾なく適用するために、大統領直轄組織のLKPPとJICAが以下の合意をした。
1) 国際競争入札プロジェクトにおいてはJICAの調達ガイドラインを適用する。
2) インドネシアの国内入札者に限る国内競争入札プロジェクトにおいてはインドネシアの国内調達規則(Perpres)を適用する。
 上記合意を記録するために2017年11月3日に覚書(Memorandum)が交わされた。
 これはインドネシア国内の調達規則の中にあるJICAの調達ガイドラインと抵触する内容をめぐって何度も起きた契約紛争を今後起こさせないことが目的であると聞いている。紛争が起こりやすい例を以下に挙げる(FIDIC契約条件書の使用はJICAの調達ガイドラインに規定されているStandard Bidding Documentsに含まれているから、インドネシア国内調達規則とFIDIC条件書との抵触と考えてよい)。
・FIDICでは契約時のBQ数量は見積もりとして入っているだけで、数量増は契約変更を必要としないが、国内法ではBQの個々の数量が契約時より増加した場合は、契約の変更が必要とされる。
 毎月出来高の承認時に上記のような増加項目があれば、その都度契約変更が必要となる。発注者の上部官庁の承認をとるのに大変な時間がかかり、契約条件通りの期間内に支払が行われない。そしてその支払い遅延に関して、法律で決まっていることだから、利息は払えないと発注者が主張する。
・インドネシアの国内調達規則では契約の中にプライス・エスカレーション条項があっても、13か月以降からしか適用されない。FIDICでは毎月支払いに適用されるから、着工日以降適用されることになる。
 したがってインドネシアの国内法によると最初の1年間はプライスに・エスカレーションによる価格の調整(一般的には追加的支払い)が受けられない。
 このような不合理を解消するために結ばれた覚書は他の融資対象国ともあるはずだと筆者は考え調べてはいるが、今のところこれ以外に見当たらない。
 以上のような融資借り入れ国の国内法とJICAや世銀、その他のMDB条件とが抵触し、支払いが遅れたり、コントラクターに立替金が発生したりする状況は当然改善されなければならない。すべての融資対象国と上記のような覚書が早急に結ばれることを願っている。それによって不必要な契約紛争が避けられることになる。

ローカル弁護士の活用

 ところでインドネシアのようにJICAの調達ガイドラインが優先されるとする覚書を交わしていても発注者がよくそのことをよく知らなかったり、上部組織や会計検査院(Auditor)が国内法の優先を主張したりする場合があるので、いづれにしても、上記のようなVAT、輸入関税、エスカレーション等の問題が生じたときにはこれらの法律(国内法及びFIDIC条件書)に詳しいその国の弁護士に相談することが重要である。

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