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コラム

第3回 「FIDICよもやま(3)」    ~2020.8.5~

大本俊彦 客員研究員(京都大学経営管理大学院 特命教授)

 

 この原稿を書いている今日は2020年7月の月末、やはり新コロナウィルス感染拡大(Covid-19 Pandemic)の話題は避けて通れない。一時鎮静化していた感染拡大がここの所、緊急事態宣言が出された時期と同じ、もしくはそれ以上の勢いを見せている。これは検査の対象をその時と比べて倍以上に拡大しているため、そのころには引っかからなかった陽性者があぶりだされているためだという説明もある。いづれにしても、経済活動が元に戻るまでには年末まで待たなければならないとか、いや、数年はかかるとまで言われている。

国際建設工事の現状

 このような状況の下で、日本の建設産業の現状はどうなっているのか、実のところ筆者は詳しくない。筆者は現在アジア、アフリカにおける円借款の数プロジェクト(JICAローン)、ドイツ借款のプロジェクト1つ(KfW※1)ローン)でディスピュート・ボードのメンバーを務めているので少しは情報が入ってくるので、これらの国際工事についてお話してみよう。
 建設工事は計画、積算、設計等はテレワークで代替することが可能かもしれないが、現場の仕事は実作業を行わないと進まない。このような状況下で、国と地域によって現場の状況が大きく異なっている。例えばアフリカのあるJICAプロジェクト(発注者-政府機関、コントラクター-日本、コンサルタント-日本)では、工事は完全にストップし、日本人を含む外国人スタッフは国際線がストップしたためチャーター機を準備し、国外脱出。現場には最小限のローカル・スタッフとワーカーを残し、安全、セキュリティー、機械のメンテナンスだけを実行している。出入国規制が何度も延長され、いつになれば入国できるのかわからない、したがって工事再開のめどが立っていない。KfWプロジェクト(発注者-政府機関、コントラクター-ローカル、コンサルタント-独)では外国人スタッフはそれぞれの国に帰国し、コントラクターは日本でいえば県内で調達できる労務、材料、機械だけで細々と工事を続けている。エンジニアのコンサルタントはローカル・スタッフを監督にあたらせている。あるプロジェクトではつい最近契約調印が済まされたが、発注者とエンジニアは何時着工指示を出すか、決めかねているようである。またある国では外国人の入国は禁止されており、国際便も飛んでいないという状況で、その国を脱出し損ねたのか、あるいは滞在することを決めたのかわからないが、日本のコントラクターもコンサルタントもその国にいわば閉じ込められたまま、工事をほぼ計画通りに進めている。ただしこの先特殊な仮設トラベラーの日本からの輸入や、特殊技能工の日本、シンガポール、ベトナム等からの入国が予定されている時期に、Covid-19感染拡大が少しは収まり、物の輸出入、人の出入国がもう少し自由になっていることが望まれている。

Dispute Board(ディスピュート・ボード、DB)の役割とバーチャル会議

 DBは3~4か月ごとに定期的に現場を訪問することになっている。しかし現在のような状況のもとにおいては、現場訪問(Site visit)は不可能である。それでもDBの運営にとって現場状況を知ることは非常に重要な事である。そこで試みられるのがVirtual Conference, Virtual Meeting, Video Meetingなどの呼び名で知られているインターネットを利用した仮想会議である。これを可能にするプラットフォームが世界中には有名なものだけでも10数種類あるそうだが筆者はそのうち、一般的に利用可能なZoom、Microsoft Teams、Skype等と専門業者が特別に設置するものを経験した。後者はVIAC※2)で仲裁人を務めたときにVideo Hearingを実行したときの特設プラットファームである。どれも素晴らしい機能を備えており、まさしくバーチャルな会議が可能となる。ところで多くのソフトウェアには録画の機能が備わっている。したがって記録を残すうえで非常に便利ではあるが、会議の内容が他へ流出する可能性がある。したがって参加者から前もって他への流用の禁止に同意をとることが必要になるかもしれない※3)。
 バーチャル会議やヒアリングは筆者の経験ではほとんどが英語で行われる。様々な国の人の英語を聞き取るのはそもそも大変なことであるが、これをバーチャルでやるわけであるのでさらにむつかしくなる。例えば一つの参加グループが一定程度の広さの部屋でマイクロフォンを共有して話すので音が反響したり、いわゆるハウリングを起こしたりして非常に聞き取りにくくなる。DB Referralのヒアリングは記録に残す必要があるので、工夫が必要である。仲裁のヒアリングの際には”Court Reporter”(法廷速記者)を雇うことが多いが、DB Referralのヒアリングではそこまでしない。筆者がDBとしてとっている方法は、前もってそれぞれの当事者に対して細かく質問書を提出しておき、ヒアリングではそれに沿って質問する。もちろん答えを筆記するわけではあるが、ヒアリング後に、各当事者から何を答えたかを書面で提出してもらう。自らの答えを当事者が書面にしたものとDBが自分で記録したものから、最終的な記録を作成する。
 バーチャル会議の場合でも、Agendaが非常に重要である。しっかり吟味したAgendaに沿って会議を進行すれば実のあるミーティングになるが、Agendaをおろそかにすると、会議が散漫になり、時間だけは使ったが、何を話し合ったのかよくわからない中身の薄い会議になってしまう。

今後のDB Site visitの在り方

 3月から7月までの間に7回のバーチャルDB会議を行った。その経験からDB Site visitの形を少し変えることが可能ではないかと考えるようになった。Covid-19感染が一応収束して、通常の経済活動ができるようになったら、これまで3~4か月ごとに行ってきたSite visitを6か月ごとにし、その間にVirtual Site visitを一度入れることで、DBの機能が十分発揮できるかもしれない。これによってコストのセーブもできる。第1回目のSite visitは関係者と顔を合わせて知り合いになることが重要であるから、これはバーチャルでは実現できない。
 ところで、FIDIC条件書にはVirtual Site VisitやVirtual Meetingの位置づけや手順の規定がない。今のところ個々のプロジェクトごとにDBと当事者が合意しながら進めているが、FIDICもガイドラインを出す必要がありそうだ。
 今回のCovid-19感染拡大で建設現場だけではなく、国内の普通のオフィス勤務がなくなり、テレワークの比重が大きな企業もある。不幸な状況にみんなが晒されているわけだが、働き方や学校や大学での授業のそもそもの意味を考え直すいい機会でもあると筆者は考えている。

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※1)Kreditanstalt für Wiederaufbau、ドイツ金融復興銀行、日本のJICAに当る
※2)Vietnam International Arbitration Centre(ベトナム国際仲裁センター)
※3)このような手順についてつい最近、DRBFがタイムリーに”Best Practice Guidelines for Virtual Dispute Board Proceedings”を作成した。これはDBのバーチャル会議やReferralの際のヒアリングの実行に関するガイドラインである。今のところ残念ながら、DRBF 会員だけしか閲覧できない。

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