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コラム

第24回 「FIDICよもやま(24)」    ~2024.6.11~

大本俊彦 客員研究員(京都大学経営管理大学院 特命教授)

 

 DAABに関するAPPENDIX [General Conditions of Dispute (Avoidance/)Adjudication Agreement]、およびAnnex [PROCEDURAL RULES]の比較を行う。今回をもってFIDICよもやまの最終回とする。

APPENDIX

 1999: General Conditions of Dispute Board Agreementと2017: General Conditions of Dispute Avoidance/Adjudication Agreement及びそれぞれのRulesの比較
 まず、1999年版では4ページ半だったものが、9ページちょっとと非常に長くなっている。その理由の一つは言葉の定義が一つひとつなされていること、また、DBメンバーの独立性(Independence)、中立性(Impartiality)に対する異議申し立てルールが新たに導入されたことなどである。

2017年版の(Article?) 11 Challenge

 通常契約当事者はDAAB Memberに対して異議を申し立てることはできない。ただし、Annex Procedural RulesのRule 10 Objection ProcedureとRule 11 Challenge Procedureの下で、DAAB Memberの “independence”と“impartiality”に異議の申し立てをすることができる。その場合、異議申し立てを行う当事者は、異議申し立ての下になった事実を知ってから7日以内に異議申し立てを正当化する証拠などを伴ったNotificationを提出しなければならない。Notificationを受け取ったDAAB Memberは7日以内に返答しなければならない。7日以内に返答がない場合は、異議申し立てを否定する返答があったものとみなす。異議申し立てを否定する返答を受け取った(あるいはみなし否定の)場合、異議申し立てをした当事者は7日以内にRule 11に従いDAAB Memberに対するChallengeをICC (International Chamber of Commerce)に申し立て、(ICC内の)International Centre of ADRによる最終決定を得ることができる。

 

 筆者は22年前に最初のDB Memberを経験して以来、自ら関係したプロジェクトだけでなく、DBを経験している知人からもそのような“independence”と“impartiality”に疑義があるような話を聞いたことがない。しかしこのような条項が新たに導入されるにはそれなりの理由があったのであろう。

 

 「FIDICよもやま」はこれで終了するが、DBメンバーの選択に関しFIDIC 2017 Redに対する世銀のStandard Bidding Docs 2019において重要な変更がなされているので、ここで少し触れてみたい。これは上述の“independence”と“impartiality”とかかわりがあるかも知れない。
Standard Bidding Documents
Procurement of Works
Part 3 – Conditions of Contract and Contract Forms
Section IX. Particular Conditions (PC)
Part B – Special Provisions

Sub-Clause 21.1
Constitution of the DAAB
In the second paragraph, at the end of the first sentence after deleting: “.”, the following is added: “, each of whom shall meet the criteria set forth in Sub-Clause 3.3 of Appendix- General Conditions of Dispute Avoidance/ Adjudication Agreement.”
After the second paragraph insert the following paragraph: “If the Contract is with a foreign Contractor, the DAAB members shall not have the same nationality as the Employer or the Contractor.”

 例えばインドネシアにおける典型的なJICA有償プロジェクトに上記第2パラグラフを適用すると、3人のDBメンバーにはインドネシア人も日本人もなれないということである。しかるにこの条項に抵触する3つの形のDBに筆者は参画している。(もちろん世銀プロジェクトではないので問題はないが)

1.発注者:インドネシア政府、コントラクター:日本、一人DB
2.発注者:インドネシア政府、コントラクター:日本、3人DBのチェアパースン、メンバーの一人はインドネシア人
3.発注者:インドネシア政府、コントラクター:日本、3人DBのメンバー、メンバーの一人はインドネシア人

 第一に、発注者、コントラクターがこのDBメンバー構成に満足している様である。つまりそれぞれの当事者の同国人を含むDBの独立性や公平性に疑問を持たれた経験がない。
 第二に、同国人をDBに持つことによって得られる利点が大きいことである。契約言語である英語はそれぞれにとって母国語ではなく、しばしばお互いに理解しあえない場面が生じる。このような時、言語を同一にする当事者と母国語で話せば「ああ、そういうことを言っているのか」と理解が容易になる。また、当事者の文化、宗教等を理解できるDBメンバーがいることで当事者が安心できる。
 上記のような考え方は他のDBメンバー、当事者と共有している。読者はどのように考えられるか。

 

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