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コラム

第21回 「FIDICよもやま(21)」    ~2023.12.1~

大本俊彦 客員研究員(京都大学経営管理大学院 特命教授)

 

 今回からはFIDIC条件書の中で最重要条項の一つであるクレーム(20条)、紛争(21条)に入る。
 1999年版ではこの2つの条項はClaim, Disputes and Arbitrationとして1つの条項で扱われていた。この場合、ClaimはContractorからのクレームだけを扱っていた。そしてEmployerのクレームは2条のEmployerの副条項、Sub-Clause 2.5 [Employer’s Claim]として記述していた。
 2017年版ではEmployerとContractorの権利・義務関係をできるだけ対等に扱うという姿勢がみられ、両者のクレーム権、手続等を同じ条項の中で等しく扱うことになったようである。

20 Employer’s and Contractor’s Claims

20.1 Claims

 Claim条項はEmployerとContractorに等しく適用される。1999年版Sub-Clause 20.1 [Contractor’s Claim]によってContractorはクレーム事象が起きてから、あるいは起きたことを当然知っているべき時から28日以内にClaim Noticeを出すことを要求されていた一方、Sub-Clause 2.5 [Employer’s Claims]においてEmployerはクレーム権がある事象が生じてから “as soon as practicable”にNoticeを出せばよかった。2017年版の新しいSub-Clause 20.1によってContractorと同じ定めが適用されることになった。
 2017年版ではクレームを2種類に分けて扱うこととなる。1つはAdditional PaymentとEOTクレームである。Employerの場合は (a) Contractorに対してAdditional Payment (あるいは、Reduction in the Contract Price)に対するクレームとDNP (Defect Notification Period)の延長に対するクレーム、Contractorの場合は (b) Additional Paymentに対するクレームとEOT (Extension of Time for Completion)に対するクレームである。2つ目はこれらAdditional PaymentとEOTクレーム以外のあらゆるクレームである。
 1つ目の種類のクレームに対してはSub-Clause 20.2 [Claims for Payment and/or EOT]が適用される。後述するが、これは1999年版同様厳しいNotice of Claimのルールが適用される。
 2つ目のクレームに対しては契約相手方かEngineerが同意しなくてもまだ紛争(Dispute) には至らず、クレームする側がSub-Clause 3.7 [Agreement or Determination]に従ってNoticeを出せばよい。この場合、Noticeは “as soon as practicable”でよい。

20.2 Claims For Payment and/or EOT

 上述の1つ目の種類のクレームに対して次のクレーム手続きが適用される。

20.2.1 Notice of Claim

 Employer、Contractor共に、クレーム事象の発生時から、またはその発生を当然知っておくべき時から28日以内に “Notice of Claim”を提出しなければならない。
 もしNoticeを上記28日以内に提出しなければ、Additional Payment (Employerの場合、Reduction in the Contract Price)とEOT(Employerの場合、DNPの延長)に関する権利を喪失する。そして、契約他者はこのクレーム権喪失から生じる損失に対して一切の責任から免れる。
 ここまでは1999年版と同様厳しい規則になっているが、次のSub-Sub-Clause 20.2.2ではこれが必ずしもそうではないケースが出てくる。

20.2.2 Engineer’s initial response

 もしClaim Noticeが規定の28日を過ぎて提出された場合、Engineerがそのこと(Noticeの時間切れ)をNoticeを受領してから14日以内にクレームした当事者に通知しなければ、そのNoticeは有効なものと見做される。もし他方当事者がこのNoticeの「みなし有効」に異議があればEngineerに詳細な理由書をつけてNoticeを提出しなければならない。EngineerはSub-Clause 20.2.5 [Agreement or determination of the Claim]に基づいて出すAgreementまたはDeterminationに上記の「みなし有効」についての見解も述べなければならない。
 もしクレーム当事者がEngineerの「みなし有効」に関する見解に異議ある場合、そしてNoticeが遅れたことにはそれなりの正当な理由があると考えるなら、そのことをSub-Sub-Clause 20.2.4 [Fully detailed claim]に記述しなければならない。
 上述からわかることはNotice のこれまでの時間切れ(Time bar)は機械的には適用されないということである。

20.2.3 Contemporary records

 クレームの実証のためにContractorは “Contemporary records”を残さなければならない。 “Contemporary records”とはクレーム事象が起こったとき、またはすぐ直後の記録のことである。クレーム当事者はクレームを実証するためにこの記録をとらなければならない。
 Employerの責任を認めるのではなく、EngineerはContractorの記録を時に応じて検査することが認められる。その時追加の記録をとることを指示することもできる。このように検査したり追加の記録を指示したりすることを、クレームが認められていると考えてはならない。

20.2.4 Fully detailed Claim

 1999年版ではクレームの詳細(Fully detailed Claim)はクレーム事象の発生から42日以内に提出しなければならないとなっていたが、2017年版では84日以内あるいはEngineerが同意した日までとなった。
 クレームの詳細とは以下のものを含む。
 (a) クレーム権が生じたと考える出来事、状況の詳細
 (b) クレーム権が発生すると考えられる契約上または法的な根拠
 (c) クレーム当事者が頼りとする “Contemporary records”
 (d) 要求するクレーム金額やEOTの長さを立証するに足る根拠
 ここでもまたクレーム提出期限の84日が守られなかった場合、Sub-Sub-Clause 20.2.2と同様の救済がある。

20.2.5 Agreement or determination of the Claim

 Sub-Clause 20.2.4 [Fully detailed Claim]または後述のSub-Clause 20.2.6[Claims of continuing effect]に基づいて提出されたクレームについてEngineerはSub-Clause 3.7 [Agreement or Determination]に従って (a) Additional payment(Employerの場合、Reduction in the Contract Price)および、あるいは (b) EOT(Employerの場合、Extension of DNP)に関し、合意または裁定(Determination)を行わなければならない。
 ところで2017年版では期限を過ぎてから提出されたNoticeに対しても情状酌量の余地がある場合はEngineerはそのNoticeの有効性の判断とともに上記(a)、(b)に関する合意あるいは裁定(Determination)を行わなければならない。

20.2.6 Claims of continuing effect

 クレーム事象が長く続く性質のものであるとき、Engineerはまず最初のFully detailed Claimが提出された段階で、クレームのメリット(契約的あるいは法的根拠)が有るかどうかを判断しなければならない。根拠なしとされた場合、Contractorは意義がある場合はSub-Clause 3.7 [Agreement or Determination]に基づいてEngineerの判断を求めることになる。この判断にはNoticeが遅れたことで相手方がどの程度不利を被ったかを判断することも含まれる。
 Contractorはこの継続状態のクレームに関するFully detailed Claimをその状況が終わるまで毎月提出し、その都度累計Additional paymentとEOTを示さなければならない。Engineerはこのクレームにもとづいて妥当なAdditional Paymentを毎月出来高査定に含まなければならない。

 

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