大本俊彦 客員研究員(京都大学経営管理大学院 特命教授)
前回からの続き(1999年版ではSub-Clause番号が2017年版のそれより0.1少ない。例えば、2017年版の8.9 Employer’s Suspensionは1999年版では8.8 Suspension of Workとなる。これは2017年版でSub-Clause 8.4 [Advance Warning]が追加されたためである。)
2017年版で “Employer’s”とすることでこの条項及びこれ以下に続くSuspensionに関する条項はEmployerによるもののみを扱うことが明瞭になっている。1999年版の “Suspension of Work”ではEmployerによるもの、Contractorによるものすべてを扱うように読まれる可能性があった。JICA融資プロジェクトに用いられるMDB Harmonised版も1999年版と同じ文言を使っており、同様の誤解が生まれる可能性がある。
Engineer’s Instructionによって命じられたSuspensionによって、もしContractorがEOTまたはAdditional Costが発生した場合、1999年版ではContractorがNoticeを提出し、EngineerがSub-Clause 3.5によって合意またはDetermineすることになっている。これに対し、2017年版はあくまでも他のクレーム同様Sub-Clause 20.2 [Claims for Payment and/or EOT]に従うこととしている。書き方は異なるが手続きに差異はない。
この度のコロナ感染拡大によるSuspensionは広くEOTが認められることとなったが、その間の現場経費等の損失補償に対する支払いが認められたプロジェクトはほとんどなかった。その国の政府からはっきりとした命令が出ていた限定的な期間に対して、Change in Legislation (Law)を適用してクレームを認めた例はある。
Employer’s Suspensionによって予定していた材料、機材等の現場への搬入が28日以上停止された場合、それらがEmployerの財産であることが明記されていれば、Contractorはそれらの価格を受領する権利がある。1999年版と2017年版はほぼ同じ内容である。
Engineer’s InstructionによるSuspensionが84日以上続く場合、ContractorはEngineerに工事続行の許可を願い出ることができる。この申請に対してEngineerが28日以内に返答しなければ、1999年版では、ContractorはSuspensionの部分の工事をOmissionとして扱うことができ、またSuspensionが全体工事に対するものであれば、Contractorは契約解除のNoticeを出すことができる。
これに対し、2017年版ではOmissionやTerminationのNoticeを出す前にContractorはさらなる期間のSuspensionに合意することができることを明記している。さらにその場合、ContractorはEOTと被った損害(コスト)に対し、利益も上乗せした(Cost Plus Profit)請求をする権利があると示唆している。
工事再開許可あるいは命令が出されたら速やかにContractorとEngineerは一緒に工事や機械・材料等にSuspension中に損失や欠陥が生じていないかを調査し、記録する。あればContractorはそれらを速やかに補修すること。1999年版と2017年版に大差はない。どちらもその損失や欠陥がContractorの責任ではないときのクレームについては触れていない。
これで工事の開始、遅延、中断という時間に関する重要な条項を終える。
ところで1999年版ではコントラクターのクレームと紛争解決を20条で扱っており、Employer’s ClaimはSub-Clause 2.5で扱っていたが、2017年版ではEmployer’s ClaimとContractor’s Claimを20条で対等に扱い、紛争と仲裁を扱う21条という新しい条項を設けた。さて次回からはFIDIC Conditions of Contractの中で8条の時間に関するものと同様重要なクレーム、紛争解決に関する条項に移る。