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コラム

第18回 「FIDICよもやま(18)」    ~2023.6.1~

大本俊彦 客員研究員(京都大学経営管理大学院 特命教授)

 

今回からは条項順をやめ、読者の興味がありそうなところからお話ししていきます。

8 Commencement, Delays and Suspension

 2017年版にSub-Clause 8.4 Advance Warningが追加された。また、1999年版で単にSuspensionとしていたSub-Clauseの表記をEmployer’s Suspensionと置き換えた。これはSuspensionに関する規定(Sub-Clause 8.10, 8.11, 8.12)はContractorの責によるSuspensionには適用しないことを明確にするために、このように変更したのであろう。

8.1 Commencement of Works

 EngineerはCommencementのNoticeを出さなければならないが、1999年版ではCommencement Dateの7日以上前となっていたところ、2017年版では14日以上前となっている。7日前ではあまりに忙しすぎたのであろうか。ContractorのLetter of Acceptance受領後42日以内の発行は変わりない。
 1999年版も2017年版も同様であるが、ContractorはNoticeを受領したら速やかに工事を開始し、遅延の無いように工事を進めていかなければならない。

8.2 Time for Completion

 1999年版にはCompletionのためには(a)Test on Completionに合格することという一文が入っていたが、Sub-Clause 10.1 [Taking Over the Works and Sections]を満たすことと書けばその中に上記の(a)が入ることが当然なので、2017年版ではこれを削除している。
 Time for CompletionはSectionごとに規定されることもあるが、その場合、それぞれのSectionが工事のどの部分を含んでいるかをよく認識しなければならない。

8.3 Programme

 ContractorはCommencement DateのNoticeを受領してから28日以内に詳細工程をEngineerに提出しなければならない。1999年版では “Detailed time programme” となっていたが、2017年版では “Initial programme” という言葉が導入された。これによって “Initial” でないもの、つまり、 “Revised programme” の必要性を示唆している。工事の途中においては現場の進捗を正確に反映させるように工程を修正しなければならない。2017年版ではこの工程管理に仕様書に規定があればその通りの、なければEngineerが受け入れるProgramming Softwareを使用することを規定している。実際現場ではEmployer、Engineerも同じSoftwareを準備し、Contractorの作成した工程表を読めるようにしている。
 2017年版ではProgrammeに何が含まれなければならないかが克明に記述されている。
 Commencement Date, Time for Completion, Accessや工事現場が得られる日にちはもちろんのこと、ローカルの祝日なども含める記述がある。また、工事のやり直しがある場合、その補修工事の計画も含める規定がある。
 各パーティー(Employer, Engineer分けてもContractor)は優秀なDocumentation、Programme softwareの専門家を保持する必要があろう。
 EngineerはContractorから提出されたInitial programmeあるいはRevised programmeをReviewし、契約に準じていない場合、また、実際の進捗を反映していないなどの場合は、その旨をNoticeによってContractorに伝えなければならない。2017年版では
  Initial programmeの場合、21日以内
  Revised programmeの場合、14日以内
 にNoticeを出さない場合はNo-objectionが与えられたとみなされる。1999年版も2017年版もEngineerの承認(Approval)という言葉は一切使用していないことに注意が必要である。
 EmployerがContractorのProgrammeに基づいて自らの行動を計画する権利があることは1999年版も2017年版も変わりない。
 1999年版ではProgrammeに記載されたActivityがSub-Clause 20.1のNoticeとして認識されるかどうかは具体例によって判断されることになるが、2017年版ではNoticeとは考えられないと明記している。
 最後に、Programmeが現実と合わなくなってきたときには、EngineerはNoticeによってRevised programmeを提出するよう要求し、Contractorはそれに従わなければならないとなっているが、1999年版には期日の定めはない。これに対し、2017年版ではNoticeを受領後14日以内に提出しなければならないと規定している。

8.4 Advance Warning

 このSub-Clauseは2017年版に新しく設けられた条項である。
 Contract amountが増加、あるいは工事に遅延が起こりそうな出来事に遭遇したら8条や20条あるいはその他の条項に基づいてNoticeを相手方、Engineerに出すことは、このSub条項がなくとも要求されていることではある。したがって、この条項の真の目的がよくわからない。Edward Corbet*¹が指摘するように “NEC*²” 条件書が規定している “early warning” の下で創られる “partnering(パートナリング)”環境 をこの2017年版がイメージしているのかも知れない。

 

*¹ FIDIC 2017 A Practical Legal Guideの著者
*² New Engineering Contract、1993年に1st Editionが発行され、現在は2017年に発行された4th Editionが最新である。UKにおいては古くからICE Conditions of Contractが公共工事に用いられてきたが今ではこのNECがとってかわった。

 

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