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コラム

第11回 「FIDICよもやま(11)」    ~2022.4.11~

大本俊彦 客員研究員(京都大学経営管理大学院 特命教授)

 

 FIDICよもやま(8)に続いて、2017年版FIDICが1999年版FIDICからどのように変わったかを見てみよう。

2.The Employer

 2017年版の特徴の一つは発注者の権利・義務をコントラクターのそれらと同等に扱うことである。例えばこれまで発注者の義務の履行にはほとんど手続上の規定はなかった。ところが発注者のクレームはコントラクターのクレームと統一的に扱われ、Clause 20 Employer’s and Contractor’s Claimsでまとめられている。つまり発注者もクレームに気づいたら28日以内にノーティスをださなければならない。そして、20.2.3 Contemporary recordsのタイムリーな提出はコントラクターのみならず発注者にも求められている。このように契約当事者間でバランスの取れた契約条件書が生み出された。
 以上のような観点からも条項比較をしてみよう。

2.1 Right of Access to the Site

 発注者はコントラクターにContract Data*¹ に記載された期日までに現場への通行権、現場の引き渡し等を行わなければならない。もし通行権や現場の引き渡しが遅れ追加の費用や工期の遅延が発生した場合、コントラクターに工期延長や追加支払いの権利が発生する。
 1999年版ではこのようなクレームの通知を受け取ったらSC 3.5 Determination条項をいきなり適用することになっているが、2017年版では通常のクレーム同様、20条で処理することになった。着工時の現場への通行権や現場の引き渡しの遅延の解消は一刻を争うことから即SC 3.5によって処理するというのはわからないでもないが、その他のクレームでも一刻を争うものはいくらもあり、20条のクレーム条項ではゆっくりやればよいというものではないので、このSC 3.5適用をここではなくし、20条で扱うとしたことで統一が取れた。

2.3 Employer’s Personnel and Other Contractors

 1999年版、2017年版ともにSC 6.9 Contractor’s Personnelにおいて、コントラクターに対しその従業員、作業員等で工事遂行、現場管理上ふさわしくないものをエンジニアがプロジェクトから取り除くよう指示することができると規定されているが、2017年版ではこれと同じように発注者、あるいは他のコントラクターの従業員で汚職や詐欺行為にかかわっているという合理的な証拠がある場合、コントラクターはそのような者の排除を発注者に要求することができる。

2.4 Employer’s Financial Arrangement

 2017年版で発注者のプロジェクト資金の調達の詳細をContract Dataに記載しなければならなくなった。
  また、「1件のVariationが契約金額の10%を超える場合や追加・変更の累積合計金額が契約金額の30%を超える場合など、コントラクターは発注者に対し、ちゃんと資金手当てができていることの証左を要求することができる」と具体的な数字を示すようになった。

2.5 Employer’s Claim (1999年版)

 1999年版のこの条項は2017年版では20条のEmployer’s and Contractor’s Claimsとして一括して扱うようになった。これは第一回で説明したように、1999年版の20条[Claim, Disputes and Arbitration]を2017年版では20条[Employer’s and Contractor’s Claims]と21条[Disputes and Arbitration]に分け、発注者のクレームもコントラクターのクレームと同様の手続きを踏まなければならなくした。

2.5 Site Data and Items of Reference (2017年版)

 どちらの版でも4.7 Setting Outとして、測量に関する規定があるが、2017年版では測量基準点、基準高さ等が図面や仕様書に記載されなければならないこと、またはエンジニアが書面で通知しなければならないことをこの条項に明記している。また、発注者が持っている現場の地形図、地下・海象・気象・環境情報をBase Date*² までにコントラクターに提供しなければならないこと、また、Base Date以降に得た情報は遅滞なくコントラクターに提供しなければならないことが明記された。

 

*¹ 各条項に必要な記載事項を契約条件書の特別条件書(Particular Conditions)のPart Aとして合意書に添付する。
*² 入札の28日前の日付

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