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コラム

第10回 「FIDICよもやま(10)」    ~2022.2.1~

大本俊彦 客員研究員(京都大学経営管理大学院 特命教授)

 

 前回のコラムで触れたFIDICの”Golden Principles: GPs*¹”について説明する。
 土木・建築の建設契約(Construction and Engineering Contract)としてFIDIC契約条件書(FIDIC General Conditions of Contract: GCs)はそのフェアーで契約当事者間の権利義務関係がよく釣り合いが取れていることでFIDICブランドとして名が通っている。
 ところがGCsの印刷内容は変えないまでも、特別条件書(Particular Conditions: PCs)によってGCsの条項の置換え、変更あるいは削除によってもとのGScとは似ても似つかない契約内容に変更されている例が散見されることをFIDICが憂慮し、このGPsを策定した。プロジェクトのPCsをドラフトするときのガイダンスとして使用されることを目的としている。
 読者の中にはDBのSite visitsをなくしたり、Engineerの権限を著しく縮小したりした入札図書に出会われた方もおられると思う。すべてのVariationにはEmployerの事前承認が必要であると規定されれば、もはや、EngineerはFIDICのEngineerの機能を発揮することができない。FIDIC GPsはこのようなことを防ぐためのガイダンスである。
 このGPsはFIDICのContract Committeeが設置したタスクフォースにより作成され、GP1からGP5の5つのContractual Principle(契約の原則)からなり、それぞれ不可侵で神聖なものと考えられている。
 GCsは現場の特徴やその国の法律に適合するように修正する必要があるだろうが、このGPsを守っている限りFIDIC契約条件書といえるであろう。また、契約の自由とは当事者がどのような条件であろうと合意することができることであるが、このGPsを守っていないのに、FIDIC Contract(FIDIC契約条件書)と呼ぶのは不適当で、ミスリーディングするものである。
 GPsは以下の5つである。

GP1: 契約に参加するすべての関係者の権利・義務・役割等がGCsから想定されるものと一致していること。
  例1: FIDIC Silver Bookでは入札者がプロジェクトを精査し、データをチェックし、かつ設計を行う上で必要なデータと十分な時間が与えられなければならないが、この条件を満たしていない場合にはSilver Bookの選択は不適当である。
  例2: Employerの支払いが滞った場合、GCsで認められている支払い遅延に対する資金繰りコスト(Financial Costs)の請求権、工事を遅らせる権利、契約解除権等を認めないPCsはGP1に照らして、不当である。
  例3: Red BookやYellow Bookの下で、コントラクターのクレームに対し、Determinationを出したり、EOTを認めたりする場合に事前の承認をEmployerからとらなければならないというPCsはGP1に反している。
GP2: PCs(Particular Conditions:特別条件書)は明快でかつ、二通り以上の解釈が生じないように(Unambiguously)ドラフトしなければならない。
  例1: GCsの条項を削除するときにはそれに代わる意味のある条項をPCsに加えなければならない。ただ単に、”not used”は不十分である。
  例2: 契約交渉中にたとえはemailのやり取りで合意したGCsの変更をPCsに追加しなかったら、契約図書の優先順位の効力でもともとのGCsが優位となり、変更したはずの合意が生きてこない場合がある。
GP3: PCsによってGCsに規定されたリスクと報奨のバランスを崩してはならない。
  例1: Red BookやPink Bookの下では些細とは言えない規模の設計をコントラクターに要求してはならない。
  例2: Red Book、Pink Book、Yellow Bookのもとで予期できない地下条件のリスクをコントラクターに負わせてはならない。
GP4: 契約関係者それぞれの作業や手続きに割り当てられた時間・期間は適切な長さでなければならない。
GCsの中で規定されているそれぞれの行為に許された期間はFIDICが適切であると考えて設定されている。それらをむやみに修正することはGP4に反する。
  例1: Pink Bookの下ではEngineerはコントラクターのクレームを受領してから28日以内にDeterminationを出さなければならないが、これを例えば「56日以内に」と変更することはGP4に反する。
  例2: どのGCsでもクレーム・ノーティスを対象となる事象が起こってから28日以内ではなく、例えば「5日以内」と修正することはGP4に反する。
GP5: 契約を支配する法律と抵触しない限り、紛争はディスピュート・ボードに付託されなければならない。これは仲裁へ行く前の条件である。
  例1: Red Book、Pink Book、2017年版Yellow Book、Silver BookにはStanding DBが規定されているが、これをad-hoc DBに変更することはGP5に反している。
  例2: 通常DBがDecisionを出すことに何ら問題がない範囲のクレームをDBに付託できない範囲を設けることはGP5に反する。

 

 以上GP1からGP5まで、GPsを満足しない例を見てきたが、このようにGPsを満足しないGCsへの変更、修正、追加等はプロジェクト遂行上、契約関係者の意見の相違や紛争を導きやすいから、GPsを守ることは契約紛争の原因を作らないことでもある。
 ところでJICAは2011年にFIDIC Pink Book 2009年版に対象として、「片務的契約条件チェックリスト*²」を出版している。FIDIC GPsが出版された2019年より10年も前に同様のコンセプトのガイダンスを出版したわけであるが、FIDICがこれを参考にしたかどうかは筆者は知らない。せっかくの機会であるので、次回、このFIDICのガイダンスを紹介しよう。

 

*¹ FIDIC | FIDIC Golden Principles (2019) | International Federation of Consulting Engineers
*² https://www.jica.go.jp/activities/schemes/finance_co/procedure/guideline/index.html

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