大本俊彦 客員研究員(京都大学経営管理大学院 特命教授)
前回まででDBのコンセプト、運用実務についての説明は済んだ。そこで今回は日本のコントラクター、コンサルタントが興味のあるJICA有償プロジェクトにおけるDBの普及について筆者の知るところをお伝えし、問題点を探る。
まず、2018年5月に東京で行われた第18回DRBF※1)の年次国際会議において、当時JICAの調達・管理課※2)長であった市口課長がなされたプレゼンテーションに基づいて、2012年~2017年の期間の状況を報告する。次に現在の状況を筆者の見分・経験から報告し、問題点を提示する。
• 紛争解決条項に、速やかに紛争を解決するDBメカニズムを組み込まなければならない。
• 規模の大きなプロジェクトでは、常設DB (Standing Dispute Board)を設置しなければならない。
• 契約金額が50億円を超える土木工事プロジェクトでは、DBは常設とする。
• DBの設置については、プロジェクト・アプレーザルの時に決定しなければならない、また、DBコストの発注者負担分はローンの一部として認める。
2008年以降、JICAはDBプロモーションの様々な活動を実施してきた。
• 2009年、標準入札図書にDB設置を含めることとした。
• 2010年、DBトレーニング・キット※4)の刊行
• 2012年、DBマニュアル※5)の刊行
• DBセミナーの参加者数が累計1000人を超す
• 2011年、当時のAJCE※6)(現在ECFA※7))と協働して、DBアジュディケータの日本版リストを創設した。同時にアジアの数か国で同様のナショナルリストに登録されるべきアジュディケータの試験も行った。この時DBアジュディケータ試験に合格したのは、日本で10人、アジア諸国で10数人である。
• 2012年~2018年の期間にDB設置の義務のあったプロジェクトは80、そのうち実際に設置したのは13プロジェクトにとどまる。
• 上記13プロジェクトのうち、8プロジェクトが常設、5プロジェクトがAd-hocであった。
• 13プロジェクトのうち、11プロジェクトでコントラクターが外国企業であり、DBメンバーがプロジェクト当該国の国籍であった。残りの2プロジェクトで外国籍DBメンバーが起用された。
• 13プロジェクトのうち1プロジェクトを除いた残りのすべての発注者が、DBの機能に満足又は大満足したと答えている。※8)
• 常設DBの設置
最近は、ミャンマーでのJICA融資開始を筆頭にアジアでのJICA融資プロジェクトがここのところ目白押しである。DBの設置に目を向けると、数年前のジャカルタ地下鉄ではすべてアドホックDBであったが、最近ではプロジェクトのかなり早い時期(契約条件通り着工後28日以内)に常設DBを設置するプロジェクトが増えてきている。
• DBメンバーの国籍
前述のJICA調査によると、これまではDBメンバーの大部分がプロジェクト当該国籍であったということである。ところが筆者が最近見分し、経験しているところでは、コントラクター及びエンジニア(コンサルタント)が共に日本企業であるプロジェクトにおいて、1人DBメンバー(Sole DB Member)が日本人であるケースが数件、同じく日本人コントラクターと日本人コンサルタントのプロジェクトで、3人DBメンバー(3 DB Members)のチェアマンが日本人であるプロジェクトを1件確認している。
これはJICAのDBプロモーションの努力がやっとここにきて報いられてきたのではないかと筆者は思っている。
アジアにおける発注者、コントラクターが、大きなコストがかかるヨーロッパやアメリカからDBメンバーを雇うのではなく、できることならアジア圏内から求めたいと考えるのは当然のことである。上記のようにアジアにおけるJICA融資プロジェクトの多くで常設DBがプロジェクトの着工時から設置されるようになると、DBメンバーの候補者が不足してくるのは明らかである。
筆者が考える一つのDBメンバー候補者発掘の場所は、JICAのDBプロモーション活動の一部としてAJCEやアジアのコンサルティング・エンジニア協会などが立ち上げた2011年のFIDIC National Listsである。このリストをもっとアジアのインフラ・ステークホルダーの間で広めることが重要であると考えている。もちろんこれと同時に、新たにトレーニングと試験を実行していかなければならないと考えている。
今回で一応DBの話は完結とします。
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※1)Dispute Resolution Board Foundation
※2)Loan Procurement Policy and Supervision Division
※3)JICA’s Procurement Guidelines and Standard Bidding Documents (SBD)
※4)JICA Dispute Board Training Kit
※5)JICA Dispute Board Manual
※6)Association of Japanese Consulting Engineers
※7)Engineering and Consulting Firms Association, Japan
※8)これは特筆すべきことである。様々な理由によって発注者、時にはコントラクターもDBの設置に消極的あるいはネガティブである。ところがいざ設置してDBが運営されると、大部分の発注者がDBの機能に満足したということである。