当センター理事 大本俊彦(京都大学経営管理大学院 特命教授)
今回のDB実務の話題はDBの非公式見解・助言である。
DBの第一義的目的は紛争の予防である。DB Memberがすべての契約課図書・契約関連書類を保持し、現場訪問を実施するのは当該プロジェクトに関する基本的知識を身に着けておくこととプロジェクトの進捗とそれに伴う問題の発生・進展を理解するためである。これによって小さな問題が大きな紛争に発展する前に当事者とエンジニア、その他の関係者がそれを解決する支援をすることができる。
DBはコンサルタントではないので、自ら発注者やコントラクターに助言することは許されない※1)
が、両当事者が合意すればDBに助言や非公式見解を求めることができる。
(1) FIDIC Conditions of Contract for Construction, MDB Harmonised Edition (FIDIC Pink Book), Sub-Clause 20.2 (Appointment of the Dispute Board)
If at any time the Parties so agree, they may jointly refer a matter to the DB for it to give its opinion. Neither Party shall consult the DB on any matter without the agreement of the other Party.
この条項によって当事者は合意すればDBにどんな問題に関しても(非公式)見解を求めることができる。ただし、当事者の一方が他方の同意を得ないでDBの非公式見解を求めることは禁止されている。
(2) General Conditions of Dispute Board Agreement, 4 General Obligation of the Member - (k)
The Member shall be available to give advice and opinions, on any matter relevant to the Contract when requested by both the Employer and the Contractor, subject to the agreement of the Other Members (if any).
この条項によって当事者は非公式見解だけではなく助言も求めることが許されている。
(3) FIDIC Conditions of Contract for Construction (Red Book), Second Edition 2017, Sub-Clause 21.3 Avoidance of Disputes
… If the DB (DAAB※2)) becomes aware of an issue or disagreement, it may invite the Parties to make such a joint request.
FIDIC Red Bookの2017年改訂版ではDBが問題や意見の相違に気付いた時には、自ら当事者にDBの非公式見解や助言を求めたらどうかと勧めることができるとまで念を入れている。
非公式見解や助言はさまざまな様式を採ることができる、例えば、サイト・ミーティングの会話中あるいはもし合意が得られていればDBと当事者の一方との対話の中での助言、当事者に示す口頭での非公式見解、書面による非公式見解・助言、その他紛争を回避するためにできる当事者へのあらゆる様式の助力が可能である。
非公式見解や助言はまたさまざまなタイミングで求めることができる。サイト・ツアー、サイト・ミーティングの折ばかりではなく、DB Memberが自国にいる時にもE-メールなどにより求めることができる。
DBが容易かつ短期間に非公式見解を示したり助言したりできるのは、のちにその同じ問題が正式にDisputeとして付託され裁定を出すときに、以前行った助言や示した非公式見解に縛られることがないからでもある※3)。
上に述べたように非公式見解を示したり、助言したりするのにはあまり時間がかからない、すなわちコストがあまりかからないところにある。しかもそれらをベースに当事者が問題を解決するチャンスは非常に大きい。公式に付託によって裁定を求めれば申立てや反論書(Position Paterという)の準備に時間とコストがかかり、これらをDBが読む時間、裁定を書く時間も相当かかる。まして裁定に不服申し立てをして(Notice of Dissatisfaction with the Decision)仲裁にまで発展すれば驚くほどの時間と費用が掛かる。
筆者は発電プラントの長期Maintenance and Operation契約の1人DBをやったが7年間の間に15のInformal Opinionを出した。勿論一方の当事者あるいは両当事者が不満な場合もあったであろうが、すべて受け入れられ、非常に効率的、低コストの紛争処理を実現した経験がある。そして更なる利点はこの間もその後も当事者が非常にいいビジネス関係を保つことができた点である。
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※1)1970~1980年代、大きな世銀プロジェクトには”Panel of Experts”という制度があった。費用を世銀が出して、著名な技術者3名のボードを設置し、プロジェクトを成功裏に終わらせる目的で技術的な助言をすることが許されていた。ところが契約的にだれがコスト増の責任を取るのかということにはお構いなしに、工法やスペックの変更を助言するので、現場では非常に困ったという話を聞いた。
※2)2017年版のRed BookではDBはDispute Avoidance/Adjudication Boardと定義され、紛争の予防が強調されている。
※3)無責任に安易に見解を述べたり助言をしたりするということではない。もし同じ問題が付託されても、恐らく全く反対な内容の裁定を下すことはほとんどないのではないか。