当センター理事 大本俊彦(京都大学経営管理大学院 特命教授)
DBの実務の話題の2つ目はDBの現場訪問である。
DB メンバー(1人もしくは3人)が合意されDispute Board Agreementが発注者、コントラクター及びDBメンバーによってサインされるとDBが機能する準備が整ったことになる。DBがうまく機能するためにはDB メンバーがプロジェクトに関する最新の情報を与えられていることが重要である。
契約合意書、契約条件書、仕様書、図面、工程表等々契約関連図書は非常に多いが、DB メンバーがプロジェクトを熟知するために、これらの図書がDB Agreement調印後速やかに送付されなければならない。またプロジェクトの進捗に伴って作成される月報、出来高調書、クレームレター等も速やかにDB メンバーに送付されなければならない。以前は大部の図書をDHLなどのクーリエサービスを利用して空輸していたが、今ではGoogle Driveなどのインターネットを利用したクラウドストレージが利用できるようになった。ただし受け取る側でやはりハードコピーのほうが作業がしやすいということで、大量の印刷をする必要が生じることも多い。
FIDIC条件書(MDB版)によると、DBの現場訪問の目的は以下のように記述されている。
“The purpose of Site visits is to enable the DB to become and remain acquainted with the progress of the Works and of any actual or potential problems or claims, and, as far as reasonable, to endeavour to prevent potential problems or claims from becoming disputes.”
現場訪問時に現場で起こっていること、行われていることをDB メンバーが自らの目で見、直に関係者から話を聞くためである。DBの最も重要な目的は紛争の防止である。経験あるDB メンバーは人の動き、重機の動き、掘削土やトンネル切端(切羽)の状況、発注者・コントラクター・エンジニアの関係の在り方などを観察することによって、潜在的な意見の相違や紛争の種を発見し、それらが大きなクレームや紛争に発展する前に解決するよう関係者をサポートすることができる。また後日実際にクレームや紛争に発展しても、正確な事実認識に基づく判断が可能となる。
上記のような目的を達成するための現場訪問はおおむね3~4か月ごとに行われるのが一般的である。ともすると工事繁忙期には当事者、コンサルタントともに忙しいという理由でDBの現場訪問を避けたがる傾向があるが、こういう時こそ問題が発生したり、発生した問題の解決を先送りにしたりして、結果的に解決を難しくしてしまうことがある。DBを現場で迎えるにあたり、特別なプレゼンテーション材料や書類を作成する必要はなく、その時に存在する材料を用いて説明すれば十分である。
ところで第一回目のDBの現場訪問はとりわけ重要である。DBメンバーは発注者、コントラクター、エンジニア、コントラクターのサブコンなどと初めて会い、また初めて現場を見てこのプロジェクトがどのように進んでいくのかおおよその検討をつけるのがこの第一回目の現場訪問である。関係者が協力的であるかどうか、問題に対して積極的に解決しようとする人たちであるか、他人事として解決に消極的かなどを認識し、対策を考える機会でもある。
宿泊施設(ホテル或いはキャンプ)から現場までの距離・移動時間、現場の大きさ・複雑さなどを考慮して、日程を決める。現場訪問はサイト・ツアーとミーティングからなる。サイト・ツアー、ミーティング及び後述のDBのSite Visit Reportの準備と発注者・コントラクター・エンジニアによるレビューと修正等の時間を考慮すると2~3日の日程が必要となる。
サイト・ツアーでは発注者・コントラクター・エンジニアが一緒になってDBメンバーを案内することが重要である。例えばコントラクターが発注者やエンジニアがいないところで、単独にあるクレームに対する自分たちの見解をDBメンバーに説明することはしてはならない。
協議事項は工事の進捗・遅れなどの工事概要とクレームなどの契約管理事項が主なものである。Matter of Concern(気になっていること)に関して当事者やエンジニアが率直に発言することが望まれる。ところが実際には気にはなっているが、まだ今はいいかと問題を表に出すことをためらうケースが多く、結局大問題になることがある。DBにとってこのMatter of Concernをできるだけ早く引き出し、その解決をサポートすることが大きな仕事である。
Site Visit ReportはDBの現場訪問の記録であるとともに、現場施工と契約管理状況をDBがいかに理解したかという表明でもあり、その後の現場の進め方のよりどころともなるものである。Site Visit ReportはDBメンバーが現場を離れる前に関係者にドラフトを示し、誤りなどを修正して、サインしたものを発行すべきである。
最後に忘れてはならないことが、次回の現場訪問の日程を今回の現場訪問時に確定することである。今の現場訪問時には関係者は全員出席しているのであるから、この時に次回の日程を調整することが最も合理的で確実である。