[SCOPE] 一般財団法人 港湾空港総合技術センター

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コラム

第4回 「Dispute Board (DB)(4)」    ~2018.12.10~

当センター理事 大本俊彦(京都大学経営管理大学院 特命教授)

 

 DBの実務に話を進める。実務は大きく分けて次のような項目になる。
  • DBの設置
  • DBの現場訪問
  • DBの非公式見解・助言
  • 紛争の付託
  • ヒアリング
  • DBの裁定
 以上のような項目に従って、各回の話を進めていく。今回はDBの設置について話を進める。

DBの設置

DBメンバーの選択

 DBの設置はDBメンバーの選択から始まる。設置の時期とメンバーの人数は契約条件書に規定されている通りに行わなければならない。JICAや開発銀行融資のプロジェクトではFIDIC Pink Book※1) をベースとしたStandard Bidding DocumentsのClause 20 Claims, Disputes and Arbitrationに含まれているSub-Clause 20.2 Appointment of the Dispute Boardに従ってメンバーの選択を行うことになる。具体的には契約条件書の最後に綴じられているParticular Conditions – Part A: Contract DataのSb-Clause 20.2に関連する規定に従わなければならない。
• Date by which the DB shall be appointed ...  28 days after the Commencement Date
 条件書に修正のない場合、DBはStanding Boardであり、着工後28日以内に設置しなければならない。プロジェクトを立ち上げる時、発注者もコントラクターも何かと忙しく、DBの設置に手が回らない状況があるが、プロジェクトの初期段階にこそ将来の紛争の種がまかれることが多いので、1日も早くDBを立ち上げることが重要である。
• The DB shall be comprised of ...  One sole Member or Three Members
 DBが3人で構成される場合、それぞれの当事者が一人ずつ候補者を挙げ他の当事者の合意を得る。このようにして選ばれた2名のメンバーが残りの1名(Chair)を推薦し、両当事者が合意をしてボードが完成する。これは3人からなる仲裁廷の仲裁人を選ぶ場合に似ているが、仲裁では2名の仲裁人を選ぶときに他の当事者の合意を得るのではなく、他の当事者が仲裁人としての中立性や公平性に対し合理的な疑義がある場合だけ相手の指名を拒否できるというプロセスとは異なる。つまりDBでは3名のメンバーすべてに対して両当事者が納得していて、文字通りプロジェクトのメンバーとして受け入れられることを意味している。
 FIDIC条件書では3人のメンバーの国籍に関する規定はない。我々は今国際インフラプロジェクトを想定しており、発注者はその国の中央政府、地方政府または公社などであり、コントラクターは外国籍、またはその国のコントラクターと外国籍コントラクターとのJVである。このような条件下でよくある例が、当事者がそれぞれの国籍のメンバーを選び、Chairを第3国から選ぶことである。当事者が同国籍のメンバーを選ばない場合もChairは第3国から選ばれる例が多い。同国籍の一方の当事者を依怙贔屓するようなDBメンバーはもともとメンバーとしての資格に欠けるが、同じ国の文化、言語が理解されることにより、当事者間の誤解を解き、コミュニケーションをよくすることは紛争の予防と解決に大きく貢献する。
 一方、すべてのメンバーをプロジェクト国のある協会や時には発注者組織の中から選ぶことになっていて、問題となっているケースもある。
• List of potential DB sole Member ...  list names of potential sole Member
 入札時に発注者が前もって1人メンバーDBの名前をリストアップしておくことが現実的かどうか疑問である。この場合、入札者にもDB予定者をリストアップさせることが求められる。その入札者に落札するかどうかわからない状態で、予定DBメンバーの了解を取ってリストアップすることは両当事者にとって非現実的である。
• Appointment (if not agreed) to be made by appointing entity or official
 FIDIC Red Book 1999ではThe President of FIDIC or a person appointed by the Presidentとなっている。実際にはThe President of FIDICやThe President of ICC International Court of Arbitrationなどとなっている場合が多い。しかし、そのプロジェクトの国の例えば土木学会や仲裁協会の会長などとなっていることもある。
 メンバーの選択方法やAppointing entityの規定に不公平感を覚える外国入札者は入札失格を覚悟で、条件付き入札を行う必要があるかもしれない。

 

DBメンバーの資格

• 専門家
 DBメンバーはかなり高度の専門性や責任を要求されるが、仲裁人や調停人と同様法律や規則による資格が必要とされない。FIDIC条件書によると、契約言語に堪能で、当該プロジェクトと同様なプロジェクトの経験を有し、契約書類の解釈にたけた専門家でなければならないと規定している。Neutralとしての紛争解決の経験も必要であろう。
• 独立・中立性
 DBメンバーは当事者、エンジニアから独立(independent)しており、職務の実行にあたっては中立・公正(impartial)を保たなければならない。DBメンバーは指名を受諾するときにもし将来その独立性に疑義が持たれるかもしれない事実があれば、受諾時にそのことを開示しなければならない。この開示に当事者が異議申し立てをしなかったら、将来その要件で独立性に異議を申し立てることはできない。
• 資質
 DBメンバーは異文化を理解し、コミュニケーション能力があり、説得力があることが求められる。特に当事者、エンジニアから尊敬されることが重要で、尊敬を得ることができたDBはその時点で職務の半分以上が成功したといってもよい。

 

DB Agreement

 すべてのDBメンバーの選択が合意された時点で、DB合意書が交わされる。DB合意書は両当事者とDBメンバー一人ひとりとの合意書(Three-Party Agreement)であり、3人からなるDBであれば3通の合意書が出来上がる。
 合意書はDBの職務に関する合意書であるが、Retainer feeとDaily feeの合意は重要である。現状ではRetainer feeはDaily feeの1~2日分となっている。Retainer feeの存在がDBが高いという印象を与えている、あるいは実際に高くついている理由であるとして、月報やクレームレターを読んだ時間だけ時間単価で精算し、Retainer feeを廃止する意見もある。プロジェクトの初期段階では多くの契約図書を読む必要があるためかなりの時間がかかるが、その後の実働分は顕著に少なくなるであろう。

 

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※1)MDB (Multi-lateral Development Banks) Harmonised Edition 2005, 2006 or 2010

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