では、こうした中でITを何に使うのか。業務処理を自動化して効率化しましょうという議論がずいぶんありました。その期待効果は社内でいえば生産性向上だったり、人件費削減だったり、在庫の削減だったりします。
そして、最近強調されているのが顧客価値です。お客さんが喜んでくれることで、その会社に対する満足度が高まり、次なる発注につながります。
また、ITで新サービス、技術力の開発支援をしたり、顧客との情報交換を強めれば販売強化につながります。例えば、私がスーパーで買った商品について、クレームのメールを送って、それに対する対応力で企業力を見ることができます。そうやって、企業にとって顧客との情報交換ができれば、ひいてはそれが売上げ増大につながるはずです。
しかし、それ以上に重要なのが人です。企業はやはり人。2007年問題といって、団塊の世代がいなくなってどうなるのか。そのときのために若い人を育てなければいけないと、各企業は人材育成に力を注いでいます。以前はIT化によって標準化されるので、能力のない人でもそれなりの仕事ができると考えた時代がありますが、そんなことをやっても競争力にはなりません。標準的な仕事をするのはいいけれど、それ以上の仕事をしてくれなければ企業としては競争力にならないのです。
したがって、ITを使いながら、人の能力を高めることを考えるべきだと思います。複雑な仕組みをつくればつくるほど、それを使う人の能力が上がっていかなければいけないのに、複雑な仕組みで自動化すると、人の能力は下がってもいいと考えがちになる。これがトラブルの原因になります。そうやって考えると、仕組みが複雑になると同時に人の能力も高めなければいけない時代だといえます。IT化をするなら、情報の活用能力、情報の分析能力、仕組みを考える能力、ITを活用して経営する能力、こうしたものが必要になってきます。
先ほど述べた企業のレディネスのためにITを活用する効果もあります。そうして変化にすぐ対応できる仕組みをつくっておく。注文が来そうなときに対応するのではなくて、前もってCALSやEDIで準備をしておく。獲物が来たら、いつでも鉄砲をポンと撃てる状態をつくっておかなければいけない。そういうスピードが求められる時代なのです(図−2)。
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| 図―2 |
パソコンを買ったらIT化だ、などとはもう誰も思っていないでしょう。IT化にはハードだけでなく、ソフト、サービスが必要です。構造計算のアプリケーションなどもどこかが用意していて、必要なときだけ使えるようなネットワークサービスが盛んになっています。給料計算も、自社でやらなくても、給与計算プログラムを用意してサービスしてくれる会社があります。
こうした点で、使って便利なものは買うけれど、使っても便利でないものは買わないという選択が増えてきたと思います。
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IT調達からITサービス調達へということで、マインドチェンジが必要だと思います。機械を買うと「買った」という気がしますが、サービスを買ったという気がしない。そんなマインドを変えなければいけません。
しかし、これまでサービスは投資対効果が不明確で、金額評価が難しいものといわれてきました。特にITの場合は効果が長期的になり、しかも波及効果が多くなります。そのため、長い間、良い投資評価方法はないといわれてきました。
また、生産性パラドックスということで、お金を出しても必ず良くなるとは限らないということがあります。例えば、企業でIT投資を行う際には、企画部門や経理部門から、いくら儲かるのかという効果を聞かれます。しかし、効果をきちんと調べようと思えば思うほど、前提や仮定が多くなります。それによって不確実な要因が増えて、評価がますますわかりにくくなってしまいます。
当然のことですが、IT投資によっていくら儲かるかというときには、パソコンなどを買っていくら儲かるという話だけでなく、それに伴ってつくった仕組みや制度による効果も考えなければいけません。したがって、費用効果分析といっても、IT投資だけ取り出して費用対効果を考えることは無理があります。
こうしたことを踏まえて基本的な課題を考えると、評価を行う際には、IT化を推進したい人が自ら資料をつくると、どうしても効果を大きく見る。それに対して、経理部門などが評価を行うと、どうしても効果は少なめに見てしまう。つまり恣意的な評価になってしまいます。
それから、効果は将来のことですから、不確実な効果ということになってしまいます。なおかつ事後検証も困難です。例えば、IT化を行って受注高が5割アップしたとします。しかし、それがIT化の効果によるものなのか、あるいは営業の努力によるものなのかわからないわけです。
事後検証が難しいということは、最初に提案をするときに嘘がつけるということで、やがていくらIT化の必要性を叫んでも、会社のトップは信用しなくなってしまいます。
ですから、私は、まずはお互いの信頼関係が大事だと考えます。経営者はシステム部門に投資をして、それによってできたシステムを利用部門が使って効果を出す。この三者の関係がうまく成り立って初めて正しい計画が立てられるのです。これが合意形成です。
計画段階と業績評価段階の整合性を取っていくことも大事です。それによって、経営トップも、システム部門も、利用部門も、お互いに満足できるようになります。そのときに大切なのは、社員のやる気。社員がやる気が出ないと仕事も雑になりますし、自分の責任だけ問われないようにしようとなると、顧客の満足度も下がります。
社員のやる気を高めるための社内の業務効率化の指標をつくって、顧客の指標をつくって、それが結果として財務につながるようにする。これが現在の課題の一つだと思います。
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