ランダム・フォーカス
企業経営と情報化
「他社がやるから」では済まない

 ITバブルが崩壊した2001〜02年頃を境に、IT投資をめぐる状況は大きく変化しました。従来は、「IT化=良いこと」だと考えられていましたが、実は良いIT化もあれば悪いIT化もあるのです。実際に活用する人が、本当に自社にとって良いものだと納得してシステム化をする時代になってきました。
 そのような中で、「ERP」という大型のパッケージが日本でも出てきました。また、住民基本台帳のように、ITに関わる公共投資も増大しています。投資規模が大きくなると、なおさら「他社がやるからウチもやる」では済まされなくなってきました。
 IT化について、情報公開による意思決定のアカウンタビリティが求められています。これには、セキュリティの問題があります。しかし、多くの会社の株主総会において、IT投資に関わる議論が行われるなど、IT化が外部の投資家に対する説明のアイテムになってきているのは確かです。IT投資はもはや、単に流行や他社がやっているからといった理由ではなく、「我が社はこういうIT投資によって、こういう成果を挙げています」と、外部にきちんと説明できることが求められているのです。
スピードがビジネスを変えた

 このような背景の中で、1990年から現在に至る動きを整理してみましょう。この間に、ITの導入で、従来型の商売の仕方が大きく変わりました。商売とは外から何かを仕入れて、その会社で加工して顧客に販売すること。顧客が支払ってくれる金額から仕入原価と加工原価を引いたものが利益になります。そこでは、事業開始までに必要な設備、要員、スペースを取得しておいて、必要な資金は資本金、借入金として準備することになります。仕入れ開始から売上回収までには一定期間が必要ですから、回収までの期間、運転資金が必要になります。これが伝統的なビジネスモデルです。
 ところが、最近のビジネスは大きく変化しました。まず経営のスピードが速くなりました。もちろん長期にわたるプロジェクトもありますが、それも分割発注されたりして、全体にスピードが速くなってきています。スピードが速くなってくると、できるだけリスクを分散しようとします。それが従来型のビジネスモデルを変える動機付けになっています。
 また、インターネットが登場したことによって、いつでもどこでも、不特定多数の人と容易に情報交換ができるようになりました。異なる企業、組織、個人とも容易にやり取りができるのです。そうすると、今まで、いろいろな人が介在して最終顧客とつながっていたものが、中抜きで直接双方向の話ができるようになります。これがビジネスモデルを大きく変える要素になっています。
 経営スピードが速くなると、技術者や機械などすべてを自社で準備すると、時間がかかってしまいます。ですから、リースで借りるなど、「持たない経営」が行われるようになっています。元々、日本は分業のスタイルが確立していますから、持たない経営は得意なはずです。これをノンコア、コアといっています。
利害関係者との調整が課題

 こうした変化の結果、経営について利害関係者が非常に増えてきました。特に最近は株主が注目されています。それも従来の機関投資家に加え個人株主が増えてきました。
 社員についても、どの業界でも契約社員が増えてきました。契約社員も社員には違いありませんが、制度的な違いがあるため、利害関係は一枚岩ではありません。サプライヤーも従来の部品・商品納入、サービス提供だけではなく、アウトソーサーが増えています。
地域社会も、ますます重要な利害関係者になっています。地域住民のことを考えた経営が必要になっています。顧客もリピーターやブランドを重視する顧客が多いので、企業は簡単にビジネスをやめるわけにはいきません。融資元ももちろん大切な利害関係者です。
 また、最近はメディアや一般大衆と企業のつながりが強くなってきています。そのため、不祥事や不適切なビジネスによる影響はとてつもなく大きくなっています。こうした利害関係の調整がこれからの企業の大きな課題になります(図−1)。
図―1
図―1
ITで変化するビジネスモデル

 こうして見たときに、企業のビジネスモデルは大きく変わってくるはずです。ヤフーという会社があります。サービス利用者が検索する情報そのものは、ヤフーが持っているのではなく他者が持っていて、ヤフーはその目次を持っているだけです。しかも、サービスの利用者がお金を払っているのではなく、広告主が払っている。そういう仕組みで利用者が対価を払わないサービスが増えてきています。『ホットペッパー』や『R25』といったフリーペーパーもそうです。これも利用者が対価を払うのではなく、広告主が払っています。
 中小企業のネットワークでは、工場検索システムというものがあります。発注者が「今度はこんな仕事が必要だ」と希望すると、応札者が「ウチはいくらだったらやる」と返事を書く。発注者は、その中の良い条件のところと契約する仕組みです。
 コーディネート企業という存在もあります。以前は、発注者が個別発注、分割発注していましたが、最近は企業の調達部門が弱くなっているため、これに代わってコーディネート企業が、様々な業者を集めて最終的な品質保証をして納品するようになっています。
 こうした新しい仕組みには、ITが大きく関わっています。私はITを3つの時代に分けて考えています。最初は情報処理の時代。これは汎用コンピュータを度量計算などの計算機として使っていた時期です。計算スピードが速くなり、人ができない大きな計算ができるようになりました。次に、パソコンの時代。工場や現場の進捗状況など様々な情報が瞬時にわかるようになりました。そして、今はネットワークを活用して情報を交換する時代です。
 最初の情報処理の時代は、手作業から機械への置き換えですから、人手はこのぐらい減ったとはっきりいえます。それに対して、パソコンが置かれて、いろいろな情報が見られるようになっても、現れるのは間接効果なので定量化が難しいのです。
 一方、現在のようなネットワーク中心の時代になると、ビジネスの備え、レディネスができるようになります。異なる組織、いろいろな人とコミュニケーションがとれるようになり、例えば、見積り依頼が来たときに素早く対応できるようになりました。レディネスはビジネスチャンスを逃さないし、トラブルが起こったときのリスクを軽減できます。


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