ITにお金をかけたら、どんな効果が実現できるのか。効果創出のシナリオを考えてみましょう。まず、新規IT支出の際には、調達能力が問われます。世界から自社に役立つものを安い価格で買ってくる。これはとても重要な企業の能力です(図−3)。
また、システムを構築する際にはケイバビリティが重要になります。日本企業のケイバビリティは非常に高いといわれます。景気が悪くなっても、アメリカ的なリストラはせずに、会社の中で技術力を貯える習慣があります。これをケイバビリティと呼んでいます。そうすると、それが景気が良くなったときに役立ちます。 システム化についていえば、受注残がすぐにわかります。今施工中のものの進捗もすぐわかる。各工事の採算の現在の状況がわかる。これが能力です。ITを使ってこのような能力を高めることも会社の重要な役割になります。 それに加えてすでに会社にはネットワークがあります。営業所や支店にもパソコンが導入されていて、稼動中のアプリケーションがあります。経理基盤のシステム、工事管理のシステム、原価管理のシステムなども構築されています。同時に、会社の中にはノウハウ、ナレッジ、カルチャーなどができあがっています。こういうものをインタンジブル資産と呼んでいます。社員のやる気もまたインタンジブル資産です。こういうものがあって、全体としてIT資産を形成するのであり、これをうまく活用する能力が会社にあれば、ケイバビリティが高まるはずです。 そうすると今度は、会社の中でシステムをうまく活用できる会社と活用できない会社が出てきます。うまく活用できれば、それは「KPI」という業績指標にかかってきます。納期が短くなります。工期が短くなります。見積書をつくるまでの時間が短縮されます。こういうものを業績指標KPIと呼んでいます。ただし、ここまではまだ管理指標であって、お金にはなっていません。問題はその能力を活用して、いかに財務指標に持っていくかということになります(図−4)。 ただし、財務指標の良し悪しはアメリカ的な考えでは、その会社の経営力を判断する基準になりますが、財務指標の上がり下がりが、そのまま会社の能力の上がり下がりだと簡単に判断しないほうがよいでしょう。会社が本来持っている強み弱みは、ケイバビリティ、「会社は何ができるのか」という能力にかかっているのであり、これにもっと注目する必要があると思います。そのなかでも、とりわけインタンジブル資産に注目する必要があるのではないでしょうか。
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このように、インタンジブル資産やIT資産も考えながらIT投資について議論しましょう、という考え方を「ポートフォリオ」と呼んでいます。個別プロジェクトの採算性に加え、組合せを重視して考えるのです。株投資では、ハイリスクハイリターンのものばかり買い求めるのは危険なので、安定的な株を組み合わせて買います。会社のIT投資も、インフラにはこのぐらいの費用、新規投資にはこのぐらいの費用というように、組合せで考えるようになってきています。 それを4つのビジネスに分けて考えてみましょう。まずは実験的な投資。CALSはすぐに効果が出るかどうかわからないけれど、将来のために使えるかどうか実験的にノウハウを集めておこうというようなIT投資です。また、事業変革やプロセス効果、更新に関わるIT化もあります。これらのビジネスを組み合わせて投資するのがポートフォリオです(図−5)。
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これからは、IT投資によって会社の中の資産を増やしていくことが重要です。そこで最近注目されているのがメンテナンスです。例えば、使用するソフトウェアについて、コーポレート契約するだけで従来より大幅に費用が削減できます。特に90年代にはIT投資が水ぶくれしたので、その保守費用を見直すことによって、新規のIT予算を増やさなくても、新規投資が可能になります。 このように、最近は個別の投資を見るのではなく、投資全体をポートフォリオとして見る考え方が主流になりつつあります。そうやって世代を超えて、少しずつ役に立つIT資産を形成することが、現在の企業に求められているのだと思います。 そのために、ITを管理する仕組みを会社の中でステージアップすることを提言します。投資案件が良いから効果が上がるのではなくて、良い投資案件をちゃんと管理できる仕組みがあるから効果が上がるのだと考えてみましょう。これが成熟度という考え方です。企業の中で正しい仕組みをつくり、成熟度をアップさせて、IT投資マネジメントを発展させていくことが必要だと思います。 最後に本日の話をまとめてみましょう。21世紀になってITの企業の中での役割が少しずつ変わってきました。情報のスピードを評価する時代になってきました。人を育成するためにITを使うという視点が必要になってきました。何か起きたときのためのレディネスとしてのIT投資が増えてきました。では、IT投資で具体的に何をするかといえば、直接的には企業のケイバビリティを高めること。それがひいては財務指標に貢献します。このように、会社の役に立つ資産をみんなでつくり上げていくことを意識すれば、会社全体の採算性を向上させることができると考えます。 |
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