国際的視点から見た民間の創意工夫力・技術力を活かすための入札契約について
ITが分けた勝組と負組

  民間企業で経営戦略にIT(Information Technology)を活用することは、日本はアメリカに比べて非常に遅れています。理由は、日本のCEO(chief executive officer:最高経営責任者)のITリテラシー*がアメリカと比べると低い事が理由としていえます。
 例えば、アメリカの大統領選挙では、1996年頃にはすでにEメールを使った選挙活動をしていました。当時の日本では政治家がITを「イット」と呼んでいるレベル。これが典型的な例の一つです。
 こうした日米の差の背景には、企業の競争関係の厳しさの違いがあります。業績が悪化しても、日本はクビにならない。アメリカではすぐにクビになります。時代についていっていない人は残れません。
 つまり、いままでの日本のトップマネジメントはイージーだったということです。まず60歳代までトップを務めること自体が甘い。アメリカでは60歳を過ぎたら体力を理由にリタイヤしたいわけです。もう体が保たない。日本でそれができているということは、これまで非常に楽な仕事環境だったのではないのでしょうか。
 ITの問題は組織のトップの問題です。産官学含めてです。ITに弱い企業はトップがITを勉強していない。新しい知識だから勉強しないと理解できません。日本はこれまでITを勉強しなくてもトップの座にいられた。アメリカでは、そうはいきません。
 日本のCEOがITを一段低いものに捉えていたということではありません。知識がないから、全部人任せで自分で判断できない。
 このように多くの民間企業で、CEOのITの理解や知識には日米格差があった。日本はやっとここ10年間でかなりキャッチアップしたところです。
 日本の企業もここ10年で勝ち負けがはっきりしました。この10年で勝組になった企業は、やはりほとんど例外なくITを活用しています。ITを理解すれば勝組になれるとは言いませんが、ITを理解できるような経営者は大体優秀ですから、この10年で差がついてしまっている。
 ITとは例えれば種子島の鉄砲のようなものです。織田信長の鉄砲隊か、武田信玄の騎馬隊か。鉄砲を活用した新しい戦術か、馬を活用した旧来の戦術かで、同じ業界でも勝組・負組の差がものすごく出てきます。どちらの戦術を取るかの決断にはCEOのリーダーシップが不可欠です。
 つまり、CEOが、ITが開く可能性がわからないままでは、軍隊の編成が全部違ってくるわけです。勝組になるにはまずトップがITが開く戦略オプションを理解しないとだめです。
 そのとき、重要なことは、ITとはテクノロジーだということです。ツールではない。この大きなテクノロジーを理解しないといけません。決してツールの理解ではない。どうも日本では、ITをテクノロジーではなくてツールとして理解したままになっています。
 よくITの議論の際、まず組織のビジネスや業務の再構築をどうするかの考察こそが最重要であり、ITはそれを支援する単なるツールにすぎない、との意見がありますが、それは間違っています。
 航空機がこれからの戦争の主力になるとわかっていれば航空母艦をつくるでしょう。そこで戦艦をつくってしまうということは、航空機というテクノロジーの意味がわかってないことになります。
 航空機の将来性を理解した時点で、もう軍隊の性質が変わったわけです。いままでの編成で戦闘をしても仕方がない。あるいは環境というテクノロジーが理解できないと環境という広いビジネスが見えてこないわけです。
 ライブドアとフジテレビは象徴的でした。ITという戦略オプションを握っている人たちと握ってない人たちの違いが如実に出ていました。光ファイバーを利用すればインターネット上でテレビやラジオを放送できてしまう。広告もやっています。これからは新聞の発行部数も落ちるでしょう。このようにITのテクノロジーがもたらす社会変革は大きいわけです。
* リテラシー(literacy):読み書き能力。転じてある分野に関する知識。
CIOはIT戦略の翻訳家

 企業にCIO(chief information off-icer:最高情報責任者)**がいてもCEOがITに理解がないと経営には役立ちません。「なぜITに多額の投資をするのか」、という質問になってしまう。
 勝組の企業のCEOは、ITについて十分理解しています。企業におけるCIOの役割は、CEOが考えた戦略をITを使えばこういうふうにうまくいきますよと翻訳し伝えるわけです。
 ITが開く戦略オプションを経営戦略から除いてはどうしようもありません。CEOに対して、CIOはITが開く戦略オプションの可能性を提案していきます。
そのような提案の中で選択肢がいくつあるか。どれがベストか。例えば、一部をネット販売にして、支払いはクレジットカードにすれば、これくらい儲かりますと、あるいは光ファイバーを利用してオンデマンドで流せばこんなビジネスができますよ、というCIOの提案に対して、CEOが決断する。このような話が対等の立場でできるのがCIOとCEOのいい関係なんです。
 現在、民間企業におけるビジネス再構築のキーワードは「ビジネスモデル」です。戦略だけでは、ああしたい、こうしたいという思いだけで何も起きません。戦略だけでは施工できない。施工するためには設計図が必要です。「ビジネスモデル」とは、民間企業の経営戦略の設計図なのです。
 ビジネスモデルも十分ないままに走ることが非常に多い。CEOは施工には熱心です。しかし、図面がないままでは現場は混乱してしまいます。1台の新車を開発するだけでも、何千、何万人もの関係者が参加します。高層ビルの建設も大工の棟梁だけでやっているわけではありません。設計図がなかったらできないということです。
** CIO:企業において自社の経営理念に合わせて情報化戦略を立案、実行する責任者のこと。「最高情報責任者」「情報システム担当役員」「情報戦略統括役員」などさまざまな訳語が充てられる。

CIOのミッション
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