国際的視点から見た民間の創意工夫力・技術力を活かすための入札契約について
交渉が可能なWTO等の入札方法

 WTO(World Trade Organization)の政府調達協定では交渉が許されています。WTOでは、調達計画への参加に対する招請を行うときに、交渉を行う意図があるということを表明した上で入札を実施することが可能です。
 この表明をした場合には2段階入札になります。まず、1段目の入札では、入札者から案件に対する提案と価格が提出されます。その後の交渉が前提になっており、その交渉の内容も複数の業者が不利益を被らないように条件が厳しく設けられています。その交渉を通して、各者は何を要求されているか、自分たちのどこを評価されているかがわかり、それをまとめて2段目の入札、すなわち最終入札を行います。
 交渉入札は通常の入札に比べれば時間を要しますが、ある程度の規模の工事になれば、費やした時間以上のメリットがあると思います。費やされた時間とその結果生じる費用の低減との比較の問題です。大規模で創意工夫の余地が多く、かつ技術力を要する工事は費用も大きいので、それならば、協議、交渉の場を設けて人間の知恵を使った方が良いと思います。それを金銭に換算すれば見返りは大きいと思います。
 すでにアメリカの連邦調達ではこれに似た手法が採用されており、EUも2008年には加盟25カ国の独自の方法よりもこの手法が優先されるようになります。
 英国や、アングロ・サクソン系の国の一部で採用されてきた、入札後の交渉に対しては、入札後につくるものの内容を変えるのはおかしいのではないか、入札者から見ると交渉が平等処遇の原則に反するのではないか、恣意的にある入札者に有利になるのではないか、といった議論が世界的にあります。
 こうしたことが理由で出てきたのが、WTOの交渉入札に近いアメリカの連邦調達やEUの調達方法であり、やはり最終入札前までは、参加者をできるだけ平等に扱い、提案を出してもらい、いうならば入札時VEをきちんとした交渉の形で行って、それをもとに最終入札をするという方法です。
 今後、大規模で難易度が高い工事の場合は、WTOあるいはアメリカ、EUなどの、こうした交渉を行って最終入札する方法が、世界の主流になりそうな気がします。日本だけが商品を買うための、あるいは非常に簡単な工事向けの会計法による入札という状況は見直さなければいけないのではないでしょうか。
総合評価の評価方法

 WTOの入札方式の場合、2段目の最終的な入札方式は総合評価落札方式だと思います。PFIも総合評価方式です。
 価格以外に評価すべき入札者の創意工夫や技術提案を、発注者側がどのように価格と同列に評価するかが重要になります。総合評価は恣意的にしてはいけないのは当然ですが、客観的な評価はなかなか難しいことです。
 そのためには、技術提案を含めた創意工夫を評価する基準を決める必要があり、まず、評価する項目をきちんと拾い上げることが大事です。評価項目は数十に達するのが普通で、そうすると、評価する上で大事な項目がある一方で、評価する必要はあるが、それほど大事でない項目もあります。このため、項目ごとに、重み付けをする必要が生じます。一般には、数人程度の案件に通じている専門家が集まって、何らかの主観で、重み付けをしています。
 客観的な重み付けは困難ですが、主観を許すものの、可能な限り公平で、第三者が理解しやすい形で、すなわち、多少とも透明性良く決める方法の一つとして、AHP(Analytic Hierarchy Process)という応用数学の分野で確立されている手法があります。この手法の良い点は一対評価を行う点です。
 一対評価とは、例えば、A、B、Cの3つの評価項目に重み付けをする場合、A、B、Cの各項目を、それぞれ一対一で、すなわち、AとB、AとC、BとCをそれぞれ比較します。AとBを比較した場合、(1)AがBより「かなり重要」(2)AがBより「やや重要」(3)AとBの両方が「同じくらい重要」(4)AがBより「やや重要度で劣る」(5)AがBより「かなり重要度で劣る」と5段階ぐらいで評価します。3段階や7段階で評価することもあります。客観的に評価することが困難な場合でも、一対を比較して「やや重要」、「かなり重要」等、と判断することは、少しは容易です。この判断の結果が決まれば、理論に裏付けられた数式による処理で、重み付けの数値が決まります。
 図―1は落札者選定のために、評価項目がA〜Cの三項目、入札者がA〜Cの三者という簡単な場合の例を示しています。

図−1 AHPによる評価

まず、評価項目三つについて一対評価し、重み付けの数値を決めます。その三項目の各々に対して、A〜C各者の提案内容を一対評価すると、その結果として、A〜Cの三者の創意工夫の各項目に対する評価値が決まり、その値に重み付けを考慮して、全ての項目の評価値の和を求めると、評価順位が点数の形で決まります。
 AがBより重要で、かつBがCより重要であれば、AはCより重要であるのは明らかです。しかし、評価項目数が増えると、このような関係が明確でなくなり、CがAより重要である、といった重み付けの項目間の一対評価結果の整合性が良くなくなる評価結果も出てきます。AHP理論では、この整合性の判断ができ、整合性が悪い場合には、一対評価を見直し、整合性の改善を図ることもできます。
 仮に評価項目を40項目、総点数を60点とします。40の各項目に対して3〜7段階評価で一対評価を行うと、各評価項目に対して重み付けの点数が決まり、その合計点は60になります。
 入札者は発注者が公表した各評価項目について、各項目に使う金額や重みを考慮しながら提案内容を決め、金額と共に各自の提案を添えて入札します。
 入札後は、各項目ごとに入札者の創意工夫や技術提案を、評価基準を決めたときと同じく、各入札者間で一対評価します。一つ一つの項目について、A者の提案とB者の提案を一対一で評価します。評価基準を決めたときには重要さを評価したのに対し、入札者の評価では創意工夫や技術提案の良さの評価に変わります。後は、評価基準に重み付けをしたときと全く同じで、各入札者の各項目毎の評価点が決まり、その評価点に重みを乗じた合計点が各入札者の創意工夫の点数になります。
 一対評価を基に数値化することで、どのような評価基準で、どのような評価・判断をしたかが、第三者が見たとき、わかりやすくなります。
 価格と創意工夫や技術提案の大事さは案件によって変わります。このため、例えば、Aの案件は価格6割、創意工夫4割、Bの案件は価格3割、創意工夫7割で評価するなど、総合評価は案件ごとに価格と創意工夫の比率を変えて評価し、その点数を加算して決定するのがいいと思います。


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