SRの国内外の動向及び今後の展望について
SRIを投資基準に

 これらを背景に90年代後半からSRI(Socially Responsible Investment:社会的責任投資)が広がってきます。社会的責任投資とは、財務的な評価に加え、環境・社会・倫理といった点において社会的責任を果たしているかどうかを投資基準として投資対象銘柄を決める方法です。グローバル・インデックスの作成においては、当然日本の企業も対象になります。そこで質問表が日本の評価対象企業に送られてくるようになりました。数年前、実際に質問表が送られた企業の方が、初めて聞く評価機関名に戸惑われ、問い合わせを受けたこともありました。評価基準も含め、当初戸惑いを隠せなかった日本の企業でしたが、いまでは、環境報告書やCSR報告書を発行する企業も多くなりました。
 SRIが広まったことはCSRを進める上で重要なポイントの一つになります。これまで社会的責任は社会問題の一つとして議論されていました。ある企業が問題を起こしたらマスコミや市民団体に批判される。そのような社会運動として理解されていました。つまり市場の外の問題という意味です。
 企業の中長期的な価値を測るときに投資基準となる財務データはもちろん重要です。しかし、例えば、ある企業が環境リスク、例えば土壌汚染問題を抱えていた場合、地域社会に甚大な影響が出る可能性があります。これが事実であった場合、これを回復するためにどれだけのコストがかかるのかという問題も発生します。あるいは途上国でスウェットショップの問題が発生し、NGOに非難されることになれば、今期はいいかもしれないが中長期的な企業のリスクは大きいということになる。そのような意味からSRIが広がってきました。
 90年代後半にSRIが伸びていくのは、機関投資家が絡むようになってからですが、機関投資家だけでなく普通の年金基金もSRIを意識するようになってきたイギリスでは、年金法の中に「ソーシャル・スクリーニング」についての基準があれば開示しなさいという規定がすでにあります。また、北欧やオランダでは年金運用の中にSRIを組み込むことはもう当り前のことになっています。
 少しずつこういう流れが出てきています。今後、CSRを軽視するような企業は、企業価値を落とすことになる時代になると思われます。日本でもようやくその方向が見えてきた段階です。ただし、まだ、そうなったとは思わないし欧米でもその段階に入ったというところまではいっていません。一番進んでいるアメリカやイギリスでもソーシャル・スクリーニングのかかっている投資は、全体の投資の11〜12%、8分の1か9分の1です。しかし、90年前半には数%だったことを思えば、この10年でこれだけ伸びたともいえるわけです。

ソーシャル・スクリーニング:(企業が発行する有価証券に投資するに当たって、財務的スクリーンに加え社会・環境への配慮といった側面を評価材料として投資先を選定する行為を指す)

CSRが企業に求めること

 持続可能な発展を否定する人は誰もいないと思います。80年代のペースで物を消費し廃棄し続けた場合、2005年には地球がいくつも必要だというシミュレーションもあります。
 これからは、日本の企業もCSRを重視した企業活動をしていかないことには企業評価も上がらないという流れになってくるでしょう。日本の経営トップも例えば環境のことはコストがかかるので取り組まない、という人はさすがにいません。特にCO2排出量の削減のように数値目標の達成が企業評価に結びつく流れも今かなりある。そこにソーシャルな問題も入ってきます。こうした環境や社会の問題でどのような対応があるのでしょうか。

まずベースはコンプライアンス。最低限、今ある法律を遵守する。しかし法律を守ればすべて解決できるとはいえません。さらに企業価値を高められる取り組み方が必要になる。例えば、環境問題であれば、定められた排出量をクリアさえすればよいとするレベルにとどまらず、よりイノベーティブなマネジメント・システムをつくり対応していく。あるいは環境配慮型の商品を開発する、リサイクルシステムも地域社会を巻き込んでコジェネレーションを考えて大きなシステムをつくる、といった企業価値を高める方法もあり得ます。
 産業、企業によってその内容に違いはありますがCSRが企業に求めていることは、全ての業種に共通する行動についてです。
 港湾空港関係であれば、港湾、空港をつくるとき、いままで環境や地域社会との関係といった問題について考えなかったわけではないと思います。CSRで議論していることは、これらの問題をトータルで見なくてはいけないということです。
 例えば、SRIの質問表に対して自社診断が0点になる、あるいは満点になる企業などあり得ません。領域によって凹凸があるのが普通です。では、凹んだところさえ対応すればいいかといえばそういうことでもない。
 また、ステークホルダー**との関係についても、これまで投資家に対してインベスタ・リレーションズ、地域社会に対してコミュニティ・リレーションズ、消費者・顧客に対してカスタマー・リレーションズ、などといったリレーションシップを図っています。では、これを束ねたらいいのかというと簡単には束ねられない。各リレーションが生まれた経緯と背景が違うため、微妙にベクトルが違う。
 では、企業としてどのような理念を持って取り組むべきなのか。それは、経営トップが大きなリーダーシップを持ってトップダウンで進めていかなければできません。トップが強力にコミットしなければ部門ごとの活動を束ねてベクトルを一つの方向に向くようにする作業はできないと思います。バラバラにやっていては対外的にメッセージが伝わりません。

** ステークホルダー:(企業に対して利害関係を持つ人。社員や消費者や株主だけでなく、地域社会までをも含めていう場合が多い)
CSR実施に至るプロセスが重要

 実際に社員全員にCSRを認識させるような作業は、トップや担当部署が非常に苦労されるところだと思います。しかし、社員全員がCSRは全部署に関わってくる問題であり、各部署ごとのラインそれぞれすべての領域に関わる問題であることを認識する必要があります。
 企業によっては、トップだけの認識だったり、現場は重要だと認識していてもトップに認識がないこともあります。またトップと現場は非常に認識していてもラインのヘッドがほとんど認識していないこともあります。
 例えば、リコーでは2003年1月にCSR部署をつくり、CSR憲章を1年かけて作成しました。この憲章はリコーの元々ある経営理念をベースにつくられたものですから、決して特殊なことが書かれているわけではありません。人によっては1年もかからないだろうと思われる内容です。
 しかし、リコーグループ約380社トータルで取り組むべきこととして、CSR部署が中心になって各ラインすべてで時間をかけて議論したわけです。
 松下電機もCSR部をつくったのは2年前の夏ですが、その前に1年をかけて、トップではなくコーポレートコミュニケーション部が自発的に各部署横断的な勉強会を行っていました。その後、今度はトップが中心になって部署を立ち上げた。そういう形で体制はスタートしました。
 トヨタも今年1月にCSR憲章をつくりました。「社会・地球の持続可能な発展への貢献」と言っていますが、これも1年間かけて欧米の現地会社へ担当の方が出向いてグローバルトヨタとして考えたわけです。
 つまり、CSR憲章をつくることは結果で、実はそこに至るまでのプロセスが重要になります。
 CSRについて早い段階で対応していた企業の特徴は、一言で言えばやはりグローバル企業です。業種でいえばメーカー。海外売上比率が高く、外国人の持ち株比率が高い企業は対応が早い。例を挙げた企業もその条件に当てはまります。去年あたりから、必ずしもグローバル企業だけの話ではなく企業評価そのものだという認識の広がりとともに、CSRに対応する企業数も増えてきたわけです。


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