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国際標準への途

●アセットマネジメントは3段陪で進む

広瀬  小林先生に、SCOPE講演会でアセットマネジメントをテーマに講演していただいたのは、平成14年1月のことでした(演題「不確実性を考慮したアセットマネジメント手法の社会資本整備への導入」)。それから5年経って、状況は変化しているのでしょうか。

小林  この5年間に急速に発展しました。講演させていただいた当時は、構造物の劣化過程に関するデータも少なかったですし、社会のアセットマネジメントに対する理解もそれほど深くはなかったと思います。現在では、ある程度データも蓄積されてきました。また、当初は橋梁・舗装のアセットマネジメントが先行しましたが、現在では港湾、空港など、広範囲にわたる社会資本において、アセットマネジメントがスタートしたという状況です。
    アセットマネジメントの発展段階は3つに分類できると思います。第1は、予算計画を立てて、予算を平準化し、どのくらいの予算があれば、どの程度のサービス水準か維持できるかを検討する段階です。さらに、耐震投資とアセットマネジメントをどうすり合わせていくのか、新規投資とのパランスをどのように図るのかといった問題を検討する段階です。日本のアセットマネジメントは、現在この第1段階にあると思います。
    第2段階では、アセットマネジメントを実施するためのプロセスをどのように構築するかという問題が重要となります。例えば、PDCAのプロセスをどう運用するのか、あるいはニューパプリックマネジメントにおけるアウトカム、アウトプットと、どのように連動させていくのか、あるいは、性能規定型の維持補修契約を試行する。このようなことが問題となります。
   第3段階では、実験や現地での試験施工を通じて、新しいエ法や素材が効果を発揮するのかどうか、継続的に検証を続けることが必要となります。 新しい技術革新の成果を、アセットマネジメントの中で継続的に導入できるようになれぱ、アセットマネジメントは完成の域に達したと判断できるのではないでしょうか。

広瀬  維持補修のいわゆるメンテナンス契約は、施設など、構造物をつくるより難しいところがあると思います。

小林  メンテナンス契約が難しいのは、契約の中に必要な事項を全て盛り込むことが不可能なため、どうしても不完全な契約になってしまうからです。このような契約を不完備契約と申します。メンテナンス契約で、全てを網羅することは不可能です。アメリカの性能規定の維持補修契約は、構造物のメンテナンスを要求する契約ではなく、マネジメントを要求する契約となっています。要するに町医者契約なのです。町医者も、難病や重病など、自分の手に負えないと思ったら、すぐに大きな大学病院を紹介します。それと同様に、維持補修契約では、手に負えないものや、高額のコストがかかるような兆しが見えたら、すぐに管理者へ連絡をしなさいということを要求しています。
   ただし、アングロサクソン流の性能規定型維持管理契約を日本に導入する場合、管理瑕疵の問題が重要になって参ります。日本の場合は、管理瑕疵が起こった場合、管理者か無過失責任を負いますが、アメリカ等、コモンロー(Common Law)を採用している国々では、管理者は過失がある場合にのみ責任が問われるという過失責任制度が採用されています。日本では管理者が無過失責任を負うために、メンテナンス契約を発展させるためには、官民ともにリスクマネジメントのシステムを確立するとともに、それを支えるいろいろな制度をつくらなければなりません。

広瀬  港湾の施設の技術上の基準は、「港湾の施設を建設し、改良し、または維持するための基準」であり、平成11年にいままでの基準を法定基準にしたときに、「施設ごとに適切な基準をつくって管理することを原則とする」とされました。これを受けて、SCOPEではこれまで点検マニュアル等を作成し、国有港湾施設について、実際に点検作業を行ったりしてきています。また、18年度になって、維持管理計画を策定することになりましたので、年度末には各地で行政に協力して説明会を行ったところです。このように一歩一歩、取り組みが進んできていますが、いろいろな課題もあります。港湾では、国直轄の建造施設については、造る主体と管理する主体が違うのですが、建設から管理に至る過程を通じた統一的なマネジメントシステムが必要ではないでしょうか。

小林  施設によって違いますが、初期施工時における品質か劣化過程にかなりの程度の影響を及ぼすことがわかっています。施工時点で問題があったところは、後からでも問題になることが多い。施工時点では、わかっている情報が、マネジメントの段階に継承されていない場合が多い。
    実際の耐力はどれだけかという「実耐力」を測るのも難しい問題です。設計の場合は、理論モデルの中で議論していきますが、管理の段階では実耐力が問題となる。実際に点検士がその状況を判断できるかどうか、さらに、それをあらかじめ定量的に表現しておくことは至難の技です。点検時に、点検士の判断だけに頼るのではなく、例えば問題となる箇所を撮影し、複数の人間で問題の程度を確認するという過程を踏まないと非常に危険だと思います。



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