ランダム・フォーカス
アセットマネジメントと性能規定型技術基準 港湾における新しい潮流

2.性能設計体系を全面的に採用した港湾の新技術基準

2-1 性能設計の考え方

 設計法に関する動向として、性能設計に向けた取り組みが各方面で行われている。また、政府調達協定などを背景に、ISO規格などの国際規格との整合性・調和性が強く求められている。このような背景のもと、平成13年3月閣議決定された「規制改革推進3か年計画」において基準類の国際整合化、性能規定化に向けた方法が明確に打ち出され、土木・建築にかかる設計の基本4)、包括設計コード5)、性能設計概念に基づいた基礎構造物等に関する設計原則6)などの個別の基準類に対する上位規格に対応する指針類が策定された。港湾の分野では、2007年4月から基準の性能規定化に主眼を置いた港湾の施設の技術上の基準(以下、「港湾技術基準」とする)に改定された。
 港湾構造物の性能設計の基本的枠組みとしては、遵守すべき事項として目的・要求性能・性能規定が規定され、性能照査手法の具体的仕様については任意事項となる。ここで、目的とは当該施設を必要とする理由、要求性能とは目的を達成するために施設が保有しなければならない性能を、説明責任の観心から平易に表現したものであり、性能規定とは要求性能が満たされるために必要な照査に関する規定を技術的観点で表現したものである。照査にあたり考慮すべき作用の組合せに対応する設計状態は、永続状態、変動状態(概ね年超過確率0.01程度以上の作用が主たる作用の状態)および偶発状態(概ね年超過確率0.01程度以卜の作用が主たる作用の状態)とする。なお、この年超過確率の値は便宜的に定めたものであり、限定的なものではない。港湾構造物に求められる性能としては、基本的に永続状態と変動状態に対しては使用性、偶発状態に対しては、施設の機能や重要度に応じて、安全性、修復性、使用性のいずれかひとつの性能が要求される。ただし、施設の機能と重要度によっては偶発作用に対する性能が求められないこともありうる。
 これらの目的・要求性能・性能規定を性能の階層として整理すると図-3の通りであり、性能について概念図を示すと図-4の通りである。こ れらの関係を基に、施設の目的および要求性能は、上位の基準に相当する「港湾の施設の技術上の基準を定める省令」に、性能規定は、省令に 適合する要件を定めた「港湾の施設の技術上の基準の細目を定める告示」において規定された。

図−3 性能の階層等
図−3 性能の階層等
図−4 性能の概念図
図−4 性能の概念図

2-2 性能照査

 性能照査とは要求性能又は性能規定が満足されることを照査する行為のことである。具体的な性能照査法や性能照査において設定が必要な許容される破壊確率、変形量等の限界値は設計者の判断に委ねている。ただし、性能規定化された基準が設計者に正しく理解されるためには、性能照査手法の標準的な考え方や最低限度の限界値を例示する必要がある。このため、基準の性能規定化にあたっては、基準の策定に併せて、行政的な解釈通達や参考資科(附属書)を示すことで、全体として一つの枠組みを形成することが必要と考えている。
 設計状態ごとの標準的な性能照査手法は次の通りである。永続状態または波浪等を主たる作用とする変動状態に対する照査については、力の釣り合いに基づく信頼性設計法を用いることか推奨される。信頼性設計法としては設計者の便を考慮して、簡易なレベル1の方法とし、具体的な部分係数は付属書に参考例示される。例えば、通常のケーソン式混成防波堤では再現期間50年程度の波浪(変動作用)に対して使用性か求められるが、この使用性に対する照査は、防波堤が滑動・転倒・支持力不足によって破壊する確率が許容限度(システム破壊確率として1%程度以下の低い値)以下となるように定められた部分係数を用いて性能照査することにより行われる。レベル1地震動を主たる作用とする変動状態についても使用性の確保か求められる。なお、次期基準においては、レベル1地震動の作用は、工学的基盤における時刻歴波形で与えることとしている(http://www.ysk.nilim.go.jp/kakubu/kouwan/sisetu/sisetu.htmlにより参考波形はダウンロード可能)。性能照査においては、従米の設計震度は使用せず、1次元の地震応答解析より得られる地表面の最大加速度から構造物の変形に対応した照査用震度を算出する方法を参考例示する。また、偶発状態における照査については、施設の変形量や損傷程度などを適切に評価し得る手法を用いることが推奨される。具体的には、レベル2地震動に関する偶発状態に対しては、地盤と構造物の動的相互作用を考慮した非線形の地震応答解析を実施し、施設の変形量や部材の応力等 が限界値以下となることを確認する。なお、この限界値は、施設の機能および求められる性能(安全性、修復性、使用性)毎に異なることになる。

●参考文献
1)高橋宏直・横田弘・岩波光保:港湾施設のアセットマネジメントに関する研究,国土技術政策総合研究所研究報告No.29,2006.9
2)高橋宏直・横田弘・岩波光保:桟橋上部工を対象としたアセットマネジメントの試行,「コンクリート構造物のアセットマネジメント」に関するシンポジウム論文集,日本コンクリートエ学協会,2006.12,
3)高橋宏直・岩波光保・横田弘:港湾施設の維持管理計画作成に関する基本的な考え方,国土技術政策総合研究所研究資料No.376,2007.3
4)国土交通省:土木・建築にかかる設計の基本, 2002.
5)本城勇介他:「性能設計概念に基づいた構造物設計コード作成のための原則・指針と用語(通称「code PLATFORM ver.1」の開発,JCOSSAR2003,pp,881-888,2003
6)地盤工学会:性能設計概念に基づいた基礎構造物等に関する設計原則,2004



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