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1-1 アセットマネジメントの考え方
一般的なアセットマネジメントは、物理的施設・不動産のみならず、資本、人材、技術、知的財産等を含む「資産」を対象として、リスクを踏まえた上で資産の全体価値の向上を図る手法とされ、利潤を追求する民間分野で使用されている。この手法を社会資本にも適用し、効果的・効率的な維持補修・更新投資を実施するために、社会資本を「資産」とみなして、このマネジメント手法を導入することか進められている。
しかしながら、現実的には社会資本に対するアセットマネジメントとしての具体的な概念や手法は必ずしも明確ではないことから、国総研港湾研究部では土木学会における研究成果等を踏まえて、港湾におけるアセットマネジメントを次のように整理している。
「国民の共有財産である港湾資本を、国民の利益向上のために、時間軸および空間軸の観点から、機能を維持し、資産価値を向上させて、効果的かつ効率的に運用することを目的として体系化されたプロセス」
ここで特に明確にしている「時間軸」と「空間軸」の観点の具体的な内容は次の通りである。
1.時間軸の観点
港湾におけるアセットマネジメントでは、単年度の予算制約下での最大効果を目指すレベル(戦術)から、経済社会動向・産業政策・財政政策等を踏まえて長期間を対象として最大効果を目指すレベル(戦略)まで、幅広い領域での時間の階層を同時にマネジメントすることか必要である。
2.空間軸の観点
港湾におけるアセットマネジメントでは、ある地区での単一または複数の係留旅設などを対象とする小規模な空間のレベルから、県の全港湾あるいは地方整備局の全港湾、さらには日本の全港湾を対象とする大規模な空間のレベルまで、幅広い領域での空間の階層を同時にマネジメントすることが必要である。
1-2 港湾施設の維持管理計画
1-2-1 維持管理計画作成の基本的な考え方
時間軸の観点からのアセットマネジメントでは、維持管理計画を作成することは非常に有効かつ重要である。このため、今回の「港湾の施設の技術上の基準を定める省令の改正」(2007.4)では、技術基準対象施設は供用期間にわたって要求性能を満足するように維持管理計画書等に基づき適切に維持することとなった。
しかしながら、これまでは港湾施設に対して維持管理計画書が作成された事例はほとんどなかったことから、維持管理計画書の具体的な内容は明確ではなかった。
このため、国総研港湾計画研究室と港空研LCM研究センターでは、従来の研究成果を集約するとともに港湾局建設課(平成19年度より技術企画課と改称)との協議を踏まえて維持管理計画書について検討した。検討に際して、維持管理計画の骨格となる基本的な考え方として次の5項目を整理した。
1.変状および劣化の発生を前提
港湾施設では、時間経過と共に変状および劣化か発生する。ただし、施設ごとにその時間的な変化は異なり、場合によっては想定以上に早く劣化する場合がある。一方で、劣化しないように認識される場合でも、それは劣化が遅いだけでいずれ顕在化することが考えられる。また、経年的な劣化ではなく地震等により急激に変状が発生する場合がある。
したがって、施設毎に劣化および変状の時間変化は異なるものの、全ての施設において変状および劣化の発生を前提として計画を作成する。
さらに、変状および劣化は建設直後から時間経過とともに進展するものと、地震や荒天等により短時間で急激に進展するものとの両者の特性は大きく異なることから、通常時と地震や荒天による異常時を区分して計画を作成する。
2.事後保全から予防保全への転換
従来の維持管理では、施設の変状および劣化により性能低下に至ってから補修、更新を実施することで性能回復をする「事後保全」が一般的であった。しかしながら、変状および劣化の進行状態を点検で発見できなければ非常に危険な状態となることのみならず、供用期間内における維持管理費用(維持、補修、更新等に要する費用)が多額になることが明らかである。
したがって、港湾施設の維持管理に対する基本思想を従来の「事後保全」から変状および劣化による性能低下を事前に防止する「予防保全」に転換して計画を作成する。
3.主要部材とその他部材等の区分および維持管理レベルの設定
維持管理において「予防保全」が基本的に有効ではあるが、対象施設を構成する様々な部材や附帯設備の全てに「予防保全」を適用するのは適切ではない。
したがって、効果的かつ効率的な維持管理を実施するためには構造的に特に重要な「主要部材」、これに準じる「その他部材」、さらにそれ以外の「附帯設備」に区分して、それぞれに「予防保全」、「事後保全」の考え方を路まえた維持管理レベルを設定した上で計画を作成する。
4.劣化の予測と実態の乖離を前提
「予防保全」を行う部材における変状および劣化の予測は、予測する時点において得られる最大限の情報と最善の手法により実施される。しかしながら、その結果から将来の傾向を把握することはできるものの、将来の状況を正確に予測することは難しい。
したがって、将来の変状および劣化の予測結果と実態が乖離することを前提として、その乖離状況に応じた対応策を想定して計画を作成する。
5.総合評価の実施
点検診断の結果を総括し、問題点の整理や代替案の検討等を行い、維持補修の基本方針を定める総合評価を実施することを念頭において計画を作成する。
1−2−2 維持管理計画書の構成
技術基準対象施設の維持に関し必要な事項を定める告示第2条第2項では、維持管理計画で定める事項として以下の項目を示している。
1.当該施設の供用期問並びに当該全体及び当該施設を構成する部材の維持管理についての基本的な考え方
2.当該施設の損傷、劣化その他の変状についての計画的かつ適切な点検診断
3.当該施設の損傷、劣化その他の変状についての計画的かつ適切な維持工事等
4.前3号に掲げるもののほか、当該施設を良好な状態に維持するために必要な維持管理
これら省令および告示に定められた項目を踏まえて、維持管理計画書は次の5章から構成することとした。ここで、計画書全体の構成を図-1に示すとともにあわせて点検診断のレベルを整理した結果を図-2に示す。
- 総論
- 点検診断計画
- 総合評価
- 維持補修計画
- 異常時における点検診断
平成19年度からは、新規の施設を対象とした維持管理計画書が実際に作成されるとともに、既存の施段に対する維持管理計画のあり方についても検討が進められる予定である。今後、それらの成果を踏まえて港湾のアセットマネジメントがより具体的に進展することが期待される。
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| 図−1 維持管理計画の体系 |
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| 図−2 点検診断の体系 |
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