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CALS/ECの本来の目的は、情報の電子化、通信ネットワークの利用、情報の共有化により、省資源、省スペース、検索時間の短縮、国民への説明能力の向上、移動コストの削減、現場作業の安全性向上、住民情報のサービス向上、防災・維持管理、コスト縮減、品質の向上、社会資本の有効活用、官民技術レベルの向上を行おうとするものである。このうち、情報の電子化と通信ネットワークの利用は、一部に問題があるとはいえ、ほぼ達成されつつあるが、情報の共有化については、まだ、不十分な点がある。この点を改善し、モノづくりに生かしていく必要があるが、そのために必要な技術について考える。
良いモノづくりをするには、良いアイデアを出し、良い設計で具体化して、うまく製造(建設)を行い、うまく利用することが必要である。人が中心となって、モノ、金、情報を利用して、これを成し遂げるが、このうち、CALS/ECでは情報の面で寄与できる。
新しい良いアイデアを出すには、複雑系でいうところの、創発3)が起きることが必要であるが、これには、データが大量に集積されて、量が質に変化することが必要である。これをシステムとして行うには、データマイニング4)などの手法が使われるが、これは、補助的な手段であると考えるべきで、基本は人である。そのためには、データの全体をそれとなく拾い読みする、いわゆるブラウズが有効であり、また、他の人と非公式に意見交換するのも重要である。前者を実現するものとして、最近のコンピュータソフトには、ハードディスクの内容などをサムネイル5)で表示し、すぐにアクセスできるようなものもあり、こうしたやり方は活用できるであろう。また、後者については、ネットワーク上でのチャットを自動的にファイル化して集積できるようなものもある。
最近の検索技術は、かなり高度になっており、似ている画像の検索や全文検索もそれほど困難ではない。コンピュータを利用し出すと何でもコンピュータで自動的に結果を出すことを期待するが、むしろ、コンピュータと人間がインタラクティブに作業を進めた方が、かえって効率的で、より良い結果が得られることも多い。関係のありそうな情報を検索し、その結果を人が判断するという作業形態が、アイデアを出す段階では好ましいと思われる。
設計の段階では、過去の類似の例を参照して、より良いものができるようになり、チェックにも使える。建設段階では、合理的な施工計画の作成、スケジュール調整の迅速化、必要書類の検索、閲覧の高速化などが期待でき、完成時の提出書類なども作業と並行して準備できるようになる。完成後、災害などが起きた場合には、図面の入手が最も急がれるが、これも電子化してあれば、容易である。しかし、これらの利点は、大量に情報が蓄積されて初めて威力を発揮するものであり、今しばらく、時間がかかる可能性があることに留意する必要がある。
CALS/ECで、コンピュータを多用することになった時の、1つの問題は、エラーへの対処である。以前、株の取引で、桁を間違えて入力して、大損害を受けたということが報道されていた。建設事業では、こうした間違いは人命に関わる場合も多い。データの転記などは不要になるから、エラーは、基本的には入力時に起きると考えられる。これらへの対処法の1つとして考えられるのは、データの可視化である。数字を入力したら、それがすぐに図形として表現されるような仕組みを考える必要がある。一度、エラーが起きると、CALS/ECを利用した場合には、それは、途中で訂正されることなく容易に下流に伝播してゆく。したがって、途中段階でも随時データを目で見える形に表現して、人間がチェックをできるようにすることが望ましい。大局的な判断は人がして、形式的なエラーや整合性などは、コンピュータで検出するという、人とコンピュータの適切な共同作業の形を考える必要がある。
データが、大量に集積された場合、そのセキュリティ対策も重要である。これは、漏洩などのほかに、最も重要なのは、データロス対策である。最近のハードディスクはテラオーダーの容量を持つようになってきており、1度失われると甚大な影響を与える恐れがある。大量なのでバックアップも手間がかかるが、是非とも実行すべきである。
こうしたシステムを確立することにより、より効率的な建設生産システムが実現できるであろう。
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創発:そうはつ、emergence システム理論や複雑系、生命科学の用語。システムを形成している個々の要素のレベルでは持っていない性質が、システム全体として振る舞う際に発現すること。(全体は部分の総和以上) |
4)
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データマイニング:Date mining データの巨大集合やデータベースから有用な情報を抽出する技術体系。 |
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サムネイル:thumbnail 画像や印刷物ページなどを表示する際に、一目でわかるように縮小させた見本のこと。 |
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