港湾の技術基準の改正について~より合理的な設計等に向けて~

1. はじめに
 港湾の施設の技術上の基準(以下「技術基準」という。)は、港湾法に規定される省令等からなり、港湾の施設を建設、改良、維持する際の基準として適用されています。現在の技術基準は、平成11年に改正されています。
 一方、ISO2394「構造物の信頼性に関する一般原則」を始めとする国際規格において、性能規定化の動きが進展しているとともに、平成13年3月に閣議決定された「規制改革推進3カ年計画」において、技術革新に対して柔軟に対応できるよう、仕様規定となっている基準については、原則としてこれを全て性能規定化するよう検討するとの方針が出されました。
 また、平成15年3月には「国土交通省公共事業コスト構造改革プログラム」において、「土木・建築にかかる設計の基本(平成14年10月)」に沿った基準類の改訂の一環として、基準の性能規定化の方向性が示されたこと等から、今回の改正において、技術基準を全面的に性能規定化することとなりました。
 本編では、技術基準の適合性を確認する新たな制度や信頼性設計法の導入、地震動の考え方の変更等の改正のポイントを紹介します。
2. 技術基準の性能の階層
 技術基準では、港湾の施設の性能の概念を、目的、要求性能、性能規定、性能照査の4つの階層に分類し整理しています。
 ここで、目的とは当該施設を必要とする理由、要求性能とは目的を達成するために施設が保有しなければならない性能、性能規定とは要求性能が満たされるために必要な具体的な規定、性能照査とは要求性能が満足されることを照査する行為のことです。
 これら性能の4つの階層と技術基準の関係は、図-1に示すとおりであり、遵守すべき要求性能や性能規定に関する事項は、省令、告示で提示され、その性能照査の方法は、附属書で参考として示す予定です。
図-1 技術基準の性能の階層
図-1 技術基準の性能の階層
3. 基準適合性の確認制度の整備

 技術基準の性能規定化に伴い、自由な発想に基づく設計が可能となりますが、一方でその設計が技術基準に適合していることを確認するための枠組みも必要です。
 また、規制改革推進3カ年計画では、「事業者の自己確認・自主保安のみにゆだねることが必ずしも適当でない場合であっても、ただちに国による検査を義務付けることとするのではなく、‥‥、公正・中立な第三者による検査等を義務づける仕組み(第三者認証)とすることについて十分な検討を行う」と言及されています。
 そこで、今回、図-2に示すように、技術基準対象施設のうち公共の安全その他の公益上影響が著しいと認められる施設について、国土交通大臣が定めた設計方法を用いない場合は、施設が技術基準で定める性能を満足していることを確認する登録確認機関制度を港湾法に位置づけ、本年5月17日公布をしたところです。この確認の手続きは、平成19年4月1日から施行されることになっています。

図-2 技術基準の適合性の確認方法の流れ
図-2 技術基準の適合性の確認方法の流れ
4. 信頼性設計法の導入

 港湾の施設の性能照査は、従来の基準では安全率法や許容応力度法を基本としてきました。この手法は、照査される限界状態が明確に定義されておらず、また、作用効果や耐力を確定的に扱うものであるため、施設の安全性を定量的に評価するものとは言い難いものがありました。
 これに対し、照査すべき限界状態を明確に定義し、その状態に対応する施設の破壊モードを抽出し、その破壊モードにおいて想定される破壊が生じないことを確率論に基づいて定量的に評価する方法を信頼性設計法と言います。
 技術基準の参考として示す附属書においては、上位基準への適合、並びに設計実務の簡便性等を考慮して、信頼性設計法のうち一番簡単なレベル1信頼性設計法(部分係数法)を標準的な性能照査手法として、具体的な部分係数を提示して設計者の利用の便に供する予定です。

5. レベル1地震動の考え方の変更

 港湾の施設のレベル1地震動に対する耐震設計は、これまで、地震動による動的な作用の影響を静的な慣性力に置き換えて設計震度とする震度法を基本としてきました。
 しかし、地震動による作用は、震源特性、伝搬経路特性、対象地点周辺の地盤特性(サイト特性)に依存して変化するとともに、構造物の地震応答は入力地震動の振幅の大小だけでなく、それ自身の周波数特性にも依存するため、設計に用いる入力地震動はこれらの諸特性を適切に反映したものであることが望ましいものです。
 このため、港湾の施設の耐震性能照査において考慮すべき地震動による作用を求める際には、従来の震度法に代えて、図-3に示す工学的基盤における地震動の時刻歴波形を与え、表層地盤や構造物の特性を考慮して地震動による作用を算定する方法を用いることとしました。

図-3 地震動の考え方
図-3 地震動の考え方
6.おわりに

 技術基準は、図-4に示すように本年の夏までに、その省令、告示を改正し、できるだけ早期にその解説書を出版し、研修や講習会を実施する予定です。これによって、来年4月からの施行に必要な周知期間を取ることにより、技術基準の改正の運用を円滑に行う予定です。
 今後、新しい技術基準の利用に際して疑問等ありましたら、最寄りの地方整備局等に何なりとご質問を頂ければと思います。

図-4 基準改正に関する今後の予定
図-4 基準改正に関する今後の予定


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