平成の大改修 小樽港北防波堤改良工事について

はじめに
 小樽港北防波堤は、築港および橋梁の世界的権威である廣井勇博士の指揮・監督により明治30年(1897)に第1期工事として着工し、明治41年に1,289mが完成しました。
初代小樽築港事務所長 廣井勇博士 北防波堤は、20世紀初頭までの近代港湾技術の粋を結集し、調査・計画・設計・施工にいたる全てが日本人の手によって実施された我が国初の本格的な外洋防波堤です。また、その成果と廣井勇著書「築港」により、我が国の築港技術は一気に世界水準に達することができたことから、工学的に極めて価値の高い構造物といえます。平成12年には土木学会推奨「土木遺産」に指定され、翌、平成13年には「小樽みなとと防波堤」で北海道遺産にも選定されました。北防波堤は建設から100年の歳月を経た現在でも、廣井博士が当時期待した機能を発揮し続けている施設ですが、平成14年度に施設の安定性を現況再現実験で照査したところ、「基礎部の安全性の低下=本体の安全性の低下」が確認され、平成15年度のマルチビームによる現況調査(図−1)でも港外側基礎部の階段形状を形成する捨塊(ブロック)の散乱、基礎捨石、被覆石の洗掘が確認され、このまま放置すれば、健全な防波堤本体までもが危険となり本来の機能を維持することは難しいと判断し、改修に踏み切ったものです。
 改修にあたっては、貴重な財産である小樽港北防波堤を現状の機能を維持したまま後生に継承すること、廣井博士の設計思想および構造を踏襲し永続性を確保することを念頭に改良工事に着手しました。

写真−1 小樽港全景
写真−1 小樽港全景

図−1 マルチビーム現況調査
図−1 マルチビーム現況調査
工事概要

 改良工事は、マルチビーム調査や潜水調査により捨塊の散乱等が顕著で、断面的に不安定な状況となっている第1期工事の終点側(沖側)である丙部4000尺断面箇所から、改修基本断面(図−2)をもって着手しました。なお、港内側については、灯台ケーブル移設に関わる調整が終わる次年度以降に施工することとしています。
○改良延長(平成17年度)L=32m
〈主な工種〉

・撤去工(捨塊、捨石、被覆石)
・被覆工(6tビーハイブ、被覆石)
・根固工(捨塊、方塊)
〈作業手順〉
(1)工事着手前潜水調査
(2)斜面部捨塊撤去
(3)捨石撤去
(4)階段部捨塊撤去
(5)捨塊・方塊下面本均し
(6)捨塊復元・方塊据付
(7)被覆石下面荒均し
(8)被覆石投入・同均し
(9)被覆ブロック下面荒均し
(10)被覆ブロック据付
※(4)から(6)は階段毎に繰り返されます
〈工期〉
平成17年6月29日〜平成17年11月30日

図−2 改修基本断面
図−2 改修基本断面
改良工事の実施にあたり

 改良工事に際しては、防波堤自体の価値が極めて高い事を鑑み、あらかじめ明確な基本方針を定め、これにより実施することとしました。
1.組織体制の明確化
 工事の監督員のみならず、事務所の所長、技術副所長を責任者として、計画・調査・設計・実施が一体となり、それぞれ任務分担を定め、綿密な打ち合わせを行い、諸問題に対応することとしています。また、監督員と請負者は必ず毎日朝夕2回の打ち合わせを行い意志疎通に努め、その内容を関係者全員に周知し全員が進捗状況等を把握できる体制としました。
2.用語の統一
 「捨塊」(すてかい)など建設当時の名称の踏襲、関係者の共通の認識と工事の円滑化を図るため用語の定義を統一しています。「復元」という言葉は北防波堤を文化財として扱うことを意識しています。
3.作業手順の明確化
 一連の作業においては、工事概要で記述した作業手順のさらに詳細を定めて受発注者の全員が共通の理解のもと工事を進めることとしています。
4.捨塊の取扱い
 本工事で取り扱う捨塊は、海中で100年間破壊せずに形状を保った貴重なコンクリートであり、土木の世界を越えて「文化」的にみて非常に貴重な構造物になる可能性を考慮し、細心の注意をもって施工することとしています。一つとして、廣井博士が「小樽築港工事報文」を現在に残したように、本工事の記録を後生に残すべく、施工区域内の全ての捨塊の位置状況を克明に履歴として記録しています。
5.捨塊の管理方法、復元基準
 撤去に先立ち、斜面部、階段部の全ての捨塊の現位置の測定、写真撮影、管理コード番号を付し現況平面図(図−3)を作成したうえで撤去にかかり、陸揚げ後は所定の管理コード番号の取付け、長さ、幅、高さの測定とその状況写真の撮影と、これら全ての情報を「捨塊管理簿」としてとりまとめています。
 撤去した捨塊は全て改良工事で利活用しますが、港外側の復元では形状の良好な捨塊を用いるため、現場で選定する際の指針として、復元に関する判断基準(フロー図)を定めています。

図−3 捨塊現況図
図−3 捨塊現況図

6.捨塊の撤去
 斜面部の捨塊の撤去方法は大回しを使用しますが、階段部は当時と同じ閂(かんぬき)という吊り金具を使用します。この閂の利用可否が今後の工事工程等に大きく影響することになります。

写真−2 捨塊仮置状況
写真−2 捨塊仮置状況

写真−3 捨塊撤去状況(閂)
写真−3 捨塊撤去状況(閂)
想定外断面の出現

 改良工事は斜面部に散乱していた捨塊58個の撤去を終え、捨石の撤去及び荒均し作業を行い、階段部の捨塊撤去を開始し5・4列目を撤去したところ、その下に新たな捨塊が出現しました(図−4)。出現した捨塊は事前の測量、詳細な潜水調査でも確認できなかったもので、工事報文に記載されている当該施工箇所の丙部4000尺断面の捨塊配置とも異なる状況となりました。

図−4 新たな捨塊の出現断面図
図−4 新たな捨塊の出現断面図

 この想定外断面(2段積み)の出現により、改修基本断面の再検討を行うべく、様々な視点、角度から検討を加えるとともに、廣井博士の設計思想及び構造の踏襲と永続性の確保という観点より、適切な改良方法について鋭意検討中です。このような状況のもと、本年度の改良工事は階段部の施工を見送り、斜面部の被覆石及び被覆ブロックの施工延長を完成させ、取り合い部の冬期間の波浪に対する備えを施し、工事を完了しました。

おわりに
 平成の大改修は始まったばかりです。改良工事は次年度以降も継続していきますが、本年度の経験を生かし、事前の詳細な調査を実施し、安全で円滑な工事の進捗を図るとともに、調査や工事の内容を丁寧な記録として残すことが我々の使命と考えています。
 また、北防波堤という先人が残した貴重な財産を改良するには、従来の港湾工事とは異なり文化財の復元と同等の感覚、心構えが必要と感じています。本稿により、廣井博士の業績や小樽港北防波堤に少しでも興味を持っていただければ幸いです。


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