LCM研究センターの設立と活動 独立行政法人 港湾空港技術研究所 LCM研究センター長 横田弘

1.はじめに

 2005年4月1日、港湾空港技術研究所に3つ目の研究センターとしてLCM研究センターが設立されました。LCMとは、Life Cycle Management(ライフサイクルマネジメント)の略語です。ライフサイクルとは、構造物が計画・建設されてからその役割を終えて撤去されるまでの過程のことを言います。つまりLCMは、構造物の一生の間に生じると考えられる劣化・変状等の様々な状態を予測し、これらに計画的に対処していくための技術です(図−1)。
図−1 港湾LCMの概念図
図−1 港湾LCMの概念図
2. LCMの必要性

 我が国では、急速に少子高齢化が進んでいます。同様に、港湾構造物等においても高齢化が問題となってきつつあります。これは、新しく造られる構造物が少なくなり、古い構造物がどんどん蓄積されていくためです。構造物も人間と同様に、年齢を重ねるに連れて老化現象が現れてきます。健康診断を受け、病気の兆候を早期に発見し、適切な治療をする−このような健康管理が構造物にも求められています。その結果、構造物を長期間安全に安心して使用でき、結果的に医療(維持管理)費を節約することができるようになります。この予防医学的な維持管理に基づいて、構造物の性能確保と延命化を実現するための種々の技術を確立することがLCM研究センターの使命です。
3. LCMセンターの構成

 LCMに関する研究は、前身の港湾技術研究所時代から、構造、材料、制御技術の分野等で行われてきました。これらに従事する研究者を横断的に束ねたものがLCM研究センターです。現在のメンバー構成は、次のとおりです。
 センター長(1名)、主席研究官(1名:併任)、特任研究官(5名:専任2、併任3)。
4. センターの主な研究テーマ

 LCM研究センターでは、LCMを速やかに実現するために必要な個別技術の確立に向けた研究を進めています。それには、構造物の調査・点検の効率化、変状の進行や機能性能の低下の高精度予測、補修等の対策工の最適化とこれらの意思決定をするためのシステム化、ライフサイクルコスト評価などがあります。現在は、特に次のような研究に精力的に取り組んでいます。
[1] 劣化・変状による構造物のライフタイムリスク変動の解析
 劣化・変状によるライフタイムリスクの経時変化予測モデルの構築、および構造物の供用中の性能照査を行うための技術の確立。
[2] 補修・補強による構造物の機能向上とライフサイクルコスト分析
 補修・補強による性能向上レベルと必要なコストを予測するモデルの構築(図−2)、および合理的に対策工の方法を判断するためのツールの提供。
図−2 港湾構造物の劣化・変状予測
図−2 港湾構造物の劣化・変状予測

[3] 暴露環境を考慮した港湾コンクリート構造物の耐久性評価および劣化予測手法
 構造物の老朽化・劣化の程度を正確に把握するための非破壊試験技術および評価技術の開発と高度化(図−3)。

図−3 鉄筋腐食への非破壊調査法の適用性検証
図−3 鉄筋腐食への非破壊調査法の適用性検証

[4] 非接触型鋼管杭肉厚計測技術
 付着海生生物を除去することなく、非接触で鋼管杭の板厚を測定する装置の開発(図−4)。
図−4 非接触法による肉厚計測
図−4 非接触法による肉厚計測

 これらの研究では、実際の構造物を対象にした実践的な成果を提供する必要があります。そのため、行政部局等と連携を密にしながら、各地の港湾・空港における実構造物の点検診断や評価等を実施しています(写真−1)。 
 また、このような研究に加えて、港湾構造物の維持管理講習会を年1回開催しているほか、定期的なセミナー等を開催する予定です。

写真−1 構造物の点検・診断
写真−1 構造物の点検・診断
5. 国際協力の視点

 劣化・変状が進行した構造物の効率的な維持管理は、全世界レベルで求められています。そこで、これらに関する技術が未成熟の国々に対して、種々の機会を捉えて積極的に技術移転に取り組んでいます。また、各国の港湾構造物の状況を調査して分析しています。これらを核とし、今後アジアにおける港湾維持管理の中心機関となることを目指しています。
 現在実施している国際協力には次の3件があります。
[1] 港湾の維持・管理技術の普及促進プロジェクト−インドネシア
 2004年度からスタートしたJICAのプロジェクトで、短期専門家の派遣および技術者を受け入れて研修を行っています。また、これまで約10港において主要港湾施設の点検・診断を行っています(写真−2)。

写真−2 コアサンプリング(インドネシア)
写真−2 コアサンプリング(インドネシア)

[2] 高耐久性海洋コンクリートの開発及び維持補修技術に関する共同研究−アセアン諸国
 港湾・海洋構造物の老朽化の進展に伴う維持管理および新設の海洋構造物の耐久性向上に関する技術を高めるための指導を行っています。ハノイおよびジャカルタでのミーティングおよびセミナーを開催し、研修生を受け入れています。
[3] 海洋地域におけるコンクリート構造物の耐用、修繕および維持管理に関わる技術指導−イラン
 イラン住宅建築研究所をカウンターパートとして高耐久コンクリート構造物を建設するための方策および既存構造物の維持管理についての我が国の技術を移転しています。また、日本で製造したコンクリート試験体をペルシャ湾岸に暴露して(写真−3)、劣化傾向の比較を行っています。

写真−3 日本産試験体の暴露試験(イラン)
写真−3 日本産試験体の暴露試験(イラン)
6. おわりに

 多くの研究活動の中から学術的にも実用的にも優れた成果を発信し、港湾・海岸・空港における基盤施設の戦略的な維持管理に貢献できることを目指しています。今後ともご支援をよろしくお願いいたします。


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