航空交通の総合的な管理に向けて(ATMセンターの設立)

1.航空需要の増大と課題

 航空管制は、航空機同士の衝突防止や航空交通の秩序維持などを目的として、従来、各地の空港事務所や札幌、東京、福岡及び那覇の航空交通管制部(航空路管制センター)などで、それぞれの担当範囲を分担して独立的に行われてきました。しかし、航空需要は年々増加し、1990年代に入ると、全体的な航空交通の流れを一元的に監視して、必要に応じ調節する機能が必要となり、1994年、現在福岡市において運用している航空交通流管理センター(ATFMC:Air Traffic Flow Manage-ment Center)が設立されました。
 その後も航空需要は着実に増加し、今後さらに、2009年度に供用開始が計画されている東京国際空港(羽田)の第4滑走路による国内需要の大幅な増加や、アジア諸国の経済発展に伴うアジア太平洋地域の国際需要の著しい増加が見込まれています。

北太平洋ルートの需要予測
北太平洋ルートの需要予測

 このように、近い将来に航空交通の一層の高密度化が予測される中、航空機運航における経済性や定時性といった効率面のニーズも益々高まっており、このような環境において安全を確実なものとした上で可能な限り制約の少ない効率的な航空機運航を実現することが課題となってきました。
2.航空交通管理(ATM)

 航空交通管理(ATM:Air Traffic Management)とは、将来の航空需要の増大に対する全世界的な取り組みとして、国際民間航空機関(ICAO)が提唱しているもので、従来の航空管制を中心とした航空交通サービス(ATS)に、交通の集中による航空管制の過負荷の発生を防止するとともに航空交通の流れの円滑化を図る航空交通流管理(ATFM)と、空域の利用を効率的に管理して有効活用を図る空域管理(ASM:Air Space Management)を加え、これらを総合的に機能させることによって、航空交通の安全の確保と効率性の向上を図ろうとするものです。
ATMの概念
ATMの概念
 国土交通省は、今後益々増大する航空需要と航空機運航におけるニーズの多様化に的確に対応するために、今年10月「航空交通流管理センター」を拡充整備して、現在の交通流管理機能を高度化させるとともに、自衛隊、米軍との空域使用調整も含めた空域の一元的な管理機能などを加えた航空交通管理センター(ATMセンター:Air Traffic Management Center)へ発展させ、これを中核とした総合的な航空交通の管理を導入・展開することとしています。
3.ATMセンターの役割と機能

 ATMセンターでは、国内はもとより外国を含めた関係者の協力を得ながら、太平洋上を含む日本の管轄範囲全体における航空交通の安全確保と運航効率の向上を図るとともに、東アジアにおける航空交通管理の導入・発展のリーダー的な役割を担うことを目指しています。
 以下に、ATMセンターの各機能の概要について説明します。
ATMセンター外観
ATMセンター外観

(1)空域管理
 中長期的な視野に立って、航空路、管制空域、訓練試験空域などの形状や利用方式の設計を行うほか、日々の空域の利用について、民間の航空機運航者をはじめ自衛隊、米軍を含む空域ユーザーや全国の管制機関と調整を行って、空域を最大限有効に活用できるようにします。
 航空路や空域の設計では、RNAV*1などの新たな航法技術などを利用して、できる限り航空機の運航に無駄がなく、かつ管制し易い環境作りを目指します。
 空域利用の調整では、自衛隊の訓練試験空域について、ATMセンターに常駐する自衛隊の連絡調整官との緊密な調整を行い、その使用状況に応じて、民間航空機の飛行を可能とします。特に民間航空機にとって利便性の高い訓練試験空域については、時間や高度を区切って民間機が予め飛行を計画できる航空路(調整経路)を設定します。
自衛隊訓練空域等の柔軟な利用イメージ
自衛隊訓練空域等の柔軟な利用イメージ
 また、全国の民間訓練試験空域について、インターネット経由で使用計画を受け付け、公平かつ安全な利用を促進します。

※1 RNAV(広域航法):地上の航行援助無線施設又はGPSなどの衛星を利用して、任意の地点間の飛行を可能とする航法。地上の航行援助無線施設の位置に左右されない柔軟な飛行経路の設定が可能となる。

(2)航空交通流管理
 交通状況や気象状況に応じた円滑な交通の流れを形成するために、航空機が飛行計画において使用する経路(通過地点や航空路の組み合わせ)に関して、航空機運航者や管制機関と調整を行うほか、管制空域や空港の処理能力(処理容量)を超える交通の集中が予測される場合には、問題となる空域や空港への交通の流れを制御すること(交通流制御)によって、管制官の過負荷の発生を防止して安全を確保するとともに、混雑による空中待機など非効率な運航の発生を抑制します。
 交通流制御は、主に混雑が予測される空域や空港へ向かう航空機の出発時間や飛行中の通過予定地点における通過時間などを制限或いは調節することにより行います。このため、現在でもこの時間調整のために出発時刻や到着時刻に多少の遅延が生じることがあります。
 ATMセンターでは、前述の空域管理による空域の有効活用や事前の飛行経路の調整(混雑空域の迂回)などと連携させて、この遅延を必要最小限に抑えることを目指します。また、ATMセンター内に設置される気象庁の航空交通気象センター(ATMetC)により提供される最新かつ詳細な気象情報をもとに、航空機の運航に対する悪天の影響などを勘案した的確な対応を行います。
経路調整、交通流制御による交通流の調節イメージ
経路調整、交通流制御による交通流の調節イメージ

(3)国際(洋上)交通管理
 日本が管轄する空域は太平洋上にまで及び、この洋上空域における航空管制は現在、東京航空交通管制部と那覇航空交通管制部により実施されていますが、これらを今年10月から来年2月にかけて段階的にATMセンターへ移設し、衛星データリンク*2を利用した新たな管制方式や外国機関との情報交換を基にした交通流管理の導入による国際交通管理へと発展させていきます。
衛星データリンクの利用による洋上管制イメージ
衛星データリンクの利用による洋上管制イメージ
※2 衛星データリンク:GPSなどにより測位した航空機の位置情報の通報やパイロットと管制官とのやり取りを、通信衛星を使用して行うデータ通信。これにより、航空機間の安全間隔の短縮が可能となり、処理容量が拡大される。

(4)協調的意思決定(CDM)
 これまでの説明にも現れているとおり、航空交通の管理において関係者との緊密な連携や協力は欠かせません。このため、ATMセンターは、関係者との情報共有を積極的に進め、これに基づく協調的意思決定(CDM)を導入することとしています。CDMとは、共有した状況認識に基づいて、共通の目的に向けて協調的に判断し行動する考え方やそのための方式をいいます。ATMセンターでは、特に航空会社との間のCDMの導入により、航空会社の意思(計画)を考慮した効果的な航空交通の管理が可能になるとともに、航空会社は、航空交通の様々な状況下において、より適切な対応を取ることが可能となり、全体として遅延その他の航空機の運航に対する制約の低減が期待されます。
4.おわりに

 ATMセンターは、今年10月に組織発足した後、来年2月に新しい業務のために開発されたコンピュータシステムが稼動をはじめます。その後、需要動向や海外におけるATMの導入・展開の進捗にあわせながら、空域管理、交通流管理などそれぞれの業務の段階的な発展を図っていく予定です。
調整工事中のATM運用室


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