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「港湾整備事業の費用対効果分析マニュアル(改定版)」の概要について

1.はじめに

 港湾整備事業に関わる新規事業採択時評価、再評価においては、港湾局が平成11年5月に策定した「港湾整備事業の費用対効果分析マニュアル」に基づき、費用便益比(B/C)の検討などを実施してきました。また、省庁再編後の平成13年度より「港湾局関係公共事業評価手法研究委員会(委員長:森杉壽芳東北大学大学院教授)」を設置するなどして、費用対効果分析手法の高度化、評価の客観性、透明性等の向上に港湾局では取り組んできました。
 このような状況のもと、平成16年2月に国土交通省においてとりまとめられた「公共事業評価の費用便益分析に関する技術指針」(以下「技術指針」と呼ぶ)への対応を図るとともに、これまでの上記委員会での検討結果なども踏まえ、今般、港湾整備事業の費用対効果分析マニュアルの改訂版をとりまとめました。
 以下に、その概要をご紹介いたします。


2.マニュアルの共通事項の改訂概要

(1)再評価の費用対効果分析の追記
 従来のマニュアルでは、新規事業採択時評価における費用対効果分析のための記述が中心であり、再評価における費用対効果分析についても参考にできるという程度の記述でした。しかしながら、このたび定められた技術指針には、再評価においては、事業継続による投資効率性を評価する「残事業の投資効率性」と、事業全体の投資効率性を評価する「事業全体の投資効率性」の双方を検討する旨が定められました。そこで、改訂マニュアルでは、再評価における費用対効果分析の基本的な考え方について新たに章を設けることとしました。

(2)原単位の基準年度とデフレーター追記
 再評価等においては、既投資額などをデフレーターを用いて評価年度の価格に換算、つまりインフレやデフレなどの影響を除外したうえで、その後に社会的割引率を用いて現在価値化する必要があります。また、費用対効果分析の現在価値化の基準時点は、評価を実施する年度となりますので、マニュアルに記載してある原単位が評価実施年までに物価変動の影響を受けていればその考慮も必要です。
 このため、改訂マニュアルでは、記載する原単位の基準年度を平成15年度価格に統一するとともに、デフレーターについても記載をすることとしました。

(3)残存価値の計上方法の追記
 費用便益比(B/C)等を計算する際に、評価期間の最終年度に便益として計上する残存価値については、技術指針において「評価期間以降も施設が永久に継続する場合の純便益(便益―費用を評価期間の翌年から遠い将来まで計上)を算定する。ただし、純便益の算定が困難な場合には企業会計の減価償却の概念を援用した資産額などを計上してもよい。」とされました。
 従来のマニュアルでは、港湾整備事業における費用対効果分析の残存価値については、港湾施設は必ずしも評価期間後も評価期間中と同様の効果が発揮されるとは限らないことから、土地や売却可能な荷役機械等については残存価値を計上するものの、岸壁や防波堤などについては、残存価値は計上しないこととしていました。
 今回の改訂では、従来からのこの考え方は踏襲するものの、技術指針の考え方も取り入れ、第1線防波堤や港の港口部に位置する航路等、評価期間終了後もその機能を確実に発揮するであろう施設については、荷役機械等の残存価値の計上方法とは違い、撤去にかかる費用などを考慮せず計算期間末の資産額を残存価値として計上してもよいこととしました(図-1)。

図-1 港湾整備事業における残存価値の計上方法(イメージ図)

(4)感度分析幅の明記
 技術指針では、費用便益分析結果に大きな影響を及ぼす要因について感度分析を実施し、その要因が変化した場合の費用便益分析結果への影響の大きさ等を把握するとともに、費用便益分析結果を幅をもって示すこととされています。
 それを受けて、改訂マニュアルにおいては、費用便益分析の感度分析について、表-1に示したとおり需要、建設費、整備期間の各要因についての変動幅を明記しました。なお、社会的割引率が変動した場合の投資効率性は、内部収益率EIRRの計算により容易に確認できることから、EIRRによりその影響を確認することとし、感度分析は特段行わないこととしました。

表-1 費用便益分析の感度分析幅


3.プロジェクト別のマニュアル改訂概要

(1)貨物の時間価値の更新等
 技術指針においては、時間価値が需要予測モデルから「選好接近法」によって内生的に導出される場合には、その妥当性が確認されれば便益計測に適用してもよいとされています。このため、国際海上コンテナ貨物、内貿ユニットロードなどの貨物の時間価値を、最新の需要予測モデルなどから算出し改訂マニュアルに掲載するとともに、人の時間価値についても、労働時間、所得等を最新のデータを用いて更新しました(表-2)。

表-2 輸出入コンテナ貨物の時間価値

(2)海上輸送等のコスト見直し
 8,000TEUを超える大型コンテナ船の就航などを踏まえて、国際海上コンテナをはじめとする海上輸送コストについて大型船の追加を行うとともに、燃料費、船費、人件費等の各種コストの原単位更新などを行い、コスト算定式等も更新しました。

(3)供給者便益についての追記
 海外からのトランシップ貨物の増加や、外航クルーズ船の寄港増などによりクルーズ客の増加などがあり、日本全体として考えても収益増が見込まれる場合には、供給者便益として計上してよい旨を追記しました。具体的には、海外からのトランシップ貨物増に関わる便益としては、荷役料金収入や入港料などの収益増から所要のコストを差し引いたものを、また海外からのクルーズ船入港増に関わる便益としては、クルーズ客の物品購入やオプショナルツアーなどへの参加に関わる収益増、入港料収入増など供給者の収益増を計上可能な旨を記載しました。

(4)人的損失額の改訂
 死亡や負傷などに関わる人的損失額については、技術指針に則り遺失利益の算出方法を新ホフマン方式(単利計算)からライプニッツ方式(半年複利計算)に変更するとともに、医療費、精神的被害を追加しその原単位を更新しました。

(5)耐震強化岸壁に関わる発生確率追記
 現行のマニュアルでは、耐震強化岸壁がその機能を発揮するのは、再現期間75年程度のレベル1地震より規模が大きく、かつ数百年に1度といわれているレベル2地震よりも地震規模の小さい地震が発生する時であり、t年目に耐震強化岸壁が機能を発揮する確率P(t)は、下式としています。



 ただし、東海地震、東南海・南海地震などの地震については、地震調査研究推進本部地震調査委員会が、各地震についてその平均発生期間や最終発生年からの経過時間を考慮して、今後30年間などの間に当該地震が発生する確率(長期評価確率)を発表しています(表-3)。

表-3 長期評価確率の例示

 長期評価確率は、最新の地震発生から地震が発生せずにT年間経過した時点で、その後のΔT年間に地震が発生する確率P(T,ΔT)で表され、下式(2)で計算されます。長期評価確率のイメージを示したものが図-2です。



図-2 長期評価確率の概念図

 また、この長期評価確率と、従来の耐震強化岸壁がt年目に機能を発揮する確率P(t)を比較したものが図-3、4です。平均発生間隔が約119年で前回の地震発生から既に約150年を経過している東海地震では、長期評価確率の方がかなり確率が高くなります。南海地震でも、時間の経過とともに、長期評価確率のほうが発生確率は大きくなり、従来よりも耐震強化岸壁の便益が大きく(適正に)評価されます。
 改訂マニュアルでは、大規模地震対策特別措置法による地震防災強化地域(東海地震対応)、東南海・南海地震に関わる地震防災対策の推進に関する特別措置法等、法律により対策を強化することが定められた地域においては、耐震強化岸壁の機能発揮の確率を式(1)ではなく、この長期評価確率を用いてもよい旨を明記しています。

図-3 東海地震の確率密度関数

図-4 南海地震の確率密度関数


4.おわりに

 以上、港湾整備事業のマニュアル改訂の概要を簡単にご紹介致しました。改訂マニュアルにつきましては、港湾局のHP(http://www.mlit.go.jp/kowan/index.html)に掲載しておりますので、詳細をご覧になりたい方はアクセスしてみて下さい。
 最後に、今回のマニュアル改訂にあたっては、森杉委員長をはじめ、多くの方々のご指導・ご協力などをいただきました。この場を借りて一言お礼をさせていただきます。



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