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| 非破壊検査によるコンクリート構造物の劣化診断 ―港湾構造物の定量的な劣化診断技術の現場への適用について― |
人間の耳による打音検査は現在でも現場で使われています。健全な部分は清音、欠陥のある部分は濁音というように判断するわけですが、グレーゾーンになってよくわからないところもあります。人間が判断するので経験や感覚に頼る部分が多いのです。それを定量化しようというのが、ここでお話する打音法です。 打音法において打撃音を受振するということは、コンクリートの表面が振動することによって起きる空気の振動をキャッチするということです。接触型の振動センサと違い、マイフロフォンを使って捉えるので、どこで受振するかはあまり問題になりませんから、検査の高速化が図れることになります。 コンクリートの表面を叩くと、内部に欠陥がない場合とある場合では、弾性波に違いが現れます。そこから欠陥の情報を明らかにします。例えばコンクリートの中に発泡スチロールの円盤状の板を埋め込んで、水平上の欠陥と見なします。そして欠陥の深さや直径を様々に変えながら、打音法によって弾性波(打撃音)を計測しました(図-9、10)。そうすると、欠陥がない健全部では、最初に鋭い挙動を示してすぐに減衰してしまいます。それに対して、直径が20cm、深さ3cmの欠陥がある場合には波の振幅が大きく、規則的な動きを示します。つまり、健全部と欠陥部では全く異なる波形を示すことになるのです(図-11)。
こうした波形を見るだけでは定性的ですから、これを数値化して定量的にします。周波数分布を調べてみると、健全部では途中にピークらしきものはありますが、10kHzぐらいまでのところに広く成分が分布していることがわかります。それに対して欠陥部では際立った位置に単峰のピークがあることがわかりました。この傾向は解析ともよく合うということで、これによって欠陥の有無が判別できるということがわかります。 様々な欠陥のパターンについて、今着目したピーク周波数の大きさと欠陥の直径との関係を示したグラフを見てみましょう。欠陥の直径が大きくなるとピーク周波数は小さくなります。つまり、ここで生じている現象はたわみ共振現象であり、この理論的関係を利用することで欠陥の直径評価が可能になることがわかります(図-12)。
また、その他の波形の特性も活用できます。打撃音の最大振幅値に着目すると、欠陥の深さが深くなるにしたがって振幅値が下がっていきます。ここからどうやら最大振幅値は、相対的な欠陥の深さ評価に有効なのではないかという結論が導き出されます。 最大振幅値の適用箇所としては、例えばトンネルの覆工厚さ評価の場合などが挙げられます。打撃音を捉えて、覆工の厚さと振幅値との関係を求めると、覆工の厚さが薄くなるに従って最大振幅値の比が大きくなる関係であることがわかります。したがって、こうした関係を用いて、たくさんの点で捉えた打撃音の波形の振幅レベルを面的に表示すると、覆工厚の小さい場所がほぼ特定できます。
最後に、非破壊検査を活用した港湾構造物の定量的な劣化診断に向けての今後の課題を挙げておきます(図-13)。一つはロボット化です。これについては私どもの研究室が民間企業と共同で、下水管の劣化状況を診断するロボットを開発中です(図-14)。コンクリートの下水管で、人間が中に入って調べられないようなものについて、ロボットによって管路のクラックや表面からの劣化などの状況を調べます。イメージとしては、立抗からロボットを下ろして管路を走らせます。その片側の打撃側ロボットがインパクトハンマーを備えていて、それで下水管の頂上を叩く。一方、もう片側の受振側ロボットは下水管の頂上に加速度センサを押さえつけて待っている。そして、打撃をした瞬間に弾性波が受振されて波形が記録され、同時に周波数の分布や波の振幅の大きさなどが記録されていくということです。
桟橋の上部工などでは、点検のために足場を作るのにコストがかかり、波がかぶるなどして人手による点検作業が容易でないケースが多い現実があります。そこで、こうした場所で自走式非破壊検査ロボットが使えれば、極めて有効なのではないかと考えます。
今後の課題としては、解析技術の活用と現場データの集積によるデータベース化も重要なポイントです。例えばこういう欠陥があったら、弾性波の波形がどう変わるかというようなデータをたくさん集積することが、劣化の状態を定量化する上で役に立つはずです。当然ながら、そうしたデータだけでは状態把握しかできませんから、それを加工してその後のアクションに役立てることも必要です。つまり、どういう補修をどのぐらいのレベルでやったらいいかを判断できる情報に加工するのです。 開発中の下水管の劣化診断ロボットについても、ひび割れが多い少ない、管が薄い薄くないといった情報だけでなく、そこからリンクして健全な管がどれだけ性能が低下したかという情報も引き出せるようにしなければいけないでしょう。下水管内部の劣化状況なら、管の軸方向のクラック、管の周方向のクラック、厚さの変化などを判別してランク付けを行い、性能と劣化の対応関係を十分に把握して、最終的には性能の評価に持っていくストーリーを今後考えていく必要があると思います。 最終的には、実際の劣化状態が簡単に評価できて、それによって性能が評価できれば、合理的な補修法としてはどういうものが候補として挙げられそうだということを簡単に示せる。そんなデータベースを確立して、診断の新システムを構築していくことが必要だと思います。また、非破壊検査法を使って定量化することで、かなりきめ細やかに補修の計画を立てたり、補修をする範囲や場所、材料の量などが的確に判断できるようになることで、補修コストの低減にもつながるだろうと思います。 ただし、検査法はもちろん弾性波法が全てではありません。例えばサーモグラフィ法によって異常のある箇所を概略で捉え、問題がありそうなところについては超音波法を使って背後の状態を把握する、また、電磁波レーダによってコンクリート中の鋼材を見つけて、衝撃弾性波法で空隙の多い少ないを判断して構造物や部材の内部の情報を取り出す。このように複数の検査法を効果的に組み合わせた検査システムも今後の課題でしょう。 非破壊検査を活用した港湾構造物の劣化診断のシナリオを今後十分に説明がつくものにしていくためには、何が必要なのでしょう。維持・管理は、点検・調査、性能評価・劣化予測、補修・補強対策という3つが三位一体になって初めて合理的なものになります。その中で、点検・調査の種類や精度、頻度がどのように性能評価・劣化予測に影響を与えているのか、それがさらに補修・補強対策を選定する上でどうかかわってくるのかを、コストの観点からシミュレーションして数字で説明できる形に持っていく。そのような評価の方法について今後は検討が要求されると思います(図-15)。
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