Sea & Sky

自然再生への取り組み

1.自然再生の動き

 近年、便利で豊かな生活が実現した一方で、多様な生物が生息できる良好な自然環境が失われたことについての認識が深まるとともに、地球規模での良好な環境の保全や持続可能な発展が叫ばれだしてきました。

 自然再生という言葉が広く一般的に使用されたのは、平成13年7月、総理大臣が環境の視点から我が国の基本的あり方などを議論するために設置した「21世紀『環の国』づくり会議」の報告書に「自然再生の推進」が盛り込まれたのが最初です。さらに、総合規制改革会議の「第一次答申(平成13年12月)」、生物多様性の保全と持続可能な利用に関する基本方針と国の取るべき施策の方向を定めた「新・生物多様性国家戦略(平成14年3月)」の中で、相次いで自然再生の推進が盛り込まれ、政府全体の方針として宣言されるに至りました。そして、平成15年1月には、議員立法により成立した「自然再生推進法」が施行に移されています。

 港湾は、国際物流の拠点として、地域活性化のフロンティアとして、あるいは大規模地震等の災害時の防災拠点として、今後もその重要性は増していくものと考えられますが、一方で、海の自然や船の文化に触れたい、潮風にあたって非日常的なゆったりとした気分に浸りたい、マリンスポーツや魚釣りを楽しみたい、といった国民のニーズに的確に応えていく必要があります。

 国土交通省港湾局では、利用しやすく美しい港湾や、生物及び生態系などの自然環境と共生する港湾を「エコポート」と名付け、その形成を進めていくことを政策目標の一つに掲げて、汚泥の浚渫や覆砂、人工海浜、人工干潟の造成、放置艇対策、浮遊ゴミ・油の回収など各種の施策を講じてきましたが、今後は、政府全体の方針でもあり、国民のニーズでもある「自然再生」の動きを受けて、従来のエコポート政策を拡充して一層の展開を図っていきたいと考えています。

2.自然再生への取り組み

 従来より港湾では「海域環境創造事業」として、航路の浚渫工事から発生する良質な土砂を活用して、干潟・浅場の造成に取り組んできました(現在、全国51箇所で実施(うち24箇所整備済))。
 例えば、三河湾では、湾口部に位置する中山水道航路の浚渫土砂を活用して干潟・浅場の造成に取り組んでいます。これまでに約450haの干潟・浅場等を整備し、再生された干潟では、単純な生物相から多様な生物相への移行が確認されており、また、年間約50万人が潮干狩りを楽しむなど人々が海と接する機会も増加しています。
 平成15年度からは、事業名が「海域環境創造・自然再生事業」に改定され、今後も引き続きこの事業の展開を図っていきたいと考えています。
 また、前述の「自然再生」の動きを受けた新たな取り組みも始まっており、以下ではそのいくつかを紹介します。

再生された干潟(三河湾)
再生された干潟(三河湾)

再生された干潟で潮干狩りを楽しむ人々(三河湾)
再生された干潟で潮干狩りを楽しむ人々(三河湾)



(1) 東京湾・大阪湾の再生

 平成13年12月に決定された都市再生プロジェクト(都市再生本部)の一つとして「海の再生」が位置付けられました。このプロジェクトの実現に向けて、平成14年2月に7都県市及び関係省庁からなる「東京湾再生推進会議」が設置され、1年間にわたる検討を経て、平成15年3月、「東京湾再生のための行動計画」が策定されました。当局も干潟、藻場等の保全・再生や環境整備船による水質監視の強化など関係省庁、自治体と連携しつつ、東京湾の海域環境の改善を強力に推進していくこととしています。
 さらに、平成15年7月には、同様の「大阪湾再生推進会議」が設置され、今年3月の計画策定に向け検討が進められているところです。


(2) 臨海部の森づくり

 同じく13年12月の都市再生プロジェクトで「臨海部における緑の拠点の形成」が決定され、先導的に東京港中央防波堤内側、大阪湾堺臨海部、尼崎臨海部において海辺の里山とも呼べる森づくりに取り組んでいます。尼崎臨海部では平成15年度より現地整備に着手されており、東京湾及び堺臨海部については、現在、市民参加など森づくりのあり方等に関する調査検討を進めています。


(3) 海辺の自然体験活動・環境教育

 持続可能な社会の構築に向けて国民の環境保全意識を醸成するために、体験的に学ぶ環境教育の機会が強く求められています。平成15年7月にはいわゆる「環境教育推進法」が制定されるなど、NPOなどによる体験活動・環境教育が盛んになってきています。このような動きに合わせ、港湾においても、元来の海辺の自然や港湾事業により創出された干潟、緑地などの環境教育の場としての利活用を促進するとともに、国の港湾事務所、地元自治体などの連携により、干潟の生き物観察やシュノーケリングによる海中観察などのプログラムを盛り込んだ「海辺の自然学校」に取り組んでいます。平成15年度は、千葉、下田、奈半利(高知県)、大島(福岡県)など全国20数箇所で開校しました。


(4) 市民との連携・協働

 自然再生を進めるためには、事業の各段階において、行政機関だけではなく、地域住民、NPO、専門家等多様な主体との連携を図り、協働によるきめ細やかな取り組みを進めることが重要です。また、港湾を場とした環境教育など市民、NPO等の活動が活発になるにつれて、現場の方々からは「このような場合に行政機関のどこに相談したらいいのかわからない」という声が聞かれるようになりました。
 これらの相談を受け、市民、NPO等の地域での取り組みを後押しするため、平成14年6月、全国の国の港湾事務所に「海とみなとの相談窓口」を設置しました(現在全国94窓口)。窓口では、海やみなとの利用、総合学習やボランティア活動など様々な相談を受け付けるとともに、地元の町内会や小学校の要請に応じ、みなとの活動や自然環境に関する講師を派遣する「出前講座」なども行っています。さらに、同年11月には、窓口利用者の利便性の向上を図るため、全国共通フリーダイヤル0120-497-370(大いに良くなるみなと)を開設しています。

(5)全国海域環境データベースの構築

 市民、NPO等との協働によるエコポートの実現のためには、日頃からの市民と港湾との関わり合い、行政とNPO等との関わり合いを深めていくことと合わせて、港湾や環境に関する情報・データを体系的に蓄積し、市民にわかりやすく整理して、広く一般に提供していくことが重要です。このため、平成16年1月、国土交通省ホームページ上に、「海域環境情報提供システム」を公開しました。各地方整備局においても、各々海域環境データベースの構築作業を進めています。一部の地方整備局では既に公開されており、全国版、地方版合わせて情報内容の一層の拡充を図ることにしています。


3.おわりに

 誌面の都合で紹介しきれませんでしたが、自然再生に関する技術開発や調査研究も重要な課題です。
 先に述べた海域環境創造・自然再生事業では、国土技術政策総合研究所や(独)港湾空港技術研究所等による現地調査や世界最大規模の室内干潟実験施設での観測をはじめとした様々な研究により得られた最新の知見が活用されています。
 また、昨年11月には、これまでの港湾における自然再生の知見、事例、データの集大成ともいうべき書籍が当局の監修によりとりまとめられ発刊されました。本書が各地における自然再生の計画・技術・実践の参考図書として活用されることを期待しております。
 最後に関係各位におかれましては、一層のご支援、ご協力の程よろしくお願い申し上げます。

海の自然再生ハンドブック
海の自然再生ハンドブック−その計画・技術・実践−(全4巻)
第1巻 総論編/第2巻 干潟編/第3巻 藻場編/第4巻 サンゴ礁編 
監 修: 国土交通省港湾局
 著 : 海の自然再生ワーキング・グループ
発 行:(株)ぎょうせい(問合先:Tel.03-5349-6666)



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