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| 木と人間をつなぐエクステリアウッドの可能性 |
(1)ウォーターフロント エクステリアウッドの実際の事例を紹介したいと思います。まずウォーターフロントについて見てみると、親水護岸のウッドデッキ、浮き桟橋構造を利用した施設があります。ウォーターフロントというと、やはりレジャーやリゾートという雰囲気が強い場所ですが、木材という素材は景観のイメージに合っています。 また、カナダやアメリカなどでは、自然公園で水際と緑地帯の間を仕切る材料に丸太がはめ込まれているケースがよく見られます。このように外国では、木をあまり加工しない素朴な形で土木資材として使うという発想があります。こうした発想は地球環境的なことを考えると、エネルギーを使わず地球温暖化ガスを出さないことにもつながりますから、これからの一つの方向性だと考えられます。 (2)木製水槽 大都市の高層ビルの地下や屋上に、飲料水用の水槽として木製の水槽が使われています。これに競合する材料としては、FRP素材を使った水槽がありますが、木製水槽は細かい板を組み合わせて水槽をつくるので、ビルが建った後に中に材料を持ち込んで組み立てることができるメリットがあります。また、木は断熱材ですから水温変化が少なく紫外線も通さず、水にコケや雑菌などが入りにくいため、水質保全の面からもメリットがあります。そのため、東京でも10箇所以上の高層ビルで木製水槽が使われています。
(3)舗装材 海外では舗装材として木が使われている事例もあります。木は舗装面として衝撃を和らげる点で、非常に良い特徴を持っています。適度な摩擦も必要ですから、その点でも適しています。例えばドイツの競輪場のバンクに使用されているように、体育館の床、住宅の床など様々な舗装面に向いています。 ジョギングをする専用道路のようなものでも、樹皮を敷いてその上に木のチップを敷いて使うことができます。したがって、舗装材としては大きな可能性があると思います。 ウッドデッキも一種の舗装材です。歩いてみると柔らかい感じがします。また、夏の浜辺の砂は暑くて歩けませんが、同じ状況で木がデッキとして置いてあると、その上は平気で歩けます。比熱は高いものの、熱容量は砂などに比べると低いので暑くないわけです。真夏の炎天下に素足で歩くような状況を想定すれば、木以外の舗装材は考えにくいと思います。
(4)木橋 大きな荷重を前提とした構造物でも、最近は木が使用されるようになってきました。橋について見ると、1990年前後に木橋がつくられ始めた当初はほとんどが人道橋、せいぜい自転車道でした。しかし、最近は車両が通れる木製の橋が、鹿児島、宮崎など日本各地につくられています。これらは完全な車道橋。重量物が通っても、つくり方を工夫すればそれに耐える木の橋をつくることは可能なのです。 ただし、実際に車両が走る面は、磨耗という点からは木でないほうが良いかもしれません。以前フィンランドのヘルシンキで不思議な構造の橋を見ました。橋自体は鉄骨のトラスでつくられていて、その舗装面に木が使われているのですが、車輪が通るところには金属が貼ってありました。おそらく、これなどは磨耗に配慮した構造だと思われます。対磨耗性を考慮して木の上に何か貼る。あるいは何かを塗る。そうしたことは海外では比較的一般的かもしれません。 (5)ドームの屋根 木は単位質量当たりの強度である比強度が高いので、軽くて強い。ですから、大きな空間の屋根を覆う場合には、自重があまりかからず、それを支える基礎が小さくて済むメリットがあります。例えばノルウェーのリレハンメルにある冬季オリンピックのアイススケートリンクの屋根は、北欧の針葉樹から得られる構造用集成材を(接着剤で貼り合せた材料)を使ったトラスでできています。この種の構造物は当初はイベント時のパビリオンなど、仮設として導入されることが多かったのですが、最近は恒久的なドームの屋根として使われるようになってきました。ただ問題は、木は湿度の変化によって収縮の変動があるという点。木は金属と違い熱膨張はほとんど無視できますが、その代わり水分の変動に伴う収縮や膨張が大きい。そうするとドームをつくった時に、水分の変化によって高さが変動してくるので、これが問題になってきます。 (6)ガードレール・防音壁 アメリカでは、ガードレールにも木が使われています。しかし、木で鉄と同じような強さを出すには断面を大きくする必要があり、大きなスペースを取ってしまうために、日本の道路では郊外のよほど広い場所でないとつくりにくいと思います。ただし、車両などがぶつかった場合の人間の安全性を考えると、やはり鉄よりも木のガードレールのほうが優れているように思われますし、周囲の景観と合う形で木を使うことは十分に可能ですから、条件さえ合えば木のガードレールも検討すべきではないでしょうか。 高速道路の防音壁にも木が使われています。これはやはり景観とのマッチングという面が大きいと考えられます。防音といっても、質量が大きいほうが防音性能が高いので、コンクリートや鉄を貼ってしまったほうが効果が高い。しかし、木材でもそこそこの遮音性が出ますから、景観の面からコンクリートや鉄を貼るよりも良いと考えて木を使っているのだと思います。同様に、最近は林業土木の分野でも、景観を考えて木を構造物として取り入れています。水路、砂防ダム、堰堤などで、コンクリートを貼らずに木を使う。そこに草木が根づくまで持たせるという発想から、木が使われているようです。
現在、私は木材にどっぷりと浸かって研究をしています。そんな中で、木の持っている性質を研究していくと、木は人の感性に合った材料だという気がしてきました。もちろん私は農学の立場から木材を研究していますから、基本的に木材や木質材料の物理的な性質を調べるといったことを中心に研究をしてきました。そうした中でも、木を使ってできているものは道具にしろ、家にしろ、家具にしろ全て人が使うものですから、それらを使う際に木の持っている性質をどのように生かせば、より人が使いやすいものになるのかを考えなければいけないと感じています。要するに、木の持っている物性と人の感性との間をつなげる。木材の性質と人の感性との関係性を研究して、木をより良い製品にするにはどうすればいいかを考える。そこに私の最大の関心があります。人にとってどういう木の製品がふさわしいのかを提案するために、人の感性と木の物性との関係がどうなっているのかについて、さらに研究を進めていきたいと思います。 どの材料でも同じですが、従来はまずコストを優先し、低いコストで大量に使ってきました。しかし、そうやって生み出されてきたものが、本質的に人が使いたいものだったのかどうかを反省すべきだと思います。コストはいつの時代でも重要ですが、本当に良いものなのかどうかという観点からものづくりをしていく発想が、これからは必要でしょう。そのためには、例えば木材なら木材について、人の感じ方や使い勝手とどういう関係性があるのかを研究すべきではないでしょうか。もちろん我々の過去の実績や、化学、物理学、数学、そういった学問だけでは限界がありますから、様々な研究分野の方と協力して研究を進めなければいけないと思います。それによって、初めて、これからの時代にふさわしい性能を持った、ひとりひとりに対応できるものづくりができるのだと思います。 そうした研究においては、人の感性を極力数値化していく努力が必要でしょう。そのあたりは主観評価、アンケート、統計学などを使うだけでなく、最近は生理人類学の分野で人間の血圧、血流、脈拍、瞳孔の開き具合などの生理応答によって調べられるようになっています。人間には個体差があるので、ただ「良い」といってもその内容は人それぞれ違いますから、それをなるべく科学的に、ある程度妥当性のある数値として出すアプローチが求められているのです。こうしたこともふまえて、今後の研究を進めていきたいと思います。 |
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