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| 新たな視点から建設材料としてのコンクリートを捉え直す |
私が高校生だった当時は、理工系ブームのはしりの頃でしたから、自然と大学は理系を志望しました。そして、幼少時から物をつくることが好きだったことから、大きな構造物を設計してみたいと思い、土木の分野を選択したわけです。ですから、入学当初は橋梁などの設計エンジニアを目指していました。 しかし、さまざまな勉強を続けるうちに、橋梁にこだわらずに幅広い分野について学びたいと考えるようになり、4年生の時に卒論を書く際に、コンクリート関係で学内外に名の通った先生のもとで学ぶことを希望して、コンクリートの研究を始めました。 卒業後は運輸省に入省し、港湾技術研究所で学生時代から継続してコンクリートについて研究することができました。港湾関係では耐久性の問題が重要ですから、そうした研究テーマを与えられました。 また、コンテナ施設が導入される時期でもあり、従来の施設にクレーンなどの大きな荷重がかかった際の問題点として、特にスラブのせん断など構造的な問題について研究させて頂きました。 当時から対外的な学会にも積極的に参加して、さまざまな勉強をさせて頂きました。例えば許容応力度設計法と限界状態設計法については、日本全国の先生方によるディスカッションを実際に見聞きするなど貴重な体験が得られ、自分の勉学のために有効な場を与えて頂いたと心から感謝しています。 港湾関係では限界状態設計法の導入はずいぶん早かったと思います。鉄道関係もこの設計法がかなり進んでいます。最近、ようやく道路関係でも導入されたということです。橋梁関係でも早期に導入されていれば、限界状態設計法は今以上に普及していたのではないかと思います。いずれにしても、合理的な設計法だと思いますので、今後さらに普及を進めていくべきだと思います。 耐震関係については、私は直接研究した経験がありませんが、阪神大震災で既存の橋脚、港湾施設の破壊状況を目にして、従来のコンクリート構造物の設計に対して大きな衝撃を受けました。 土木工学は経験工学です。実際にある現象が起こって、初めて新しい事象を見つけ直すことがあります。あの大震災で耐震設計が一段と改良されたことと思いますが、どうしても自然災害には私たちが予測し得ないことがたくさんあります。それを思い知らされた点で、工学を手がける者としては、非常に大きな教訓を得たと思います。
こうしたことをふまえて、構造物の建設材料を取り巻く動向について述べたいと思います。もちろん社会のニーズに合うように研究することが基本的な条件ですが、その中で2つのことを感じています。 1つは維持管理の重要性、もう1つは今以上に環境に対して強い認識を持ちながら、今後の建設を進めなければいけないということです。 維持管理については、港湾施設の厳しい環境下におけるコンクリート構造物の実態をずいぶん目にしました。それを通して、今までは半永久的だと考えられていたコンクリート構造物が、性能に限界があるという新しい認識を強く抱きました。 コンクリート構造物は経年とともに性能が低下します。港湾施設で必要な性能は耐荷力です。今のままでは、港湾施設の寿命は通常で30〜40年、多くても40〜50年が限界ではないかと見ています。 ただし、従来はメンテナンスフリーと考えられていましたが、最近では適切に維持管理をしなければいけないという考え方が強くなり、対応がきちんとなされてきているのは、寿命を延ばすという点で非常に好ましいことと思います。 維持管理について土木関係者の認識が高まる中で、その基準類が整備され始めました。2001年には初めての示方書である「土木学会コンクリート標準示方書[維持管理編]」が出版されました。 ここでは、概括的な考え方を提示していますが、実際の現場ではそのまま使うことは困難ですから、これをさらに細かく提示した形で管理方法を示さなければいけません。その点で一番進んだ動きとして、近々発刊が予定される「東京港埠頭公社 土木施設維持管理マニュアル」があります。 このマニュアルの新しい点は、ライフサイクルコスト(LCC)の考え方を導入した点です。LCCを考えなければいけないという意見は、数年前から散発的に出ていましたが、具体的な施設についてシステマティック、かつダイナミックに導入してマニュアルを作成したのは、港湾に関わらず土木分野では国内で初めてではないかと思います。 こうした新しい考え方は、今後かなり普及をしていくのではないでしょうか。また、これは維持管理に関するマニュアルですが、LCCは新設の構造物にも使えますからどのような形で応用したらいいかについても、今後は盛んに論じられるようになると思います。
構造物をつくるということは、環境に対してアクションをかけることですから絶対に負荷を与えます。しかし、国民の生活レベルや生活環境の向上を図るためには、どうしても公共施設をつくらなければいけないという面もあります。結局は、そのバランスをどう取るかが問題だと思います。 従来のように公共施設をただつくればいいという発想だけではいけません。資源の再生能力や資源そのものの有限性、環境の汚染浄化能力の有限性などの基本的な条件をふまえた形でさまざまな施設をつくらなければいけません。 また、循環型社会の構築も重要な課題です。今までの大量生産、大量消費、大量廃棄の文化を見直さなければいけません。二〜三世代前の日本は少量生産、少量消費で、非常に物を大事にする社会でした。これは、本来の日本の文化を取り戻すということに通じるかもしれません。 3R(reduce、reuce、recycle)の推進ということがよく言われます。使用資材をできるだけ少なくする、産業副産物を活用する、廃棄施設の材料を再利用するということであり、公共施設をつくる際にも、そうしたことも念頭に置かなければいけない時代になっているのではないでしょうか。すぐに対応することは難しいと思いますが、少しずつ取り組まなければいけません。 また、工事についてもさまざまな問題が出てくるでしょう。例えば、工事の騒音、振動、工事車両の影響など、環境への負荷を低減する配慮が求められます。建設副産物や廃棄物の低減も大きな課題になります。 地球環境問題では炭酸ガスの発生量の話がよく出てきますが、建設関係がそれに大きなインパクトを与えることがわかりました。その中でも、土木施設をつくる際の建設・管理・廃棄のプロセスの中で、材料をつくる時が最もCO2の排出にインパクトを与えます。ですから、材料をうまく使ってこれを抑える努力も、今後は必要になってくるでしょう。 ただし、炭酸ガスを絶対に出してはいけないとなると、コストは当然上がります。そうするとLCCという観点からは不適切ですから、どこかでバランスを取らなければいけません。そうしたことも、土木の中で考えざるを得ない状況になっていますから、私たちもそれなりの準備が必要だと思います。
大学人としての心配事としては、現在は、公共投資額が落ち込んできていますから、当然ながら建設工事が少なくなってきています。そのため、大学でトレーニングして社会に送り出した人材を、日本全国で受け入れる能力があるかどうかが気がかりです。 ただし、社会の課題は10〜20年でどんどん変わってきますから、新しい問題に取り組ませるために学生を教育するのは非常に重要なことです。日本全国どこの大学でもそうでしょうが、土木関係の分野において、環境問題に今以上に真剣に取り組む必要があろうかと思います。 私の所属する早稲田大学理工学部“社会環境工学科”は、こうした社会状況を背景に、「人間が健康で安全な社会生活を営むための各種の施設を計画、建設、維持を行うための学問」という視点から、従来の土木工学科を本年4月より改称したものです。 |
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