飛行場計画技術研究会 小坂英治
我が国の空港の滑走路長は、何故か500m刻みのラウンド数に規格化され、大型空港では滑走路の長さが空港のブランド印になってさえいるような気がする。その一方で、成田空港の第2滑走路のようにあの世界的国際空港の滑走路長2500m達成が、遥か昔の計画であるにもかかわらず、未だに化石化したように後生大事にされているのは異様と言わざるを得ない。 また、対象とする空港が将来どのように発展するか分からないとして、極めて将来性の高い空港について離発着する航空機の種類を予め具体的に予測できないため長めに計画するのは自然としても、ほぼ見通しの立つ空港までも、空港の立地条件をあまり加味することなく滑走路長を規格どおりに整備するのはあまりに芸が無いのではないか。必要滑走路長は、標高や気温の影響を受けるし、傾斜の有無も無視できない。 滑走路の長さの考え方が現状のように規格化された主因は、我が国の中心空港である羽田空港の拡張整備が現在と同様かって常に困難を極めたため、1971年以来現在に至るまで、小型機の乗り入れを原則禁止し、離発着回数をできるだけ少なくて良いようにしなければならず、この結果、需要のそれほど多くない地方空港でさえ、主力機であるYS-11の製造が止まり、YS機が引退するまでの間に遮二無二全ての空港をジェット化して、空港利用が途絶しないよう滑走路を延長しなければならなかったことに起因するのではなかろうか。 それまでの 1200~1500m規模の滑走路長は、ひとまず全てジェット機仕様の2000mまで拡張しなければならなかったのである。そしてこの実現のためには個々の空港の特質を検討する余裕は無いとして、計画の単純化を図り、ジェット空港は一律2000mに、需要の大きい空港はその上のランクとして2500mに、自然条件から明らかに2500mでは不足する場合は1ランク上の3000m化を目指した。それ以上の大型化は国内航空では不要であり、国際空港としては、アメリカの西海岸まででとするか東海岸を対象とするかで3500mあるいは4000mを選択した。 さすがに4000m以上は世界規格を超えるものであり、話題にされることはあっても規格外とされた。簡単に言えばこのようなことであったのであろう。もっと立ち至った言い方をすれば、滑走路長を細かく検討して予算要求を財政当局に対しすることになれば、事前の調査費も無視できないし、相手は面白がって止め処も無く質問を作ってくる。これを避けるために規格化が重要であるとどなたか策士の先輩が考えたのであろう。 この結果、空港の滑走路長問題については計画技術者は不要となり、空港にとって、滑走路の長さはブランド化し、国際空港都市を標榜したい自治体の首長さんは、将来の発展性に期待して格が高いと信じる大型の滑走路長を要望するまでになったのではと想像している。羽田空港にもし十分な空港能力が確保されていれば、需要の少ない地方空港からも小型機を利用した飛行頻度を配慮したサービスが展開していたはずである。
最近、われながら歳とともに斜に構えた発想が多くなったことは反省しているのであるが。
空港の形状計画において中核をなすものは滑走路計画であり、何よりも神経を使わなくてはならないのは滑走路の方向を確定する強風の方向である。尾輪時代の航空機(横風に極めて弱いの意)と言わないまでも、陸地の影響を受け、ある程度整流される陸上或いは陸地に近い海上に立地する空港以外は、四季を通じる強風に対処するため常識的にはクロスする2本の滑走路が必要となる。しかし、幸いなことに、我が国の空港は殆どが一方向の滑走路一本で済まされている。 発生時間の長い冬の季節風に対応出来ればあとは何とかなっているのである。半分冗談風に言えば、冬季風とは異って台風期の風は頻度も少ないことではあるし最初から諦めてしまえばよいのである。理由はその就航率に影響する程度は、昔あったエアラインのストライキと同程度であり、こちらを避けることが出来ないとするならば、最初から同じように我慢すればよいだろうと言ったものである。客商売の発想では勿論ない。
関連技術が発達し空港の就航率の改善につながるILSのカテゴリー化が実施されるようになってきた。濃霧による就航停止は停止時間が長いだけに、何らかの解決を図らねばならないが、滑走路の向きが悪く風により就航率が落ちる空港は、安全に関わる所があり、計画に当たってはより慎重でなければならない。土地問題、騒音問題がますます厳しくなるとき、安易に方向を誤ると将来に大変な禍根を残すことになる。パイロットの言葉で、昔、軍の空港であったところは飛びやすいと聞く。 小型機時代の飛行場は風向きに今とは異なる格段の慎重さがあったと想像される。風向きが悪いために就効率が落ちる空港を改善するためには、滑走路延長は何の役にも立たない。パイロットの気持ちを少しでも楽にさせるには、理屈の上では滑走路の幅員を広げるのも良いが、この策はあまり聞いたことがない。空港敷地内で滑走路の付け替えができればことは解決するが、新たに用地を取得してまで滑走路の向きを変えるのは大抵不可能である。
最近の航空機の技術進歩は相変わらず目覚しく、意識された結果かどうかは知らないが、着陸性能が高くなり、滑走路長は離陸距離で決まっているように思う。我が国の空港の滑走路は、なぜか法律で両方向からの離着陸を前提としており、主として、騒音問題から一方向のみの離発着しか無いとしても計画上、反対側の利用が無いとはしていない。勿論、進入復航による離陸を禁止することは出来ない。
新規空港の設置が殆ど考えられない我が国の空港計画で、空港の建設費に大きな影響を与える滑走路の長さを主とする滑走路のあり方は、そろそろ現状の規格を離れて原点に返る時に来ているのではないか。 すなわち、滑走路の必要長さは、パイロットが離陸に向けて、スピードを上げ、決心速度V1を越えて、その後はエンジンが一つ止まってもそのまま離陸し、滑走路を越えて一定の高さまで上昇できるか、あるいはその前にブレーキをかけて、滑走路の舗装部分で止まることができるかで決まるが、さらに細かく言えば、前者の離陸末端の最終は障害物が無ければ良いのであって、必ずしも舗装されているいわゆる滑走路でなくとも良いし、後者の末端部はめったにないことであり、いわゆる舗装強度を半減させたオーバーランの範囲でも良いことになる。 ただし、余裕を必要以上にとらないとすれば、航空機の揚力を確保するため、滑走路の標高や夏の高温、さらには、傾斜の有無までキチンと評価しなければならいのは当然である。これらの計算はICAOでも機械的にできるようになっており、全ての計画数値を航空機の運航者に提供すれば、極端な場合めったに無い飛行計画であれば、運航者は重量制限をするなど柔軟に対応することになる、立地条件の厳しい我が国においては、安易な規格によらず、所定の機材について、必要とされる安全を確保しつつ、如何に安価な空港を計画するか検討することは、計画者の義務ではないかと考えている。
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