飛行場計画技術研究会 小坂英治
百年前、人類が空を飛んで以来、航空機の能力は信じられないほどの勢いで進歩してきた。本命であるスピードでも飛行距離でも、また快適性でもこの事実を否定する者はまずいまい。人間社会との関わりで最大の課題である騒音問題、今後の課題である燃料効率に関しても、大幅に改善してきたし、なお、進歩の途上にあると言える。更には、航空機の運航を支援する航空管制を始めとする運航支援技術についても通信技術の進歩と相まって、今後とも進化の速度を増して行くであろう。
一方、航空機の離発着を受け持っている空港を眺めるとき、その計画技術は同じように進歩してきたと言えるだろうか。また、進歩しつつあると言えるだろうか。
航空機の大型化や高速化に対しては、飛行場としての受け入れ能力は充分機能を果たすだけの進歩を遂げているし、事実、世界の国際空港は、近年大空港時代を迎え、国々が国家の威信をかけているがごとく、つぎつぎと立派になっている。そして、世界のどこかで、毎日のように開かれている国際会議やスポーツ等のイベントは、何ら支障なく世界中から人々の参加を求め、その移動を可能としている。この事実からして空港の計画技術はかなりの勢いで進歩してきたと思われ、これも間違いのないことであろう。
しかし、我が国の空港整備のみに限って見てみると、我々の先輩たちが歴史の浅さもあり、まことに小規模・弱体の組織体制をもって作り上げてきた初期段階からあまり変化していないのではないかと常々考えてしまう。
一般の利用者の目に晒される旅客ターミナルや貨物ターミナルに関するかぎりは、快適性に優れた魅力的空港が増えているのは間違いないところである。しかし、それ以外については、安全に関わるところが多いせいもあり、また、世界に共通する基準もあることから、経験に基づく前例に従うことが多く、本来、関係する技術が日進月歩の時代であることを意識した柔軟性が基本にある仕組みが肝心であるにもかかわらず、それを忘れてきたように思う。
すなわち、スタート時に急いで導入した海外の表面的技術を今日に至るまで踏襲していると思うのである。
このため、技術進歩と共にあるべき諸基準まで法律等で縛られ、その後の運用の弾力性が阻害されているのである。例えば、空港整備の基本となる航空法第二条の定義の項を見ると、技術の面で、現実と相当に解離していることに気が付く。一般に各国は土地利用等それぞれ固有の問題を有しており、航空機の普遍性から世界に通じる最低の国際ルールは守らねばならないとしても、その国特有の柔軟な基準を持って対応することになっている。国際ルールもその巾を認めているのである。安全は絶対であるが、安全過ぎる必要は無いし、言葉で書かれたルールに拘泥し過ぎると安全性さえ低下させることがあることに留意しなければならない。
何故、我が国の飛行場の計画技術は、かく保守的に成ってしまったのか。
理由を挙げれば、一つに、航空行政をめぐる日々の急速過ぎる変化があり、また、騒音問題等による周辺地域とのトラブルがメディアによって厳しく糾弾され続けた過去のつらい経験があって、行政担当者はいつも余裕の無い状態を続けてきた。さらには、後発の公共事業に属するため、組織にも金にも余裕がなく、要するに担当者は忙し過ぎて、我が国独自の技術を育てることが出来なかったのである。これは勿論言い訳である。筆者も、我が国の短い空港整備の歴史からみると、貴重で且つ無視できない期間を行政の主要ポストにつき、その間、何ら誇るほどの成果も無く退官したことを打ち明けねばならない。 技術を売るべき担当者としては全く未熟のそしりを拭い得ない。今、思い返すと、ポストに付いた段階で、計画技術について何ら知識も問題意識も持っていなかった事実に思い当たる。ある程度言い過ぎをを覚悟して、筆者以外についても我が国独自の計画技術に関心を持ち、それを育て、継承していくことの重要性に実績を上げ得なかったと言えるのではないか。
空港整備のみならず公共事業全体が批判される時代である。遅ればせながら、主として空港の建設、さらには維持補修等に関し、いかに低コスト主義が再構築できるか、空港のあり方全体を眺めてみたい。メディアは我が国の空港整備のあり方に、近年、極めて批判的であり、新聞の紙面にもそのような記事を良くみかける。学者の講演記録でも、メディアの批判内容を基にした発表が間々見られる。我が国の空港整備が上手く行っているとは決して言わないが、メディアのうわさ話によって空港整備の歴史が作られていくのはかねて望ましいことではないと考えている。我々の歴史は我々自身で整理し分析しなくてはならない。
幸い、この度、SCOPEのご好意でコラムの一郭をお借り出来た。あまり語られることのない空港整備に関する計画技術論について、同好の志を募り勉強するとっかかりを得たいと考えている。次回以降、自らの反省等を参考に供しつつ日ごろの思いを述べてみたい。
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